動物も感染防止で社会的距離、自己隔離で仲間守る
日経サイエンス

コラム(テクノロジー)
2020/8/29 2:00
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アメリカイセエビは集団生活を好む社会的な動物だが、致死的ウイルスに感染した個体は仲間から避けられる=Illustration by Nick Kilner

アメリカイセエビは集団生活を好む社会的な動物だが、致死的ウイルスに感染した個体は仲間から避けられる=Illustration by Nick Kilner

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新型コロナウイルスの感染拡大防止策としてソーシャルディスタンス(社会的距離)を取るのが当然になったが、これを不自然でつらいと感じる人も多い。だが自然界に目を向けると、多くの動物が感染拡大を抑えるために行動を変え、互いに距離を置いている。ただし病気の仲間を単に切り捨てるのではなく、社会的に重要なメンバーを守るなど、その戦略は実に見事だ。

西大西洋沿岸に分布するアメリカイセエビは社会的な動物で、1つの巣に20匹近くが集団生活している場合もある。だがフロリダ大学の研究チームは一部の若いイセエビが巣に1匹だけで暮らしている例を見つけ、それらの多くが伝染性のウイルスに感染していることを発見した。その後の実験で、イセエビは外敵から身を守れる安全な巣に集まるのだが、ウイルスに感染した仲間がいる場合にはこれを捨てて外に出ること、仲間の尿の匂いによって感染を識別していることが判明した。イセエビがこのウイルスに感染すると半数以上が死んでしまうので、こうした行動が進化したと考えられる。

より戦略的なソーシャルディスタンシングの例が社会性昆虫に見られる。英ブリストル大学のチームはケアリに小さな追跡装置をつけ、メタリジウムという致死的な真菌の感染が発生したコロニーにおけるアリたちの動きを調べた。この菌はアリどうしが接触することによって広がり、感染から発症まで1~2日を要する。このため、仲間が発病する前の段階でアリの行動が変わるかどうかを観察できた。

巣の外で食料を探してくる「調達アリ」に菌の胞子を塗りつけて観察したところ、24時間以内に"自己隔離"を始め、巣から離れて過ごす時間が長くなった。また、今後感染する危険が大きい未感染の調達アリも巣から距離を置くようになった。これにより、女王アリや幼虫の世話をする「保育アリ」に病気をうつす事態が避けられる。保育アリも行動を起こし、幼虫を巣の奥に運んで調達アリから遠ざけた。

感染リスクが高まっても特定の社会的つながりは維持するという戦略もある。アフリカの熱帯雨林で群れを作って暮らしている霊長類のマンドリルなどがこの例だ。マンドリルは糞(ふん)の匂いから寄生虫に感染した仲間を識別し、グルーミング(毛づくろい)などの接触を避ける。だが、血縁関係のある個体については、寄生虫にひどく侵されていてもグルーミングを続けていることが観察された。血縁関係にある個体と無条件の強い連携を維持することが多くの長期的な利点をもたらしているのだろう。

(詳細は25日発売の日経サイエンス10月号に掲載)

日経サイエンス2020年10月号

発行 : 日経サイエンス
価格 : 1,466円(税込み)

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