戦没者慰霊碑、滞る管理 ひび・倒壊の恐れ780基

戦後75年
2020/8/24 20:25
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全国に建てられた戦没者慰霊碑の管理が行き届かなくなっている。厚生労働省が昨年集計した調査では、ひびや倒壊の恐れがある碑が780基に上った。遺族らの高齢化が進み、維持・管理の担い手が不足している。専門家は「戦争記憶の伝承のためにも公的支援が必要」と指摘する。

上部にひびが入った戦没者慰霊碑(神奈川県伊勢原市)

「かなり劣化していて、大地震でも来たらどうなるか分からない」。神奈川県伊勢原市で地元遺族会の支部長を務める越水澄夫さん(79)は、市内の神社脇に建てられた戦没者慰霊碑を見て不安そうに話す。日露戦争後の建立とみられる「忠魂碑」には、大きな石碑を横に切るようにひびが入っている。遺族会が管理し、補修されているものの劣化は隠せない。

安全のため、人が近づかないよう周囲にロープを巡らせている。万が一倒壊した際などにかかる費用のため、数年前から遺族会で積み立ても始めたが、心もとない。越水さんは「市内の別の慰霊碑も倒れそうで危ないと聞いている。遺族会は高齢で足の悪い人も多く、管理自体が難しくなってきた」と嘆く。

明治以降、日本は多くの対外戦争を経験し、戦没者慰霊碑が全国に1万基以上建立された。近年、劣化や災害などによる倒壊の危険性が指摘されるようになった。

厚労省が2019年4月に集計した調査によると、倒壊の恐れがあったり、ひびが入ったりして管理状態が「不良」または「やや不良」とされる碑が全国で計780基確認された。14年度の調査と比べ、管理に問題のある碑は計46基増えた。

慰霊碑の維持管理は主に地元の遺族会などが担ってきたが、遺族会の会員は大きく減った。日本遺族会(東京)によると、全国の会員数は記録がある中で最多だった1967年の約125万4200世帯から2019年は約57万世帯になった。

広島県三次市の遺族会連合会は今年3月、碑の管理の担い手不足に悩んで市に相談を持ちかけた。当時市議でもあった亀井源吉会長(73)が議会で「碑の管理を市にやってほしい」と求めたが、市側は「民間で建立した碑の維持管理は民間が行うのが基本」と受け入れなかった。

亀井会長は「遺族会は人手も予算もなく、もし倒壊して誰かがけがをしても補償能力がない。しっかり管理しないと戦没者にも申し訳ない」と話す。

厚労省は「本来は建てた団体が管理すべきだ」(社会・援護局事業課)との立場だが、安全性確保の観点から碑の移設や埋めたての費用の半額を補助する制度を16年度に創設した。19年度からは上限額を25万円から50万円に拡大した。

制度開始後の補助金の利用実績は全国で8基にとどまる。移設する際、遺族の了解を取ったり、場所を確保したりするのが難しいケースも多い。

地域の戦没者慰霊碑の調査経験がある埼玉大の一ノ瀬俊也教授(日本近現代史)は「地域における戦争の記憶を伝える文化財として公的に保護する価値がある。行政は保存に向けた支援をさらに拡大していくべきだ」と話している。

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