米、対イラン追加措置に苦慮 包囲網に乱れも

2020/8/27 19:30
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イラン西部アラクの重水炉(2019年12月、一部メディアに公開)=ロイター

イラン西部アラクの重水炉(2019年12月、一部メディアに公開)=ロイター

【ワシントン=中村亮】トランプ米政権は国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れ方針に転じたイランへの疑いを捨てず、同国に対する経済・外交両面の圧力を続ける方針だ。だが、対イラン政策は欧州との違いが多く、具体的な追加措置で苦慮する。国連制裁再開などを強く主張すれば整えてきたイラン包囲網が乱れる可能性もある。

イランは26日、査察を受け入れる考えをIAEAに伝えた。対象になるのは2003年ごろ極秘で核関連活動を進めていたと指摘されてきた2つの施設だ。IAEAやイランは具体名を上げていないが首都テヘラン、中部イスファハン近郊にそれぞれあるとみられる。

米国の事実上の同盟国イスラエルが、未申告の核活動などが実行された可能性を指摘していた。

米国務省は26日、イランの姿勢転換が「(完全な協力に向けた)最初の一歩にすぎない」と主張し、慎重な姿勢を崩さない。IAEAがこれまで求めてきた査察や情報提供にすぐ協力しなかったと例示し、イランを隠蔽体質だと決めつけた。

査察受け入れはイランに核兵器を保有させないと宣言しているトランプ政権にとって前向きに評価できるはずだが、これだけでイランの核開発に関する疑惑が消えるわけではないという構えだ。

米ハドソン研究所のピーター・ラフ上級研究員は「査察がどれほど価値のあるものになるかは不明だ」とみる。実際にイランが査察対象の施設で核兵器製造につながる活動をしていた場合でも、疑惑の浮上から長い時間がすぎ、すでに証拠となる物質などが除去された可能性は否定できない。

ラフ氏は、イランが対象の2施設での活動の詳細をIAEAに申告しない限り、包括的な査察は難しいとも指摘する。

トランプ大統領は、オバマ前政権がまとめたイラン核合意が同国の核開発を十分に抑制できていないと批判し、18年に離脱を表明。代わりにイラン産原油の輸出禁止や金融部門の制裁措置でイラン経済に打撃を与えた。トランプ政権はイランによるウラン濃縮の完全停止などを盛り込む、新たな核合意を求めていた。

イランは米国が望む新たな核合意に同意する姿勢をみせない。IAEAのメンバーとして平和目的の核開発を進める権利を持つと主張しているからだ。ワシントン近東政策研究所のマイケル・シン専務理事は「トランプ政権は今後も経済や外交面でイランへの圧力強化を目指す」と見込む。

中東・アフリカ諸国を歴訪中のポンペオ国務長官は26日、ツイッターで「湾岸諸国の結束を強化してイランの脅威に立ち向かう」と強調した。イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化合意を仲介したのはイラン抑止に向けた3カ国の連携強化が狙いだ。UAE以外のアラブ諸国にもイスラエルとの国交正常化を促している。

米国にとって当面の課題は欧州との関係だ。ドイツ、フランス、英国はイラン核合意に残り、米国と対立してきた。イランが査察を拒んでいるうちは米欧は一枚岩で批判していたが、事情が変わった。ラフ氏は、イランが「米欧の結束を防ぐため」査察を受け入れる方針に転じたと分析する。

国連でトランプ政権は孤立気味だ。20日にはイランへの武器禁輸などを含む国連制裁の完全再開に向けた手続きを始めたが、イランへの武器売却の機会をうかがう中国やロシアだけでなく、英仏独も批判する。核合意から離脱した米国に制裁再開を求める権利はないという解釈だ。仮に米国が今後、国連制裁が再開されたと独自に解釈し、違反した個人や企業に制裁を科すシナリオは残る。

米国がほかの国の協力を得られなければイラン封じ込めの効果は小さい。中ロは反米を軸にイランとの関係を強化し、米国が禁じているイラン産原油の取引も続けているとみられている。

11月の米大統領選では、野党・民主党の候補であるバイデン前副大統領がイラン核合意への復帰に前向きだ。米情報機関はイランがトランプ氏の再選を妨害するためSNS(交流サイト)で偽情報を拡散させていると考えている。イランは今後、米大統領選の行方をにらみながら対米方針を修正していくとみられる。

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