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日本製鉄、電磁鋼板に「チャイナショック」の試練

日本製鉄瀬戸内製鉄所広畑地区(兵庫県姫路市、2018年)
日経ビジネス電子版

日本製鉄が業績回復を懸けて電磁鋼板の積極投資を進める。電磁鋼板はハイブリッド車や電気自動車などエコカーのモーターに欠かせない高級鋼材で、日鉄が世界でリードしてきた。ただ足元ではトヨタ自動車が中国鉄鋼メーカー製を一部で採用するなど海外勢の追い上げが鮮明になっている。日鉄はハイグレード製品にも襲いかかる「チャイナショック」をはね返せるか。

新型コロナウイルス感染拡大による製造業不況のダメージは大きい。日鉄の粗鋼生産量は2021年3月期に連結ベースで3630万トンとなり、前期からの減少規模は1075万トンに上る見通し。生産出荷数量の減少は前期比で4000億円弱の事業利益の減益影響となる。コスト改善と減価償却費の減少を合わせた増益影響2500億円で補えず、21年3月期の連結事業損益は1200億円の赤字となる見込み。赤字は2期連続となる。厳しい事業環境の中で早期黒字化を目指し、高炉休止など決定済みの構造改革の前倒しや追加策を検討する。

「付加価値が高い製品によって利益を増やして損益分岐点を引き下げる」。宮本勝弘副社長は低採算の汎用品の生産を無理に戻すより、採算が高い電磁鋼板の生産量を増やすことを優先する方針を明らかにした。限界利益を増やせる戦略商品の数量拡大によって業績回復に弾みを付ける考えだ。

トヨタが中国・宝武鋼鉄集団の電磁鋼板を一部採用

電磁鋼板は変圧器、モーターの鉄心に使う磁性がある鋼板で、電力ロスを減らすほか、磁力を高める働きを担う。日鉄によれば、特に自動車向けは需要が急増して25年度には17年度のおよそ7倍に増える見込みという。

橋本英二社長は赤字脱却には「製鉄所のコスト競争力の回復とともに、世界の競争相手が追随できない戦略商品の強化が必要」とし、その筆頭である電磁鋼板について投資を惜しまない方針を示している。

すでに19年8月に九州製鉄所の八幡地区で460億円、19年11月に瀬戸内製鉄所の広畑地区で140億円、20年5月に再び八幡地区で100億円を投じて増強する計画を発表している。需要増とハイグレード化に対応しようと、さらに第4弾の設備投資を検討しており、決まり次第公表する予定だ。

電磁鋼板を巡っては気がかりな話がある。トヨタが中国鉄鋼最大手、宝武鋼鉄集団の電磁鋼板の採用を一部で始めた。中国でハイブリッド車の需要が爆発的に増えるとにらみ、日鉄やJFEスチールなどの日系メーカーだけでなく海外鉄鋼メーカーにも調達先を広げるとみられる。日鉄が貴重な収益源と位置づける電磁鋼板が草刈り場になれば、業績の早期回復はおぼつかない。

世界鉄鋼協会によると19年の粗鋼生産量では宝武は世界2位で9547万トン。3位の日鉄の5168万トン、5位のポスコ(韓国)の4312万トンを優に上回る。中国の鉄鋼メーカーは過剰生産した鋼材を海外に安くかつ大量に流して国際鋼材市況を崩す「チャイナショック」を過去何度も引き起こしてきた。電磁鋼板は汎用材とは異なるが宝武が規模に物を言わせて安価に提供すれば、同じサプライヤーとして日鉄にとっては脅威になり得る。

電磁鋼板には因縁がつきまとう。日鉄(当時は新日本製鉄)は、12年4月に変圧器などに用いる方向性電磁鋼板の製造技術を不正に取得して使用したとして、元従業員とポスコに賠償金を求めて提訴した。07年にポスコが争った別の裁判において、ポスコが不正に得た技術情報が宝武(当時は宝山鋼鉄)に流出していたことが分かっている。

宝武からの調達はつなぎ役にすぎないのか

日鉄は虎の子の電磁鋼板の競争で一歩も引かない構えだ。8月4日の電話決算説明会では宮本副社長は「(自動車メーカーによる宝武からの調達は)当社の体制が整うまでの渡りの期間の話かな、と認識している」と強気の姿勢を見せた。日鉄による電磁鋼板の増強投資が軌道に乗って安定して生産量を増やせるようになるまでの一定期間のつなぎ役にすぎないはず、との主張だ。

根拠はある。自動車が航続距離を伸ばし、燃費を低くし、走行性を高めるために、駆動用モーターに使う電磁鋼板には4つの高性能が不可欠となる。「高い磁力の発生」「低エネルギー損失」「高強度」「加工性」のことで、これら相反する性能を両立させる高難度の技術開発力において、日鉄は世界トップランナーだからだ。

コロナ禍で傷ついた製造業の需要回復には数年単位かかり、保護主義の流れも手伝ってサプライチェーンの仕組みは大きく変わる。橋本社長は「コロナ収束後、地産地消、自国産化の流れがますます広がる」と予想し、国内製鉄所が一定規模の生産を維持するためにも「自国産化の壁を乗り越えて世界に通用する商品を質、量ともに積極的に強化する」と身構える。電磁鋼板を襲ったチャイナショックをはね返せるかが今後の商品や事業のグローバル戦略を左右することは間違いない。

(日経ビジネス 岡田達也)

[日経ビジネス電子版 2020年8月20日の記事を再構成]

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