1%のお宝預金も 社内預金「下限」の不思議
お金のトリセツ(21)

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2020/8/26 2:00
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あまりにもしれっと発表されたため世間では見落とされがちで騒ぎにもならなかったが、メガバンクは4月に一斉に定期預金金利を引き下げた。

自分の中での土地勘、ならぬ預金金利水準勘は2016年に日銀がマイナス金利政策に踏み切って以来、「普通預金金利=0.001%、定期預金金利=0.01%」でフィックスされていた。どちらも虫眼鏡を取り出したくなる小数点以下ワールドとはいえ、そこには確かに10倍の差があった。一定期間出し入れできず流動性が制限される代わりに普通預金より高い金利が付く――定期預金の常識だ。

■定期で「ウッカリ固定」に注意

それが今や0.002%。小数点以下のケタ数は普通預金と同じになり、10倍あった差は2倍へと5分の1に縮小した。100万円を預けて20円の利息(実際には復興特別所得税20.315%が引かれて16円)を手にする水準だ。このご時世「高金利」がありえないのは常識だが、さらに金利差が有意に「定期>普通」だった時代の常識も引きずらないように注意したい。定期預金は満期になると自動継続されるのが一般的。「まとまったお金ができたら定期へ」と昔ながらの考えのまま一旦入れると、気がついた時には「こんなミクロの金利で長く固定するつもりはなかったのだが……」という事態も想定される。

■1%のお宝預金も

一方、世の中には1%という普通預金の1000倍の金利水準を享受している人もいるらしい。会社が福利厚生の一環で提供する社内預金の話だ。労使間の契約に基づいて運営され給与から天引きされる社内預金は、お金が貴重な資源だった高度成長期には会社にとって銀行から借りるより有利な「集金マシン」として活躍した。

その時会社が立場を利用して収奪しないよう、法律ではめられたのが「下限金利」の枠だ。社内預金の金利は会社が決めるが下回ってはならない下限がある。市中金利に応じて上下するが、今でもなんと0.5%。下限だからそれ以上、例えば1%と普通預金金利×1000倍の会社も実際あるらしい。直近データでは平均は0.79%だ。

会社はそれ以上で運用できないと逆ざやになるわけで導入企業は当然、趨勢的に右肩下がりだが、それでも依然約47万人が利用しており8200億円強の資金の受け皿になっている。まだ制度が残っているというラッキーな人はまずこの社内預金枠をいっぱいに埋めてから他の運用へと進むのが定石だ。とはいえ会社に万一のことがあったら給与と資産運用手段の両方を失いかねないことには注意が必要。元本1000万円までが払い戻される通常のペイオフの対象でもない。

■「下限金利」が映す時代遅れ

それにしてもこのマイナス金利下で0.5%の下限金利とは一体? 根拠法は労働基準法で監督官庁は厚生労働省だ。労働基準法が下限を設定すること自体は前述の歴史的経緯から納得できる。だが不思議なのは金利水準。あまりにも実情から乖離(かいり)してはいないか?

厚労省に尋ねると明快、かつ拍子抜けする答えが返ってきた。いわく「法律で設定した金利の刻みが5厘(0.5%)なのでそれ以下にはならない」

なるほど。会社が負担に耐えられなければ制度をやめればいいだけであり、実際縮小が続く。わざわざ下限を変えたり制度を見直したりしなくても実害はない。

不思議な時代遅れワールドだがお得な社内預金制度だけに、硬直的なお役所ルールと目くじらを立てることもあるまい。お金が貴重な資源だった1950年代に現行の制度が導入された時、金利が0.5%刻みで計れない世界など想像もつかなかったはずだ。ところが時は流れ、今や政策金利がマイナスで預金金利は小数点第3位の攻防……。金利は経済の体温計というが、今なお残る社内預金の下限制度はつくづく時の流れを感じさせる。

山本由里(やまもと・ゆり)


1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
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