中古マンション、所在区や駅からの距離で価格格差も
20代からのマイホーム考(7)

2013年以降、東京23区の中古マンション価格は上昇傾向が続いてきました。しかし、今年の第2四半期(4~6月)における日本の国内総生産(GDP)が前期比で7.8%減、年率換算では27.8%減少したと報じられる中、今後の中古マンション価格はどのように推移していくのでしょうか? 今回は、今後の23区中古マンションの価格トレンドの方向性について、この7年間を振り返りながら考えてみたいと思います。
緊急事態宣言下でも価格は横ばい傾向
まずは、今年1月から7月までの動きについて見てみましょう。次の2つのグラフの通り、23区の中古マンションは、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言で、4月、5月の取引件数が前年同月比で大幅に減少し、平均成約単価は一時、低下しました。しかし、7月には取引件数も平均成約単価も盛り返しています。
一方、成約物件の多くが築年数の古いものだった、比較的単価の低い地域のマンションが多く売れたといった場合には平均成約価格は下がりますので、そうした品質を調整した価格指数を作ってみると、緊急事態宣言下でも価格は横ばいであったことがわかります。実際、現場では「価格が下がったという感覚はない」との声が多く聞かれました。
しかし、価格は横ばい傾向とはいえ、昨今の経済状況に鑑みればトレンドが変わる可能性も否定できません。


立地格差が広がった7年間
今後、仮に価格トレンドが変わると想定するなら、その動きを占うためにも、価格上昇が続いた13年から20年までの23区の中古マンション価格動向を振り返っておく必要があるでしょう。
東日本不動産流通機構に登録された13年8月以降の23区の中古マンション成約データ約10万件を利用し、20年7月までの価格推移を、「23区すべての中古マンション物件に共通して上昇した単価」と、「個別に変動した単価(所在区、最寄り駅からの距離、築年数、所在階など)」に分けて分析したところ、後者のうち「所在区」と「最寄り駅からの距離」に関して大きな特徴があることがわかりました。
まず、所在区ごとの価格推移の傾向を見ると、所在区によって傾向が異なるのです。次に示したグラフは、8つの区について表したものです。千代田区、港区、渋谷区は13年以降、価格が上昇する傾向を見せています。それ以外については、13年から15年ごろまでは上昇傾向を見せていたものの、それ以降は横ばい傾向となっています。

もちろん、ここに示した傾向に加えて、「共通して上昇した単価」がありますので、どの区でも価格の上昇は見られました。しかし、所在区によって価格上昇の傾向に格差が生じたということがわかると思います。
次に、最寄り駅からの距離です。最寄り駅からの徒歩時間が1分長くなると単価がいくら下がるかということを、13年以降の動きについて表したものが次のグラフです。14年ごろまでは1平方メートルあたり9000円程度の下落だったものが、年々下がり、ここ数年は同1万4000円程度の下落になっています。このことは、駅から近いマンションと遠いものとで価格格差が広がったということを示唆しています。

選別が進むマンション市場
今後、新型コロナの感染状況や経済への影響がボディーブローのように効いてくれば、所得の減少などを通じて住宅価格にも影響するはずだと筆者は考えています。おそらくは経済状況の悪化が誰の目にも当然のごとく映るようになってから半年程度で、住宅価格も下がってくるのではないかと考えています。
ただし、平成バブル崩壊のように半値程度まで値下がりするということはなく、平均的には現在より1割から2割程度の下落になると筆者は予想しています。しかし、どのマンションも同じような下落率になるとは考えていません。この7年間の価格上昇トレンドで生じた格差の傾向は、下落トレンドの中でも続くと考えているからです。
最近注目されているテレワークの進展で、住まいが駅から遠くてもよいという人や、都心中心部でなくてもよいという人が増えていくことが予想されますが、そういった人は郊外の一戸建てを志向される傾向が強いと思われます。逆に、テレワークができない仕事をされている場合は、利便性の高いマンションを選ぶ傾向がこれまでと同様に、強く表れると予想されます。その結果、中古マンション市場において、立地や駅からの距離といった要素で価格の下がり方が異なる状況になるのではないかと考えています。

住宅資金は老後資金、教育資金と並ぶ人生三大資金です。20代、30代から考えたい「失敗しないマイホーム選び」について不動産コンサルタントの田中歩氏が解説します。隔週月曜日に掲載します。
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