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家電・家具の次は建売住宅(苦瓜達郎)

三井住友DSアセットマネジメント シニア・ファンドマネージャー

建売住宅会社の株価が上昇している(オープンハウスの看板)

新型コロナウイルスの流行で日本経済は大打撃を受けていますが、一部の業界では逆に特需が生じています。まず、流行の第一波では備蓄可能な食品や日用雑貨の買いだめ需要が発生しました。ドラッグストアや食品スーパーがその恩恵を受け、チラシによる販売促進を停止せざるを得なくなったことも加わり空前の利益を計上しました。

流行の第一波が峠を越すと、外出自粛の緩和もあり、人々の興味は耐久消費財にも向くようになってきました。在宅勤務をはじめとしたライフスタイルの変化への対応という新たな需要の発生に加え、特別定額給付金などの支給も加わり、家電製品や家具、DIY商品の販売が急回復しました。ドラッグストアや食品スーパーに一歩遅れる形で、家電量販店やホームセンターものきなみ高収益を記録しました。

そして、家電製品や家具、DIY商品からさらに一歩遅れる形で、回復基調が顕著になってきたのが一戸建ての建売住宅です。主要デベロッパー各社の第1四半期決算は、消費税増税に対する駆け込み需要の反動で滞留した完成在庫の値引き販売による影響で一見ぱっとしませんが、しっかりと回復の手ごたえを感じているもようです。

建売住宅好調の要因は、家電製品や家具、DIY商品と同様に、新型コロナの流行によるライフスタイルの変化です。多くの企業で在宅勤務が奨励されましたが、執務に適した環境を整えられる家庭は必ずしも多くなく、強いストレスを抱えながら仕事をしている会社員は少なくありません。現在の住居を手狭と感じている人々にとって、より広い住宅への引っ越しはかなり切実なニーズと言えるでしょう。

また、在宅勤務が常態化すれば、会社の近くに住むメリットは縮小します。通勤に便利な集合住宅から、多少都心から遠い、あるいは最寄り駅から遠いとしても、より広く個室や執務スペースの確保ができる戸建住宅へ転居することは、必ずしも大きなマイナスにはならないかもしれません。

戸建住宅が好調な要因としては、もう一つの選択肢と言える分譲マンションが、建築費の高騰により手の届きにくいものとなったことも影響しています。鉄筋コンクリート製を中心とする分譲マンションは、施工人員確保の面でビルや工場と競合することもあり、ここ数年間でどんどん価格が上昇していきました。一方、建売住宅の大半は木造であり、住宅需要が長期的に伸びていないことから建築費も比較的安定しています。

この勢いがどれだけ続くかは、今後の感染状況なども関係するため、かなり予測が困難です。しかし、仮に流行が順調に収束するとしても、在宅勤務はそれなりの形で社会に定着するでしょう。住宅の取得は人生を左右する決断なので、それに関わる変化は一時的な流行では終わらないと思われます。

第1四半期決算発表後、主要デベロッパー各社の株価は業績回復期待からそれなりに上昇しましたが、それでも今期予想PERは高くても10倍前後にとどまっています。企業としての差別化が難しく過当競争に陥りがちな点、常に在庫リスクを抱えながら事業を進めなければならない点から、PERが低めに評価されること自体は妥当と考えていますが、再評価の余地はまだ存在するかもしれません。

一方、建材メーカー各社の株価は大半が低迷を続けており、PERも低水準にとどまっている企業が多く存在します。建材に対する需要は、消費増税駆け込みの反動で低迷していますが、建売住宅向けに関しては在庫調整から一転して積極的な新規開発が行われると予想されるため、今上半期が底で下半期以降回復すると予想しています。

ただし、大手建売住宅向けの建材は一般的に利幅が薄く、収益の本格回復には他分野の回復が不可欠です。分譲マンションに関しては、なお建築費が高止まりしているため、当面は低水準が続くでしょう。ただし、中期的に建築費が低下すれば、安価な郊外物件の需要は増加すると考えられます。

注文住宅に関しては、中心となる建て替え需要が外部要因の影響を受けにくく、目立った動きはまだ観測されていません。しかし、ライフスタイルの変化はこの分野にもいずれ影響を与えていくでしょう。また、賃貸住宅に関してはプラスマイナス両方の要素が考えられますが、例えば仕事場用の狭小物件といった新たなニーズが生まれる可能性はあると考えています。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
苦瓜達郎(にがうり・たつろう)

1968年生まれ。東京大学経済学部卒業後、91年大和総研入社。アナリストとして窯業やサービス業の担当を経て中小型株を担当。2002年に当時の大和住銀投信投資顧問入社。中小型株ファンドの運用に携わる。

[日経ヴェリタス2020年8月30日付]

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