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早大大学院・川本裕子教授「非対面でも信頼は築ける」

川本裕子(かわもと・ゆうこ)氏 早稲田大学大学院教授。東京大学卒、英オックスフォード大学大学院開発経済学修士。 マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社、パリ勤務などを経て現職。専門は金融論、企業統治。国内外の企業の社外役員、 国家公安委員会委員など歴任(写真:尾関裕士)
日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにしました。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。今回は企業統治などを専門とし、国内外の企業の社外役員を歴任してきた早稲田大学大学院教授の川本裕子氏に、働き方や日本の企業・組織の変化を聞きました。

――新型コロナウイルスは社会にどのような影響を与えたと見ていますか。

「新型コロナがなければなかなかできなかった様々な社会実験を強制的に実施することになりました」

「都市生活のあり方は大きく変わると思います。もちろん地方に移住する人もいますが、内閣府の調査を見るとそう考えている人は20代で2割程度。大きく変わるのは都市の中での生活ではないでしょうか。オフィスに行くのが週1~2回程度なら、都心から離れて住環境の豊かな場所に住む動きも出てくる。この流れは新型コロナの感染拡大が落ち着いても変わらないような気がします」

「今後は、変わるものと変わらないものを見極めていくことになります。オンラインでできるものと、マスクをしてでも会って話す必要があるものを仕分けていくということです」

――個人的には、何度か会っている人ならオンラインで取材をしてもいいですが、初めての人は対面で会いたいと思います。やっぱり会ったほうが信頼関係が築きやすい。

「それも神話かもしれません。例えば、テレビに出ている芸能人に好意を持ったり、専門家の言葉に納得したりということはよくありますよね。私たちは昔から非対面でも信頼関係を築いているんです。書籍を通して、著者の意見に納得し信頼を寄せることもあります。私も2002年に道路関係四公団民営化推進委員会の委員として頻繁にテレビに出ていた頃、街中で応援の声をかけられていました。こういうふうに非対面でも関係が築けるのだから、オンラインでの仕事でもできるのではないかと思います」

「よくいわれることですが、日本の課題は過去の成功体験に縛られてしまうことです。今、組織のトップにいるような人は、長年フェース・トゥー・フェースで仕事をしてきた人が多い。そういう方は「オンラインでは信頼が築けない」と言うかもしれません。でもその経験は必ずしも、これからの働き方に当てはまるとは限らない。コロナ禍で車も家もオンラインで売れると分かりました」

――「オンラインではできない」とはなから決めつけるのではなく、オンラインでどうしたらできるかを出発点にして考えていく。

「そう、デジタルネーティブの若者の意見も取り入れていったらいいと思います。途中で出世コースから外れた人の意見を聞くのもいい。今の体制とは違う視点で意見を言ってくれるかもしれません」

「オンラインは対面の代替手段のイメージがあるかもしれませんが、対面とオンラインの2本立てでやってもいいわけですよ。効果や効率性の観点からどちらが適しているか選べばいい。オンラインで相手を説得するには、今までとは違う能力が求められるかもしれません。新しい時代に身につけるべきスキルを考える時期なんだと思います」

同じことを30年間言ってきた

――会社のあり方も変わりますか。

「コロナ禍は、当初思ったよりも歴史的な転換点になるかもしれません。職住近接だった農業社会から、近代社会になり、ヒエラルキー化した組織でルールに基づいて仕事をするようになりました。その後デジタル化によって、技術的には昔のように職住近接が可能になりましたが、動きは鈍かった。でも新型コロナの感染拡大で変わるかもしれない」

「日本の組織の強みは、同一性が高い人が集まり、場所と時間を同じくして働くというものでした。それを変えるのは大変かもしれませんが、次の働き方を模索するべきなんだろうと思います」

――ジェンダーギャップについてはどう考えていますか。コロナ禍で一斉休校措置が取られた際には、「子育て中の働く女性が大変」という声が上がりました。本来であれば子育て中の男性も大変なはずですが、女性側のことばかり強調されて、まだまだ男女の差があると思いました。

「『子育て中の女性』という言葉自体が、性別役割分業意識の表れです。子育て中の男性とはあまり言わないですよね。男女の役割分業意識があまりにも強すぎるから、こういうときにゆがみが出るんだと思います」

「政府の第2次補正予算では、雇用対策にはすごくお金を使い、ひとり親世帯についても予算を割いていますが、そうでないところにはほとんど出していません。お母さんが家にいるという前提だから、こういうことになってしまう」

――意識は根深い。

「女性に負担がかかっているのは世界的な傾向ではあります。でも日本は、世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で121位ですから、意識を変えていく必要があります。『女性には結婚、出産というイベントがある』と言いますが、男性にだってありますよね。出産は女性のものかもしれないけど、それ以外は2人のものです。そこを直さないと」

「考えてみると、私は30年間同じようなことを言っています。でもユーグレナの出雲さんが言っていたように(関連記事:ユーグレナ出雲氏の達観「それでも日本は変わらない」)、言い続けなければいけない」

「うちの夫なんかは赤ちゃんを抱いて保育園に行ってくれたけど、当時は少数派でした。でも今はベビーカーを押している男性がすごく増えた。日本はあまりにも変化のスピードが遅いのでまるで変わっていないように感じられますが、少しずつは変わっています」

(日経ビジネス 白井咲貴)

[日経ビジネス電子版2020年9月1日の記事を再構成]

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