証人買収事件 「証言重視」揺るがす、海外では厳罰も

社会・くらし
2020/8/24 18:28
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自身が訴追された汚職事件の公判で偽証を依頼したとして衆院議員の秋元司容疑者(48)が逮捕された証人買収事件は、刑事司法が法廷証言重視に転換する中で起きた。犯罪組織による偽証工作に対応するため厳罰を規定する国も多い。日本では2017年に新たな犯罪として法制化され、今回が初適用となった。

「秋元議員と会っていないことにしてほしい」。7月下旬、那覇市のホテルで会社役員の男は現金2千万円入りの袋を渡しながらこう依頼したとされる。相手は、カジノを含む統合型リゾート(IR)を巡る汚職事件で贈賄罪に問われた中国企業元顧問の被告だった。

東京地検は8月4日、贈賄側の被告2人に偽証を依頼したとして会社役員の男ら3人を逮捕。20日に議員本人の逮捕にも踏み切った。「証言を改ざんされる恐れがあった」(検察幹部)。捜査を急いだのは、裁判が法廷でのやりとりを重視する「口頭主義」に転換していることも背景にある。

かつての刑事裁判は、裁判官が供述調書などの書面を大量に読み込む「調書主義」が主流だった。ある検察OBは「証人への不審な接触は過去にもあったが、たとえ公判で供述を翻しても、裁判官は調書の方を信用してくれた」と振り返る。

刑事裁判は2009年導入の裁判員裁判をきっかけに「見て聞いて分かる法廷」へ改革が進んだ。自白事件で調書など書面の取り調べにかかった時間は11年の平均83.4分から18年に62.9分へ短縮。逆に証人尋問は11年の20.8分から18年の39.4分に延びた。

検察官が作成した調書が公判で証拠採用されないケースも目立つ。元東京高裁部総括判事の門野博弁護士は「調書中心の公判が法廷で話を聞いて判断する形に変わってきた。証言を不正に変える行為は現代の裁判システムを揺るがすもので決して許されない」と話す。

証人等買収罪は17年施行の改正組織犯罪処罰法で盛り込まれた新たな犯罪類型だ。マフィアやテロ組織への捜査で各国が協力する国際組織犯罪防止条約の締結に向け、司法の妨害行為を取り締まる法整備が必要だったため新設された。罰則は2年以下の懲役などで、組織犯罪に関して行われた場合は5年以下の懲役などに加重される。

法廷証言を重視するのは海外も同様で法整備は日本より先行する。米国は証言を変える対価とした利益提供を「証人に関する贈収賄」として禁じ、20年以下の拘禁刑などに処す。フランスにも証人買収罪があり、3年の拘禁刑などが科される。

一橋大大学院の王雲海教授(比較刑事法)によると、米国では証人買収事件が多発するなどして厳罰化が進んだ。フランスや英国も早くから厳罰とした一方、「日本では証人買収自体が一般的ではなかったこともあり、他の先進国と比べて対応が遅れた」という。

証人等買収罪は今回の事件で初めて適用された。暴力団などによる偽証工作が想定されていただけに、司法関係者の間では「国会議員の関与が疑われる事件が初適用になるとは」と驚く声が多い。王教授は「司法改革の流れで法廷での証言が重要視される中、証言をねじ曲げようとする行為は今後も懸念される」と指摘している。

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