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ダルビッシュ、打者を幻惑 読みと残像利用の投球術
スポーツライター 丹羽政善

2020/8/25 3:00
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昨季後半から安定したピッチングを続けるダルビッシュ=USA TODAY

昨季後半から安定したピッチングを続けるダルビッシュ=USA TODAY

23日、チーム7連勝中で、その間の1試合平均得点が7.86点という強力打線のホワイトソックスを相手に先発したダルビッシュ有(カブス)は、7回を投げて6安打、1失点、10三振と好投し、今季5勝目(1敗)を挙げた。昨季後半からたどると、計19回の先発で118回2/3を投げ、33失点(自責点32)。防御率は2.43で、162三振に対し、四球わずか13個と抜群の安定感を誇る。

昨季の前半は不安定だったが、何がダルビッシュをよみがえらせたのか。今季の防御率が0.68と両リーグ通じてトップで、昨年8月9日に投げ合ったときに打者としても対戦したトレバー・バウアー(レッズ)が、解説した。

■Deceptionが好調の原動力

Deception。辞書で調べると、「ごまかすこと、欺くこと」といった説明が出てくる。大リーグで投手の球質を指す言葉として使われるとき、それは「相手を幻惑する、錯覚させる」といった意味になる。

例えば、真っすぐが、表示される球速以上に速く感じられる、あるいはホップしているように感じられる。そんなときその球は「Good Deception」などと表現される。外角低めの真っすぐだと思って振りにいったら、スライダーだった。高めの真っすぐだと思ったら、ナックルカーブだった。そんなときも同様だ。

それらは、相手打者の脳を混乱させることで、生まれる現象。打者は、脳に投手の球の軌道が刷り込まれており、無意識にそれを利用して打っている。が、時にそれが邪魔になる。

昨季後半から安定したピッチングを続けるダルビッシュの原動力をたどると、Deceptionという言葉が浮かび上がる。

昨年8月にダルビッシュと投げ合い、打席に立ったバウアーが今年6月、打者目線と投手目線の両方からダルビッシュを分析。それを自身のユーチューブで公開しているが、ダルビッシュの投球術にうなった。

バウアーは打者として対戦し、ダルビッシュの非凡さを実感したという=AP

バウアーは打者として対戦し、ダルビッシュの非凡さを実感したという=AP

例えば1打席目、初球は甘いカットボール(以下カッター)だった。真っすぐを投げてくると思っていたバウアーは、その甘い球に全く反応できなかった。「まさか、打てない投手に初球からカッターを投げてくるとは思わなかった」

2球目は外角低めのカッター。しかし、今度こそ真っすぐだと考えていたバウアーは、振りにいったものの、体が泳いだ。3球目は外角低めに遠く外れるスライダー。しかし、2球目のカッターと同じようなコースから曲がったため、バウアーの脳はカッターだと判断。見送れば明らかなボールなのに、バットが止まらなかった。

まるで、野手に対するような攻め方だが、バウアーに言わせれば、この2球だけでも「ダルビッシュの非凡さがうかがえる」と言う。

「あの2球目のカッターは、こっちが真っすぐを待っているとわかっていたから、投げたんだろう。あれが、あの外角低めに決まった時点で勝負はあった。3球目は外角低めに外れるスライダーを投げてくると思った。俺ならそうする。俺とダルビッシュのそれぞれの球種の軌道は似ているから、同じような配球になる」

■残像が利いているから見逃せず

そこまで分かっていて、なぜ見逃さなかったのか。「2球目の残像が利いているからだ。あのスライダーは打者の手元に来るまで曲がらないから、ひょっとしたらまたカッターで、見逃したら三振してしまうのでは、という意識が働く。あの2球目があるから、3球目がより効果的になる」

結局、2球目はまき餌としての役割も持っていたが、ダルビッシュはそうした伏線の張り方が実に巧みなのだという。それがまさにDeceptionを利用した配球でもあるが、それを可能とするのが、「ピッチトンネルだ」とバウアーは言う。

