『MIU404』主演の綾野剛 「少年マンガの成分で役作り」
綾野剛インタビュー(上)
近年は映画出演が多かった綾野剛。6月からは、『ハゲタカ』(2018年)から約2年ぶりとなる主演連続ドラマ『MIU404』が放送されている。彼が演じるのは、警視庁の臨時部隊「第4機動捜査隊」に所属する、運動神経はピカイチだが刑事の常識に欠ける伊吹藍。ダブル主演の星野源がふんする、常に先回りして道理を見極める志摩一未とバディを組む。綾野は『MIU404』が自身に変革をもたらしているのだという。作品への思いと、現在と未来の自分について語ってくれた。上下の2回に分けてインタビューをお届けする。

「先日、アメリカから(小栗)旬が電話をくれたんです。『俺が伊吹やりたい』って。あと(田中)圭からも『MIU404、めっちゃ面白い』と連絡が入って。2人とも同じ事務所だけど、お互いを認め合えている仲間から改めてそう言われると、うれしくてうれしくて。伊吹をやりたいなんて、最大の褒め言葉です。2人に背中を押してもらって、一段と気持ちが高ぶりました」
このインタビューの写真撮影で仕事現場を訪れた際、ハードスケジュールにもかかわらず、笑顔で話しかけてきた綾野剛。数々の受賞歴もあるトップ俳優で、17年のキャリアを持つ彼をここまで奮い立たせ、「転機になった」とまで言わせる作品が、現在星野源とダブル主演しているTBSの『MIU404』だ。
事件の初動捜査をする警視庁の「機動捜査隊」に、4つ目の架空の臨時部隊が作られたという設定。機動力抜群の"野性のバカ"である伊吹藍(綾野)と、自分も他人も信用しない理性的な志摩一未(星野)による"第4機捜"のバディが、数々の事件を乗り越えていく。野木亜紀子脚本、塚原あゆ子監督、新井順子プロデューサー、主題歌は米津玄師という、18年に高評価を得た『アンナチュラル』の座組。松下洸平、岡崎体育、渡辺大知といったゲストの面々や、菅田将暉が第3話以降に謎の人物として登場するなど、さりげない脇の出演者のインパクトも大きく、ここに集まる"熱"は、近年の新作ドラマで最高峰だと感じさせる。
まずはこの『MIU404』の話から。ドラマ撮影終了後の移動中の車の中から、リモートで取材に答えてくれた。
「伊吹という役に向かっていくための準備は…そうですね、警察や機動捜査隊ということでの職業的な役作りは特にしていません。どちらかというと、伊吹の精神や気持ちの強さをどう作っていくか。その1つとして、撮影がスタートする前から毎日少年マンガを読んでます。『ドラゴンボール』から始まり、今は『グラップラー刃牙』の次の次、『刃牙道』を読み終わって、『バキ道』に入ったところです。例えば『週刊少年ジャンプ』は、『友情」『努力」『勝利」が3大原則ですが、そんな少年マンガの成分だけで伊吹を作り始めました」
伊吹は感覚的なところで動く危なっかしさがある一方、純粋な心を持つ真っすぐなキャラクター。綾野のこれまでの役のイメージにはあまりなかった、ピュアな表情が際立ち、新鮮に映る。そして相棒となる星野源とは、産科医療をテーマにした『コウノドリ』で、ライバルかつ、信頼する同期の産婦人科医を演じた間柄だ。
「みなさんにとって伊吹がサプライズになったのならよかったです。僕自身、役者としてこれからも驚いていただける可能性を探していくきっかけにもなりました。
源ちゃんとは、命と寄り添う作品に共に向き合って、戦って、乗り越えた大切な仲間ですから、絶対的な安心感がある。そしてお互いに野木脚本を生きた経験があるという共通点(※)。この企画の相棒は彼しかいないです。『コウノドリ』の第2シーズンから約2年半たって、星野源という人がいろんなものに立ち向かったことが、この作品でアウトプットされてるような気がしてます。どうしてもインプットが少なくなる仕事ですが、『MIU404』でニュースタンダード、ニューバディを掲げてやっているなかで、現場や源ちゃんからもインプットできるものがたくさんあります。
(※)星野は連ドラ『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)と、今年秋公開予定の映画『罪の声』で野木脚本を経験。綾野についてはインタビュー(下)で紹介する。
バディものの既視感、既存感、言ったらキリがありません。出尽くしてると正直に思います。だからこそ、新しいバディのモデルケースを作りたい。陰と陽、クールや情熱だけじゃなく、キャラクターという考え方から、人物という捉え方に我々も変化していくことが大切です」
"刑事ドラマ"と一括りにされてしまうところを、新しいものを見せていこうと果敢にトライする、その姿勢はいつ生まれたものなのか。
自分が感じた"初めて"は連鎖する

