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住友商事や日立造船、洋上風力発電の適地を陣取り合戦

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞
千葉県の銚子沖で東京電力リニューアブルパワーが運営する洋上風力発電所

洋上風力発電の適地を確保するため、住友商事日立造船など多くの企業が「陣取り合戦」を繰り広げている。政府は7月、海域の優先利用を認める「促進区域」の候補として青森、秋田、長崎県内の4海域を新たに発表した。正式指定は2021年以降の見通しだが、各社はすでに地元の漁業関係者との交渉などを始めており、事業者を決める公募入札で優位に立とうとしている。

「先行利用者」との関係が重要

経済産業省が有望な海域として発表したのは青森県沖日本海の北側と南側、秋田県八峰町及び能代市沖、長崎県西海市江島沖。今後は地質調査などを経て、21年1月にも正式決定する見込み。

事業者は公募入札で決める。主な評価基準となるのは価格と事業の実現性だ。洋上風力の導入で先行する欧州と異なり、日本では海域の「先行利用者」である漁業者の権利が強い。そのため事業の実現には漁業者との合意形成が欠かせない。

「オールオアナッシングだ」。長崎県西海市江島沖でJパワーと事業を計画する住友商事の竹下啓章・電力インフラ第一部部長代理は事業者が抱えるリスクを、こう語る。選定されなかった場合、調査費などが無駄になる懸念もあるからだ。

住友商事は18年から長崎県西海市江島沖の漁業者などと交渉に入った。江島沖はグループ会社の大島造船所(長崎県西海市)が地盤とする地域でもある。住友商事は15年ごろから国内で洋上風力事業の検討を始め、複数の海域を候補としてきた。「まずは地元の方との接点がある地域を選んだ」(竹下氏)という。

同じく江島沖で事業化を計画するジャパン・リニューアブル・エナジー(東京・港、JRE)は住友商事より2年早い16年から地域関係者との交渉を開始。6月には環境影響評価(アセスメント)の結果を示す環境影響評価準備書を公表した。

JREは秋田県八峰町と能代市沖でも17年から地域の関係づくりに動いており、早ければ9月にも環境影響評価準備書を公表する方針。JREの堺浩二洋上風力開発部長は「(地域との関係づくりで)先行しているが決定的に有利とは言えない。魅力的な提案ができるよう努力する」と語る。

世界風力会議(GWEC)によれば19年に世界では約610万キロワットの洋上風力が導入されたが、日本では商用化の実績がほとんどなく、合意形成は簡単ではない。

「話を聞いてもらうまでに2年」

「漁業者に話を聞いてもらうのに2年、一緒に食事できるまでに4年かかった」。青森県沖日本海の南側で開発を進める日立造船の社会インフラ事業本部風力発電事業統括部・藤田孝統括部長は、こんな苦労を語る。

同社は13年から地域関係者との交渉を始めた。ただ発電事業をするのではなく、漁業の活性化など地域経済にも貢献したいとの思いを伝えることで、漁業者の同意を得ることができたという。

今後は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などとともに北九州市沖で洋上風力の実証実験に取り組む。この実証機の見学ツアーなども実施し、さらに理解を得る構えだ。

青森県沖日本海の南側では風力開発のグリーンパワーインベストメント(GPI、東京・港)も事業者の座を狙う。北海道石狩湾新港では15年から洋上風力発電開発に取り組んでおり、23年にも運転を開始する予定。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば欧州の洋上風力の発電コストは1キロワット時あたり約12円。これに対して日本は約21円と高く、公募の評価基準となる価格で差を付けることは難しい。そのため洋上風力発電を計画する企業が他社に差を付けるカギは「事業実現性」となる。高い評価を獲得するため、促進区域に指定されるか分からない段階から、地域との関係構築を進めなければならない。

洋上風力発電設備の点検風景

今回発表された4海域に先立ち、秋田や千葉などの4海域も促進区域に指定されている。長崎県五島市沖では6月に公募が始まり、3海域も秋ごろまでに公募が始まる見通し。公募まで事業計画を発表しない企業も存在するため、それぞれの海域で10弱の入札があるとの見方が出ている。

ESG投資が「追い風」に

経産省は21年度から10年間、約100万キロワットの洋上風力発電を毎年導入する方針を打ち出した。実現すれば30年度までに1000万キロワットの洋上風力発電が生まれる。

世界的にESG投資が拡大するなかで、企業が洋上風力の事業者に選定されれば投資家へのアピールにもつながる。エネルギー源に乏しい日本で洋上風力発電は再生エネルギーの貴重な資源といえる。各社の将来に向けた「陣取り合戦」は一段と激しくなりそうだ。

(企業報道部 柘植衛、坂本佳乃子)

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