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里山の風景 永遠ではない 今森光彦さん

関西のミカタ 写真家

いまもり・みつひこ 1954年滋賀県生まれ。大学卒業後、写真技術を独学。琵琶湖を取り巻く自然と人の関わりをテーマとする写真家に。写真集に「里山物語」「湖辺(みずべ)」「世界昆虫記」など。木村伊兵衛写真賞、土門拳賞などを受賞。

■里山の写真家、今森光彦さん(66)が大津市の田園にアトリエを構えて30年余り。手入れした庭や雑木林がある0.3ヘクタールの土地には70種類のチョウが舞う。5年前、近くにある荒れ果てた10倍の広さの農地を買った。仲間と開墾し、里山の再生を目指す。

5万本の竹が密生するジャングルだった。300年前に田んぼとして開かれ、50年も放置されていたという。伐採で手首がけんしょう炎になったが、2年かけて地下茎ごと取り払った。樹齢150年のヤマザクラが姿を現し、シンボルツリーになっている。

多様な生物が暮らす里山は壊滅の危機にある。開墾する土地は多様性を生むのに程良い広さのため、里山をつくる実験に最適だ。重要なのは草刈り。鳥が種を運んで自然に生えてきた木を見逃さない。それを刈らずに、他の木が陰にならないように育てる。

チョウは幼虫の時期に食べる植物が限られるので、その種類は植生の豊かさを示す指標になる。今は60種類ぐらいまで増えた。チョウを好きな人をオーレリアンという。実験場を「オーレリアンの丘」と名付けた。自分自身の表現として取り組んでいるから作品といえる。何も写真家がやることではない。でも風景は永遠のものではない。

今森さんが開墾したオーレリアンの丘(大津市)

■親子連れを対象に丘で「昆虫教室」を開いている。

里山にいると何かしら甘い香りがして、土手に手を置くとチクチク痛い。日本の子供はそんな体験を感性の栄養としてきた。里山をつくったのは農業だ。ただ、最近50年ほどは収益を上げるために農薬をまき、動物よけの電気柵を張り巡らし、子供たちを遠ざけた。農作物を育てるだけでなく、里山の環境をつくることを目的にした「環境農家」があってもいい。

丘にはオオムラサキやタマムシ、カブトムシもいる。もちろん捕まえていいが、それが目的ではない。子供たちを連れ出し、親にも里山の価値に気付いてほしい。今年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で少ないが、昨年までは100人以上が来てくれた。半分以上が首都圏からだ。環境農家を生業(なりわい)とするのは簡単ではないが、可能性も感じている。

■大津市仰木地区の棚田に20歳のころ出会った。

学生の時に4カ月ほどインドネシアを旅した。棚田のある集落に泊めてもらい、農作業を手伝った。ワラのかぐわしい匂いを嗅いで、もう日本にこんな風景はないのだろうと考えた。ところが、帰国して仰木の棚田に迷いこんだ。曲線を描くあぜ道と背後に見える琵琶湖。風景だけでなく、山の神にささげる儀式も共通していた。自宅近くに求めていたものがあった。

滋賀県は山に囲まれ、降った雨が真ん中の琵琶湖に集まる。水の循環が箱庭を見るようにイメージできる。水は淀川を通じて海につながるので、琵琶湖は幅の広い河川といえる。ため池や水路、田んぼとつながり、生物が行き来する。里山は人と生き物が共存する自然空間だから、琵琶湖も里山の一部だ。

■密を避ける新型コロナへの対応で、地方での暮らしが見直されている。

私たちは今まで必要以上に集団でいたのではないか。都市は混み合うことでものごとが成り立っている。コロナは考えを変えるきっかけになる。疎になると、他者との適度な関わりのなかで自分自身を見つめ直す時間が持てる。

関西は農村と都市が近い。山が穏やかで稲作文化の歴史も長い。京阪神の都市に住む人が里山を訪れることで、その貴重さに気付いてくれるのではないか。棚田のオーナー制度は田植えや稲刈りの時だけ来るイベントだ。そうではなく、一年を通してもっと地に足のついた交流の仕組みをつくりたい。

(聞き手は木下修臣)

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