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大阪ミナミに立体看板集う エンタメの街、奇抜さ勝負

とことん調査隊

名物の巨大フグの看板で知られる大阪の料理店「づぼらや」が、新型コロナウイルスの影響に伴う経営悪化で9月に閉店する。2020年で創業100年を迎えた同店の看板には「大阪の顔」として存続を求める声も上がるが、そもそも大阪にはなぜ、巨大な模型のような立体看板が多いのか。その謎を追ってみた。

まずは大阪一の立体看板の集積地、ミナミの道頓堀商店街へ。南北に走る御堂筋、堺筋を結ぶ東西約500メートルの商店街を歩くと、ずらりと並ぶカニ、タコ、ギョーザ、メロンパンなど約30体の立体看板が目に入る。串カツ店「だるま」の入り口には、店の大将とおぼしき巨大な人形。抱えた掲示板に「ソースの二度漬けは禁止やで!」などと示し、周囲をにらんでいる。

だるまを運営する「一門会」(大阪市浪速区)によると、道頓堀店が08年に今の場所に移転した際、約1000万円をかけ、縦5メートル、横3メートルの立体看板を設置した。人形のモデルは上山勝也会長兼社長だ。「道頓堀は食とエンターテインメントの街。他店より面白くて斬新なことを、と常に考え、こんな看板になった」と笹部英宏営業部次長。

「自由に自己表現できる芝居のように、街全体にアナーキーな雰囲気があった」。こう話すのは道頓堀商店会の北辻稔事務局長。道頓堀には江戸時代から人形浄瑠璃や歌舞伎などの芝居小屋が集まり、大正期や昭和初期はジャズや漫才の聖地にもなった。「劇場と飲食店が多く、回遊性が高い。特に戎橋周辺は連日多くの人出があるため、立体看板が発展したのでは」

梅田などのキタは戦後に地下街が発達し、ビル内に入る飲食店も多く「立体的」だが、ミナミは「路面をぶらぶら歩きする平面空間が主流」。通行人の目に付きやすいように「個店の看板が競いあうように大きくなった」と語る。

「大阪の看板はでかいだけじゃなく『動く』のもポイント」と教えてくれたのは、大阪の街並みに詳しい大阪府立大の橋爪紳也特別教授だ。

太鼓をたたく「くいだおれ太郎」は、文楽の人形にヒントを得て1950年に登場。やはり古株の「かに道楽」は62年の創業から5個のモーターで爪や脚を上下に動かし、「生きの良さ」を演出する。米ニューヨークなど華やかな屋外広告が彩る都市は多いが、「これだけ立体看板が集まるのは世界でも道頓堀くらい」と橋爪氏は指摘する。

次は立体看板を制作する「ポップ工芸」(大阪府八尾市)を訪ねた。制作の大まかな流れはこうだ。まず土台となる発泡スチロールを熱線で切り取り、包丁で削って輪郭を作る。その後ガラスの繊維が入った強化プラスチックで補強。最後に表面をやすりで整え、エアブラシで着色する。

サイズが大きく手間がかかるため「1体の制作に1カ月かかることも」(中村雅英社長)。道頓堀の店舗からは「隣の店より目立つ看板を」といった注文も多いという。

道頓堀以外では、新世界(浪速区)も立体看板の名所だ。大阪歴史博物館の沢井浩一学芸課長によると、新世界では明治期に内国勧業博覧会が開かれ、通天閣や遊園地が開業。映画館や見せ物小屋もできた。「道頓堀と同様、にぎわいの街。看板の派手さを競ったのだろう」と語る。

づぼらや発祥の地も新世界。本店のフグの看板は「わかりやすく、面白く」を尊ぶ大阪人の心をつかみ、街のシンボルになったが、実は「違法看板」だという。道路法に基づく大阪市の「道路占用許可基準」では、屋外広告物は車道への突き出し幅を1メートル以内などと定めているためだ。

ただ、閉店が明らかになった6月、松井一郎市長は「大阪の名物看板。安全性を担保できるなら、残せる形を考えていきたい」と存続に含みを持たせた。その行く末にも注目したい。

(奥山美希)

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