地方票、党員投票省略なら比重減 自民党総裁選

自民党は安倍晋三首相(党総裁)の後継を選ぶ総裁選の実施形式を1日の総務会で決める。党員・党友による投票を省いた方式で実施する調整が進む。国会議員票と党員・党友票による通常の方式よりも、地方票の比重が減ることから党内で異論もある。
小林史明青年局長は8月31日、党本部で二階俊博幹事長に党員投票の実施を求める党所属国会議員145人の署名を提出した。自民党議員の4割弱にあたり、衆院当選3回以下の若手議員を中心に現閣僚や閣僚経験者らも名を連ねた。
小林氏は会談後、記者団に「コロナ禍の緊急時こそ幅広い国民の支持を得た強いリーダーが必要だ」と述べた。
小林氏によると、二階氏は「主張はもっともだ。慎重に検討する」と答えた。二階氏は28日の記者会見で党員投票を省略する方針を示唆した。

総裁選の方式により、地方票を反映する仕組みやその比重が変わる。
総裁選は通常、3年の任期満了時に実施し、国会議員票とそれと同数の党員・党友による地方票の合計数で競う。地方票は2014年の総裁公選規程の改定で国会議員票と同数に増やした。
党所属の国会議員は現在、衆参両院議長を除き394人いる。通常の方式で実施すると、議員票394票と地方票394票の計788票を争うことになる。
地方票は党員・党友による全国の投票結果に応じ、党本部が「ドント方式」と呼ぶ機械的な計算で各候補に配分する。
今回のように総裁が任期中に辞めるといった緊急時は、党則の定めにより党員投票がない両院議員総会で選出できる。この場合、議員票は394票のままだが、地方票は47都道府県連に3票ずつ割り当てるため141票となる。
任期満了時の総裁選と比べ250票以上減る。票全体に占める地方票の割合は減り、国会議員による多数派工作が勝敗を分けやすくなる。
各県連に割り当てられた3票を誰に入れるかは各県連の裁量となる。県連会長に一任したり、県連独自の投票で配分を決めたりする。県連会長は国会議員が務める事例は多く、その議員がどの派閥に属すかも県連票の配分を左右する。
出馬に意欲を示す石破茂元幹事長は総裁選への対応に関し、党員・党友投票が実施されるかどうかを見極めて判断する考えを示す。
石破氏は日本経済新聞社が29~30日に実施した緊急世論調査で「次の首相にふさわしい人」でトップの28%の支持を集めており、地方票の支持に期待を寄せる。
自民党は地方票を1978年の総裁選で初めて導入した。派閥の数の力を背景に総裁選で勝った田中角栄氏が76年にロッキード事件で逮捕され、派閥の論理に基づく総裁選出に党内外で批判が高まっていた。
地方票が総裁選の動向を左右した例がある。01年総裁選は主要派閥からの支持を見込む橋本龍太郎氏が本命視されたが、地方票で圧勝した小泉純一郎氏がその勢いのままに議員票でも勝った。
このとき県連票はそれまでの1票から3票に増えた。一部を除く県連が実施した予備選を巡り、1位になった候補が3票を総取りする方式を決めたことが、小泉氏を支持する地方の声を増幅させたとみられた。
地方票の獲得数が総裁選後の閣僚・党役員人事に影響することもある。
12年総裁選では地方票トップの石破氏は第1回投票で首位だったが、国会議員による決選投票で安倍氏が石破氏を上回った。首相に就いた安倍氏は直後の人事で石破氏を党幹事長に起用した。