共働き夫婦の生命保険 必要保障額を計算する
Dr.マネーお悩み外来 Vol.9

本日もお金の悩みを抱えた人が「白鳥FP事務所」のzoom相談にやってきました。「自分のお金は自分で管理運用できるように、一生困らないマネーリテラシーを身につける」をモットーに、FP(ファイナンシャルプランナー)の白鳥京香がみなさまのご相談にお答えします。
白鳥 こんにちは。早速ですが、生命保険に加入するときはまず「(1)残される家族のためにいくら必要か」を考えます。遺族の生活費や子供の教育費など今後必要になる資金の総額です。次に、遺族年金や今後の収入など「(2)万一のときに入ってくるお金」を計算します。会社によっては死亡退職金や弔慰金などもあるでしょう。「(2)-(1)」が不足額です。全部生命保険で賄うなら、これが「保険金額」になります。
生命保険会社や一部のFPの試算の中には、子供が独立した後の妻の生活費までを「必要な資金」として計算に入れ、高額な数字を提示するケースがありますが、現実的ではありません。今の時代、よほど事情がない限り遺族となっても働きます。Cさんの場合は共働きですし、今後も働くことを前提に子供が高校を卒業するまでの期間について考えてみましょう。
住宅購入と生命保険の兼ね合いですが、一般的には家を購入してローンを組むと団体信用生命保険(団信)に入りますので、その分、生命保険金額を減額できます。ペアローンの場合は団信にはそれぞれが加入します。万一の場合、死亡した方の住宅ローン残高は相殺されますが、残された方は支払いを続けることになります。一つの方法としては、相手のローンの残高分をそれぞれが保険金額として保険加入するという考え方があります。
Cさん なるほど。生命保険は大黒柱のお父さんが入るというイメージがありましたが、そういう時代ではないですね。
白鳥 夫婦2人で家計を支えているので、収入に応じて案分して加入するのが基本です。正社員で共働き夫婦の場合は、必要な保険金額はかなり低くなります。共働きしていることこそが大きな保障だからです。具体的に計算してみましょう。事前に家計診断シートに記入していただきました。

白鳥 ご希望は「子供が留学したい、大学院に行きたいと言った場合を想定して教育費は多めに」ということですね。大学進学時点の教育費の必要額は1000万円としておきましょう。
「(1)残される家族のためにいくら必要か」は、年間生活費を現在(440万円)の7割とすると、18年間で5544万円、教育費と合わせて6544万円です。

まず、夫が亡くなった場合の収入を計算してみましょう。子供が18歳になるまで受け取れる遺族基礎年金と遺族厚生年金は年約142万円(下の表(2)参照)、Cさんの手取り収入は220万円ですので、収入合計は362万円です。現在の生活費が440万円ということですので、約8割ですね。住宅ローン(年間60万円)が支払えなくなる心配はないでしょう。子供が18歳に到達する年度の末日で遺族基礎年金はなくなりますが、以降、Cさんは65歳になるまで遺族基礎年金の4分の3に当たる額の「中高齢寡婦加算」が遺族厚生年金に加算されます。
遺族年金の総額は18年間で2552万円、Cさんの手取り収入は3960万円。貯蓄300万円と合わせると合計6812万円(a)です。

Cさん (1)の金額とaを比べるとaの方が大きいですね。ということは、生命保険は必要ないということですか?
白鳥 計算上はそうですね。
Cさん 共働きこそが大きな保険だということを実感します。あ、でも待ってください。確かにそうですが、子供を大学に行かせたら貯蓄はゼロになるということですか? それはちょっと心配です。
白鳥 あ、出ましたね。「心配の値段」ですね。
Cさん なんですかそれ。
白鳥 万一のことを考えていると、あたかもそれが起こるような気になって心配が高まりますが……30~34歳の女性の死亡率は0.00032(総務省統計局「2018年の年齢階級別死亡数と死亡率」)、10万人あたり32人です。
しかし、まあ、万一の時の経済的なダメージを回避するために入るのが生命保険ですからね。必要と思うならば加入するといいでしょう。教育費分1000万円を生命保険で用意すると考えるとしましょう。例えば、ネット生保などで掛け捨ての安い保険に入れば、保険期間20年で保険料は月額1240円です。これが心配の値段です。いかがですか?
Cさん 20年で約30万円、高いのか安いのか……。万が一のことですから、半分でもいいかもですね。
白鳥 「必要ないかもしれないけど、お守りのために」ということなら、なるべく保険料の安い、掛け捨ての生命保険(定期保険)にすることです。可処分所得から支払う保険料が大きくなれば自由に使えるお金は少なくなります。保険料が高すぎて貯蓄ができない家計もありますが、まったく本末転倒です。万が一に該当しないともらえない保険金は、いつでも自由に使える貯蓄とは違うのでほどほどにしてくださいね。
ちなみに保険料は会社によって違いますが、内訳をみてみると「保険料=純保険料+付加保険料」で決まります。純保険料は保険金支払いの財源となる部分で、どこの会社でもほぼ同じです。各社保険料に差が生じるのは、事業費にあてる付加保険料の差です。営業職員の多い対面販売を中心とした生命保険会社の保険料の方がネット生保より高いのはそのためです。
夫が残されるケースも試算していますので参考にしてください。遺族基礎年金は、子を持つ夫も受け取れます。遺族厚生年金は配偶者と子に第1順位で受給権がありますが、夫は55歳以上であることが条件です(収入要件あり)。現在32歳の夫には受給権はありませんが、子が遺族厚生年金を受け取ります。収入の合計は9548万円(b)です。

Cさん 生命保険は必要なさそうですね。
白鳥 今後、子供が増えたりどちらかが仕事をやめたりしたときなど、ライフプランの変化に応じて必要があればまた考えればいいでしょう。ご主人の「心配の値段」はどうします?
Cさん 心配性の夫に聞いてみます。
白鳥 では今日の処方箋です。
◇ ◇ ◇
・生命保険は必要最低額の保障をなるべく安い保険料で持つ
・保険料が高すぎて必要貯蓄率を守れないのは本末転倒。保険料を削減する策を講ずるべき。
では2週間後にまた。

本日もお金の悩みを抱えた若者が「白鳥FP事務所」のドアをたたく……。ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏がマネーリテラシーの向上のために様々なお金の問題を取り上げ、対話形式でわかりやすく解説します。隔週火曜日に掲載します。