「お話をいただいた時点です。今、どのクールでも刑事ドラマをやっていますが、僕は1つも古いとは思わない。みんな工夫されてますよね、とても。そんな状況で、じゃあ一体何が新しいのか? 誰かにとって、自分にとって新しいとは何なのかを、ドラマに携わるみんなが意識して、証明していくべきだと思います。
僕にとっては『アンナチュラル』は新しかった。それこそ、有名になってしまった『PCR法』という言葉も出てきてたわけですが、そういうことではなく、刹那の隙間をのぞいているような、『こんな機微に爆破以上のスケールが存在するのか』という着眼点があったから新しかったんです。
『MIU404』ではカースタントや派手な表現もありますが、そういうこと以上に、感情のスケールが大きい作品にしようと、クリエイターの目線で考えています。特に4話の台本が上がったときは驚いて。ドラマでは今まで出合ったことのない、『新しいスケール』と思える素晴らしい台本でした。もはや私小説のような読み応えで。自分たちが『こんなの初めて』と感じて、その姿勢を貫くことができれば、きっと誰かに伝わり、連鎖していくと思うんです。
作品にのめり込むのは自分たちではない、見てくれている人たちだってことを、塚原さんや『MIU404』の現場は真剣に考えています。だから、僕たちのキャラクターがどう見えたらいいか、なんてことは一切気にしてない。役者としては『見せ場』など、そういった観点も必要ではありますが、それが1番ってことはありません。現場主義、作品先行がすべてですから。
そこに向き合えばおのずと役は魅力的になる。僕たちが役を通して、気持ちが前のめりになることもあるけど、見ている人に『分かる』とか『そうだよね』と親近感を持っていただくことが第一歩です。そこからみんなをジェットコースターに乗っけて、『見たことない景色を一緒に見よう』と連れていきたい」
こちらの質問に真摯に答えながら、「でもこうやって芝居のことを語るのは、どうなんだろうって」と本音をもらす。『MIU404』によって、語りたいことがまた出てきているようにも見受けられるが。
「どうなんですかね。芝居でしか語ることが許されないって、どこかで思ってるんです。語れば語るほど、役が劣化する。僕、昔から奥二重だとか、髪がちょっと天パとか、特別な特技があるわけでもないし、人並みにコンプレックスがあって。今現在は、役者という職業が最大のコンプレックスだったりします。
自分が出演したものを見たりすると、「むむむぅーーー」って目をふさぎたくなる瞬間ばかり。昨日もあるシーンを撮影して、「芝居って難しいな」ってボヤきながら帰ってきたんです。帰ってきてからもそのシーンを何度も復習。そんなことが毎日、毎回だったりします。自分の羞恥心と向き合いながら、それでも役者をやってる以上は、「逃げない」って決めて。
今日はこうやってリモートで、僕は帰りの時間を利用して、車中からお話させてもらっていますけど、聞いてくれる人がいるって、やっぱりうれしくって。饒舌になっちゃいますね。本当は会ってお話したいけど、いろいろと制限があるから」

(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2020年9月号の記事を再構成]
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