ピッチトンネルを簡単に説明すると、米データサイト「ベースボール・プロスペクタス」が2017年1月に定義したもので、まずホームベースの手前約7メートルの位置に小さな輪があるとイメージする。もしも複数の球種がその狭い輪の中を通るなら、打者は球種の判断が困難となり、仮にその輪を通過した後で球種を判別できたとしても、もはやボールは打者の手元にあり、反応する時間が残されていない、という理論構成になっている。

輪の位置は打者が球種を見抜いて反応できる最後の地点という捉え方もできるが、回転数や縦横の変化量をはじき出すSTATCAST(データ解析システム)のデータが公開されているBaseball Savant.comでは、その地点を「コミットポイント」と表現し、距離ではなく時間(ホームベースに達する0.167秒前)を基準としている。

ここで先程の2球目と3球目に話を戻すと、2つの球は見事に同じトンネルに入っており(イラスト参照)、打者には同じ球にしか見えない。ボール球を振らそうとしているのでは、と頭では理解できても、バウアーが言ったように2球目の残像があるため、それに縛られる。

ピッチトンネルのイメージ

1打席目の配球。外角低めの茶色が2球目。黄色が3球目。ピッチトンネルを表す黒い輪は筆者が加工(出所:Baseball Savant.com)

バウアーは2つの球の軌道が似ていることを、映像を重ねることでも検証しているが、加えてダルビッシュはどの球種を投げるときもフォームが変わらず、リリースポイントもほぼ一定。よって、「リリース時に打者が得られる情報も限りなく少ない」と指摘した。

2打席目もバウアーは翻弄された。

初球、カッターが外角低めに外れてボール。2球目もカッター。これはほぼ真ん中。しかしまだ、バウアーは真っすぐを待っており見逃す。3球目、ついにダルビッシュが真っすぐを投げてきてそれに反応したバウアーだったが、高めのボール球。これは捕手が外角低めにミットを構えていたので、制球ミスといえば制球ミス。しかし、高く外れたことで、バウアーのバットはボールにかすりもしなかった。

■同じピッチトンネルに入る球種多く

バウアーが感心したのは次の4球目。彼は、ダルビッシュが3球目に投げたボールの高さを利用し、そこからスライダーを曲げてくると考えた。1打席目の応用である。案の定、同じ高さに投げてきた。しかし、今度は曲がらなかった。外角高めいっぱいに真っすぐが決まり、バウアーは見逃し三振に終わったが、その配球をこう解説している。

「ダルビッシュは3球目の真っすぐを、1打席目とは逆の形で利用したんだ。こっちはボールになるスライダーを投げてくると割り切っていたから、振る気はなかった。1打席目で学んでいるからね。ところが、そこまで読んでゾーンに投げたのだろう」

ちなみにその4球目の真っすぐも、前の打席のカッター、スライダーと映像を重ねたところ、ほぼ同じ軌道。つまり、同じピッチトンネルに入っていた。

ダルビッシュはどの球種を投げるときもフォームが変わらず、リリースポイントもほぼ一定だ=USA TODAY

ダルビッシュはどの球種を投げるときもフォームが変わらず、リリースポイントもほぼ一定だ=USA TODAY

投手によって持ち球は異なるが、通常、同じピッチトンネルに入れられるのは2~3球種ではないか。真っすぐ、スライダー、落ちる球あたりが一般的だが、3球種あれば十分に効果的。高さ、コースを変えるなどすれば、応用の幅は広い。ダルビッシュの場合はしかし、ナックルカーブやツーシームなども真っすぐやカッター、スライダーと同じトンネルに入れられるので、ますます相手には厄介だ。

そして、それぞれの残像をどう利用するのか、それが巧み。相手の脳が、バグを起こすように配球を組み立てる。

「そういう意味では今、リーグのベストの一人だと思う」と言うバウアーは、こう結んだ。「彼との対戦では、参考になることがたくさんあった」

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