守りの姿勢強める個人投資家 波乱相場に備え

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2020/9/1 2:00
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写真はイメージ=PIXTA

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個人投資家の間で、投資スタンスを保守的に見直す動きが広がっている。安倍首相の突然の辞任表明による国内政局の混乱や秋の米大統領選に向けての相場の波乱、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞などのリスクを警戒しているためだ。足元の株式市場は堅調でも、二番底への懸念は捨てきれないという投資心理が透けて見える。

■波乱見越し「ほぼ現金化」

「今はポートフォリオに占める現金比率を8~9割にまで高めている」。専業投資家のにゃんこ専業トレーダーさん(ハンドルネーム)はこう明かす。中小型株の中長期保有を得意としているが、保有株式は8月上旬で全て手放した。「年内は新規の買いに動く予定はない。現在は日経平均オプションのコール(買う権利)とプット(売る権利)を売っているが、いつでも買いに転換して相場がどちらに大きく動いても利益を取れる態勢にしている」という。

背景にあるのは11月の米大統領選の不透明感だ。現在世論調査で優勢とされる民主党のバイデン氏は、株式の売却益にかかるキャピタルゲイン課税の増税を公約として打ち出している。実行されれば米株相場への影響は必至だ。トランプ大統領が再選されても、「選挙を意識しなくて済む分、1期目ほど株式市場を重視した政策は打たないのでは」と、にゃんこさんは警戒モードを解くつもりはない。

■相場上昇も個人は売り越し

8月の日経平均株価の騰落率は前月末比で約7%高と、過去10年で最も高い水準だった。日経平均は一時2月21日のコロナショック到来前の水準を上回り、市場には楽観ムードも漂う。ただ、主な買い手は海外の短期筋との見方が多い。8月第1週から第3週までの投資主体別売買動向(現物)は、海外投資家が5156億円の買い越しとなる一方で、個人は5395億円の売り越し。個人の慎重姿勢は鮮明だ。

「個人投資家の心理は短期派と長期派で二極化しており、後者は投資に慎重になっている」(松井証券の窪田朋一郎氏)との指摘もある。中小型株の激しい値動きに乗って短期売買するモメンタム投資を得意とする個人投資家が大きく利益を上げる一方で、じっくり成長を待つ長期派の個人の多くは思うようなリターンを取れていない。秋以降の相場の不透明感が強い中、一旦売買を手控える動きが長期派に広がっているようだ。

■保有銘柄を「保守化」する動きも

とはいえ、積極的に下落相場で利益を取りにいこうとする動きはあまり目立たない。

例えば株安に備えたヘッジ対象として人気のインバース型ETF(上場投資信託)の売買高は、8月に入って急減している。株高で価格が低迷している上、「二番底懸念が強かった3~4月に膨らんだ信用買い残の期日が9~10月に迫っている」(楽天証券経済研究所の土信田雅之氏)中、含み損をかかえた個人は身動きが取れなくなっているからだ。

そうした中、ポートフォリオの変更で守りを固める動きが出ている。コロナ禍が長期化した場合でも利益を出せるような企業に、投資先を振り向けているわけだ。

個人投資家のさびどめさん(ハンドルネーム)は、医療情報のエムスリーを買い増した一方、それまで保有していた日本モーゲージサービスを8月に全株売った。背景にあるのは、「コロナ禍後の新しい生活様式が決して逆風にならないポートフォリオにする」という考えだ。エムスリーはコロナ禍で医師向けの医薬品情報サイトの利用が急増。「ウィズコロナ」の代表的銘柄だ。

さびどめさんがエムスリーを買ったのは5月中旬。それから断続的に買い増し、現在同株がポートフォリオ全体に占める比率は28%に達する。エムスリーは購入時から既に約7割近く上昇しているが、「次の主力と位置付けて当面は保有し続けたい」という。

国内外15カ国の高配当・増配株に投資する桶井道(おけいどん=ハンドルネーム)さんも、「コロナ禍をチャンスにするようなポートフォリオにしている」と話す。8月にはイスラエルでコールセンターなどを手掛けるNICEの米預託証券(ADR)を新規購入した。

桶井さんは「コールセンターの在宅化需要にいち早く対応している上、事務の自動ソフトウエアロボットによる人員抑制など、同社が手掛ける事業の多くがコロナ禍のピンチをチャンスに変えられている」と評価している。同社の20年4~6月期決算は、コロナ禍の中でも増収増益を確保するなど堅調だ。「NICE以外でもカナダの通信大手BCEなど、コロナに耐性のある銘柄を組み入れることで万が一の二番底に備えている」という。

■高まる先行き不透明感、身構える個人

相場の先安観は、現状そこまで強いわけではない。

日経平均オプションのプットの売買高をコールの売買高で割った「プット・コール・レシオ(PCR)」は、8月に入り1.8倍台で膠着している。コロナショック後の反騰局面のPCRは2倍近くだったことを考えると、「先行きは不透明で二番底は怖いが、それが本当に来るかまでは自信がない」というのが多くの個人投資家の本音だろう。

ただ、新型コロナの世界的な感染拡大は収束する兆しはない。国内政局の不安定化や米中対立の激化、バイデン氏当選時の政策リスクなど、秋以降の株式市場には急落の芽が幾つも存在している。株式市場が比較的落ち着いている間に、個人投資家は相場がどちらに動いても対応できる姿勢を取ろうとしているようだ。

(川路洋助)

日経マネー 2020年10月号 アフターコロナの配当生活入門

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/8/21)
価格 : 750円(税込み)

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