悔いのない20代キャリアのために 3つのトリセツ
通年採用時代の就活のトリセツ(8)

こんにちは、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔です。前期講義は全てオンライン、大学生のみんなは課題提出に追われ、激動の数カ月でしたね。慣れないことに対応するのは大変だったと思います。まずはお疲れさまでした、頑張った自分を褒めてあげてください。
新型コロナウイルスによって、私たちの学び方や働き方は様変わりしました。歴史的な変化の中で、私たちはどう学び、どう生きるのか。これまでの当たり前が継続できなくなったことで、不安や不満など様々な感情に揺れる日々を過ごしてきたのではないでしょうか。
前回の連載記事では「キャリア資本」の形成について、お伝えしました。キャリア資本は与えられるものではなくて、自ら行動し、獲得していくものですね。では学生から社会人になっていく20代は具体的にどのように過ごしたらいいか。これはまだイメージしにくい人が多いでしょう。しかもコロナ禍で、先の見えない不安を抱えている人が多いと思います。
そこで今回は、国家資格キャリアコンサルタントの資格を持ち、日ごろからキャリア相談に関わるポジウィル社長の金井芽衣さんに、アドバイスをもらうことにしました。金井さんはリクルートキャリアを経て、20代でポジウィルを創業。キャリアコーチングをオンラインで提供する「ゲキサポ!キャリア」を運営し、キャリアに悩む若手社会人を支援しています。
ウィズコロナの時代になり、私が実際に、学生や若手社会人から相談を受けた質問内容を金井さんに直接投げかけてみることにしました。
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朝1時間、カフェで自問自答タイム
――コロナに直面し、世の中がめまぐるしく変わっています。これからどうやって生きていけばいいのか、わかりません。これからを考えると不安になります。
コロナが私たちに与えてくれたのは、「自分と向き合う時間」だと思っています。世の中がめまぐるしく変わっていくのは事実ですが、ポジティブに捉えると、通勤や通学が不要になったことで、「内省的に考える時間が増えた」とも捉えることができます。
先の見えない時代は不安ですよね。解決策としては、浮いた時間を生かして「自分がこれからどう生きたいのか、今のままでいいのか」を問いかけてみるのはいかがでしょう。具体的には、悩みの原因について、「それは何で?」を問い続けることです。それを繰り返し、悩みの根底にあるネガティブな感情を出しきると、ポジティブな思考が湧き出てきますよ。
――いつ、どのようなときに、自分と向き合う時間をつくっているのですか。
私は出社する前に、朝1時間カフェで自分を俯瞰(ふかん)する時間をつくるようにしてきました。
カフェでやっていたのは、思考の可視化です。手帳などに自分の感情を手書きして、もし悩みが出てきたときには、「それは何で?」を問い続けていました。すると、より本質的な悩みが浮かび上がってくるんです。
例えば、残業が嫌だと悩んでいたときに「それはなぜ?」を問う。「そもそもやりたくない仕事をしていたからだ」という根本的な問題が見えてきます。
とにかく「なぜ?」を問い続ける。そうして本質的な悩みが見えてきたら、その悩みを解決する具体策を考える。言語化することで、悩みがクリアになっていくはずですよ。見方を変えてみると、「自分と向き合う時間」は「言語化する時間」とも言い換えられるのではないでしょうか。

