勝利のメンタリティー(山本昌邦)

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川崎とバイエルン 2チームに共通する攻撃精神

2020/8/23 3:00
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コロナ禍の各地のサッカーリーグを見ながら、とにかく得点力に優れることの頼もしさを痛感している。ドイツ・ブンデスリーガを制したバイエルン・ミュンヘンしかり、明治安田生命J1リーグを独走する川崎の破格の攻撃力しかりだ。

毎試合2得点し、失点を1に抑えれば優勝を手にすることができる、というのが、かつてのリーグの常識だった。だが川崎は第11節終了時で1試合平均3得点(11試合で34得点)をマークしている。今季34試合で100得点32失点のバイエルンと遜色のないペースである。

川崎の大卒ルーキー・三笘はC大阪相手に、公式戦5試合連続ゴールを決めた=共同

川崎の大卒ルーキー・三笘はC大阪相手に、公式戦5試合連続ゴールを決めた=共同

要因はいろいろあるが、試合の環境が攻撃側に追い風を吹かせていることも一因だろう。例えば、今季のJリーグは採用を中断したが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の導入がある。ペナルティーエリア内にドリブルで侵入していける選手を持つチームは、これで大きなメリットを享受するようになった。体に手をかける、ユニホームを引っ張る、軽い接触でつまずかせるといった守備側の"ずる賢い"行為は映像に記録され、容赦なくPKをとられるようになったからだ。

タイプの異なるドリブラーたち

ペナルティーエリア内をアグレッシブに攻略する今季の川崎は、そういう世界の潮流に近いサッカーをしている。驚くのは、その原動力に長谷川竜也ら既存の選手に加え、三笘薫(筑波大)、旗手怜央(順大)という大卒ルーキーがなっていること。旗手はごりごり、三笘はするするとドリブルのタイプは異なるが、それがまた相手を困らせている。

就任4年目の鬼木達監督も本当にいい成長をしていると感じる。選手に「熱」を伝えられ、ピラミッドの頂点にいるというより、輪の中心にいるイメージがある。志向するスタイルも、過密日程を考慮して交代枠が3人から5人に増えた「新しい日常」に非常にマッチしているように思う。

川崎の鬼木監督の采配は、選手に対する配慮が行き届いている=共同

川崎の鬼木監督の采配は、選手に対する配慮が行き届いている=共同

守備ラインは高く保ち、攻から守、守から攻の切り替えが非常に速い。攻め込んで失ったボールは相手エンドで奪い返し、ショートカウンターでそのまま攻めきること再々。失ったボールを5秒以内で回収する回数で今季の川崎はトップランクだ。

その強度の高さから運動量をかなり消費しているように見えるけれど、自陣と相手陣地を行ったり来たりすることは少ないから実は効率がいい。帰陣と進撃を繰り返すようなサッカーではないから、34歳の家長昭博のようなベテランも輝けるのだろう。

川崎の得点は後半に多い。これを後から出てくる選手の手柄にするのではなく、「前半から出ている選手が積極的に仕掛けてくれているから」と公正に扱うマネジメントも素晴らしい。後半のアタマから選手を複数代えたり、代えた選手のポジションを逆にしたり、いろいろ細かく工夫もしている。交代で入る選手は、途中からより後半のアタマのように切りがいい方が準備はしやすいものだ。そういう配慮が行き届いているので、川崎の快進撃を単純に「選手層が厚いから」と片付けては鬼木監督が気の毒である。

バイエルン・ミュンヘンは攻防一体のスタイルでブンデスリーガ8連覇を達成=AP

バイエルン・ミュンヘンは攻防一体のスタイルでブンデスリーガ8連覇を達成=AP

川崎には小林悠、レアンドロダミアンというシーズンで確実に2桁のゴールを取れそうなFWがいる。今季はさらに三笘のように中盤にも2桁のゴールが取れそうな選手が出てきた。川崎をどこが止めるか楽しみだが、そんなチームがどこまで突っ走るかにも私は興味がある。ブンデスリーガで今季8連覇を達成したバイエルンはボールの奪回作業を実に楽しげにやる。共通理解のある守備と研ぎ澄まされた攻撃が混然一体となり、ミドルサードとアタッキングサードの境目くらいでボールを取り返すと、その奪回者を追い越す選手が次々に湧いて出る。川崎にはそんなサッカーを追求してほしいのだ。

試合中の飲水タイムにしても5人の交代枠にしても、「夏場の特例」「今季限り」というものではなくなるかもしれない。相次ぐ自然災害や日中の気温が40度近い異常さが日常になりつつある今、サッカーの未来の形を先取りしている気もする。もう昔に戻ることはないとしたら、現在の状況を前向きに考えていくことも大事なことだろう。

ドイツ人指導者は多士済々

バイエルンに限らず、今季はいろいろとドイツ(人)の底力を感じることが多かった。欧州チャンピオンズリーグのベスト4に残ったライプチヒを率いるユリアン・ナーゲルスマン監督は33歳の若さ。決勝に進んだパリ・サンジェルマンのトーマス・トゥヘル監督、30年ぶりにリバプールを英プレミアリーグ優勝に導いて声望をさらに高めたユルゲン・クロップ監督もドイツ人だ。バイエルンのハンス・ディーター・フリック監督は長年ドイツ代表でヨアヒム・レーウ監督の腹心を務めた。

バイエルン・ミュンヘンと欧州CL決勝で対戦するパリ・サンジェルマンのトゥヘル監督もドイツ人=ロイター

バイエルン・ミュンヘンと欧州CL決勝で対戦するパリ・サンジェルマンのトゥヘル監督もドイツ人=ロイター

コロナ禍の難しいシーズンで彼らが醸し出す安定感、存在感、適応力はどこから来るのだろうか。実践的な指導者養成の仕組みなのか、学校教育の中にあるものなのか。無駄を省きつつ新しいものはどんどん取り入れる合理精神のたまものなのか。人間力を感じさせる監督もいれば、データ分析にたけたデジタル志向の強い監督もいて、全体として複眼的な思考を感じる。

ドイツの充実を見ると、日本も負けずに、いい指導者と選手を育てていかなければ、という気持ちになる。日本だけではなない。アジアの国々の上を目指す指導者が「日本で資格を取りたい」「日本のサッカーを学びたい」と思うような場所にしたい。アジアの指導者養成のハブに日本がなり、アジア全体がレベルアップし、それがめぐりめぐって日本の財産になるような未来。そんな真夏の夜の夢みたいなことを、うだるような暑さの中で考えている。

(サッカー解説者)

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