FRB、恐れた「日本化」 物価2%超で期待回復狙う

2020/8/28 4:33 (2020/8/28 4:49更新)
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【ワシントン=河浪武史】米連邦準備理事会(FRB)は27日、ゼロ金利政策を長く続けるため「物価上昇率が2%を一時的に超えることを目指す」とする新しい指針を決定した。物価が慢性的に上がらなくなるのを恐れた苦肉の策だが、インフレ率を高める金融緩和の具体策は極めて手薄だ。

パウエル議長は同日、オンライン形式の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で「常に変化する経済の新しい課題に適用する必要がある」などと説明した。

FRBは2012年から2%の物価上昇率を公式目標にしている。27日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が公表した声明文では、物価目標を「一定期間の平均で2%」と切り替え、2%を長く下回った場合は「当面は2%を緩やかに超える物価上昇率を目指す」と明記。ゼロ金利の長期化を事実上宣言した。

2%超の物価目標は簡単には達成できない。12年以降、物価上昇率は2%を下回ることが多く、2%を達成したのは18年11月が最後だ。にもかかわらず物価目標を事実上引き上げたのは、家計や企業の「予想インフレ率」を高めたいからだ。

パウエル氏は講演で「予想インフレ率が下がれば、実際のインフレ率も下がる悪循環に陥る」と強く警戒した。企業や家計が先行きも物価が上がらないと判断すれば、賃上げや値上げを控えて、日本のように慢性的に物価が上がらなくなる。FRBが重視する5年後の予想インフレ率は19年末に2.2%まで下がり、統計がある1970年代以降で最低だ。

そもそも主要中央銀行が0%ではなく2%を物価目標としてきたのは、金融緩和の余地をつくるためだ。2%のインフレ率があれば、政策金利をゼロにすることで2%の実質マイナス金利を実現できる。インフレ率がゼロなら、政策金利をマイナスにしなければ実質金利を押し下げられない。

新型コロナウイルスによる経済危機によって、FRBは3月にゼロ金利政策と量的緩和政策を復活させた。今回の物価目標の修正は、インフレを市場に期待させることで、金融緩和の効果を高める狙いもある。

ただ、米国はコロナ危機前から金利や物価がそろって鈍化する「低温経済」に陥っており、金融政策は構造的な限界を迎えていた。直近まで10年超の過去最長の拡大局面だったにもかかわらず、政策金利は最大2.25~2.50%どまりだった。FRBは過去の景気悪化局面で、平均5.5%も利下げしてきたが、その緩和余地をつくれない。

パウエル氏は政策金利を引き上げられない理由を「世界中で一般的に金利水準が下がっているためだ」と述べた。同氏は物価を冷やさず加熱もしない「中立金利」の水準に触れて「FOMCの推定では、中立金利は12年の4.25%から現在は2.5%まで下がっている」と指摘した。政策金利が2.5%を超えただけで引き締め圧力が強まることを意味しており、政策余地は極めて乏しい。

中立金利は、インフレ率が高まればその分だけ上振れする。ただ、米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン所長は「インフレ率を決めるのは需要の増加などいくつもの要因があり、FRBの目標修正だけで物価の過熱を実現するのは難しい」と断じる。

中立金利を大きく左右するのは潜在成長率だ。パウエル氏はそれも「12年の2.5%から現在は1.8%に低下した」と話す。潜在成長率を引き上げるには労働力人口と生産性を高める必要があるが、物価目標の修正ではとても実現できない。FRBも緩和強化へマイナス金利など次策を迫られる可能性がある。

FRBの苦肉の策の効果は未知数だが、各中銀の物価目標の見直し論につながる可能性はある。FRBの金融緩和が長引けば、ドル安などで各国の為替レートに影響するためだ。実際、27日のジャクソンホール会議では、カナダ中銀のマックラム総裁が「物価安定策の国民議論を開始し、21年に金融政策の枠組みを再点検する」と物価目標の見直し論に言及した。

同会議のテーマは「今後10年間の金融政策の航路」だが、大胆な緩和手段はどこからも出てこない。コロナ危機下の中央銀行の苦悩がにじむ。

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