20代、悔いなく遊べ
――金井さんの20代、自己採点すると何点ですか。
90点ですね。やりたいことを先延ばしせずに一つ一つやり切ったので、悔いは一つもありません。残りの10点は、企業経営、特に、スタートアップや資金調達について学んでおけばよかったことくらいでしょうか。
学生から社会人へと変化する成長の期間は、ついつい目先のことにばかり目を向けてしまいがちですよね。そのなかで、ほんの少しでも大丈夫。行き当たりばったりで過ごしていくだけではなく、いま一番若い20代の貴重さを意識することだけは忘れないでください。そうすることで、後悔のない20代を送れるはずですよ。
――20代にやっておくべきことを教えてください。
大きく分けて、3つです。
(1)「悔いのない恋愛」 恋愛で後悔をしないようにしてください。なぜ恋愛?というと、恋愛とビジネスは似ているところがあるからです。自分はどんな相手とパートナーになれば幸せになれるのか? お付き合いしたい人の、心をつかむためにはどうしたらいいのか? 恋愛で後悔がなくなるまで悩んだ経験って、「自分と向き合う」ことそのもの。仕事でも生きてくるはずです。
(2)「悔いのない仕事」 こういう職場に行けたらよかったなあ、とか悩まないようにしましょう。隣の芝の青さを羨むくらいなら、自分が選んだ選択肢を信じ、やってダメだったという失敗を経験しましょう。私も、失敗の連続でした(笑)。20代以降の自信をつくるのは「経験」ですが、悩んでいるうちは、経験が増えません。目の前の仕事に向き合い、成功体験や失敗体験をつくる。その積み重ねが、これからの人生を生きていくための自信をつけてくれるはずですよ。
(3)「悔いのない遊び」 私は30代になり、今まで以上に仕事にのめり込んでいます。それは20代に思う存分、遊んだからです。友達と遊ぶ、旅行に行く。とにかく、やりたいことをやってきたので、今があると思っています。ステイホームの今、遊びの選択肢は限られましたが、今だからこそできることを見つけるのも楽しいですよ。

見方を変えてみると、自分と向き合うこともひとつの遊びかもしれませんね。自分のために時間を使える20代は、悔いなく遊ぶ。そんな10年間にしてほしいです。
自己肯定感の磨き方
――自己肯定感って磨くことができるのですか。その方法を具体的に教えてほしいです。
これまで自己肯定感は、「低い/高い」の二分法で語られてきたと思います。しかし大切なことは、「低い/高い」を決めることではありません。現状の自己肯定感を少しずつ良くしていく、高めていくという「行為のプロセス」が重要だと考えています。
私が具体的にやっていることは、とてもシンプル。毎晩寝る前に「今日もよく頑張った、えらい!」と自分自身を褒めることです。夜の時間は気持ちがネガティブになりやすいからこそ、ネガティブ循環に陥らないように、頑張った自分を褒めてみましょう。
――学生へ、これだけは言いたいということを教えてください。
自分が「絶対値」であるということです。私たちはつい「誰かから褒められること」で自己肯定感を高めようとしてしまいますよね。しかし、最も自己肯定感を磨くことができる行動というのは、「あなたがあなた自身を褒めてあげること」なのではないでしょうか。だから、誰かのせいにして、自分の人生に責任を持たないということは決してしないでください。あなたの人生を切り開くのは、他人ではなくあなた自身なのですから。
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金井さんのインタビュー、いかがでしたか? 一つ一つの言葉が、みんなに届きますよね。迷わず、何事も行動に移してきたからこそ、言葉に力があるのです。
キャリア論の視点から金井さんの生き方や働き方を捉えるなら、「組織内キャリア」から「自律型キャリア」へと見事にトランスフォーム(変身)した20代を過ごしてきたと言えます。しかも、ポイントは、誰かに何かを言われたからという他人視点ではなく、自ら主体的に取り組んでいくという自分視点を軸に据えたキャリア開発を積み重ねているのです。これまでの経験が金井さん自身の豊かなキャリア資本となり、30代を迎えた今も駆け抜けているのです。
さあ、まずはあなたがあなたのことを褒めてあげてくださいね。
1976年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめる。日本学術振興会特別研究員(SPD:東京大学) 2008年に帰国し、法政大学キャリアデザイン学部教授。大学と企業をつなぐ連携プロジェクトを数多く手がける。企業の取締役、社外顧問を19社歴任。著書25冊。『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP社)など。最新作『ビジトレ―ミドルシニアのキャリア開発』(金子書房)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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