手本はゲイツ 資産140億円のカリスマが挑む社会貢献
市井の大投資家・片山晃氏に聞く

日経マネー特集
2020/8/26 2:00
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65万円の元手で始めた株式投資で140億円もの資産を築いたカリスマ投資家、片山晃氏 写真/都築雅人

65万円の元手で始めた株式投資で140億円もの資産を築いたカリスマ投資家、片山晃氏 写真/都築雅人

五月(ごがつ)のハンドルネームでも知られる著名個人投資家の片山晃氏(38)。65万円の元手で始めた株式投資で140億円もの資産を築いた希代の大投資家が、2つの試みを新たに始めた。一つは、未上場のベンチャー企業に出資する有力個人投資家のネットワーク作り。もう一つは、法人顧客向けのヘッジファンドだ。それぞれの狙いを聞いた。

片山晃(かたやま・あきら) 1982年生まれ。テレビドラマの影響を受け、23歳の2005年に65万円で株式投資を始め、7年半で12億円に増やす。13年に資産運用会社のレオス・キャピタルワークスに入社して機関投資家業務に従事した後、14年に再び個人投資家に戻って運用を再開。現在は株式で約140億円を運用するほか、未上場のベンチャー企業への投資や、17年に取得した競走馬の生産牧場にも数十億円を振り向けている。個別銘柄への集中投資を得意とし、空売りも駆使する

──これまで個人的に手掛けてきた未上場ベンチャー企業への投資を、大きな資産を持つ有力個人投資家に広げ、出資者のネットワークをつくる。そうした試みを始められたそうですね。その理由から伺えますか。

これまでも折に触れて話してきましたが、リスクマネーが株式市場に流入しなくなる事態を見据えてのことです。世界の中央銀行が金融政策の正常化に向けて緩和から引き締めに方向を転換すれば、そうした事態が起こり得ます。

コロナショックで経済が崩壊するのを防ぐため、各国の中央銀行と政府が未曽有の金融緩和と財政政策を展開している中で、「何を言っているんだ」と思われるかもしれません。ですが、金融緩和が永久に続くことはあり得ません。いつかは引き締めに転じます。

その時に真っ先に資金を調達できなくなって立ち行かなくなるのは、赤字で信用力のない未上場のスタートアップ企業です。そういう事態に備えて、セーフティーネット(安全網)をつくる。その動きを主導したいという考えが根底にあります。

未上場のスタートアップに個人的に投資し始めて7年がたち、投資案件の数が増え、金額も大きくなりました。8月3日に東証マザーズに上場した創薬ベンチャーのモダリスが、投資先で2社目のIPO(新規株式公開)を果たし、成果も上がり始めています。新たに打診を受ける投資案件も、質と量の両面で充実してきてもいます。

そこで資金の出し手を増やして、投資案件の増加にも対応したいとも考えました。案件によっては、私1人だけでは引き受けきれないけれども、複数の出し手がいれば対応できる性質のものもあります。その点でも資金の出し手を増やすことは重要です。

こうして資金の出し手になってくれる投資家を徐々に増やしていき、いざスタートアップに資金が回らない状況が現実のものになった時にも、リスクマネーを提供する集団をつくれればいいと思っています。

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■コロナショックがきっかけに

──このタイミングで取り組み始めたきっかけになったものはありますか。

やはりコロナショックですね。あのショックを受けて今年3月に株価の急落が続いた時に、スタートアップを支援すべき立場の方々がすごくうろたえていた。その姿が強く印象に残りました。

彼らは投資する側である一方で、ベンチャーキャピタルという金融商品を運用する立場でもあり、その資金を投資家から集めています。外部の投資家のリスク許容度に影響されるという意味では、マクロ経済や金融政策に対する依存度は高い。

「今回は株価がすぐに立ち直ったが、もし冬の時代が長く続くことになれば、一体誰がリスクマネーの供給を担うのか。長期にわたった良い時代の後だけに、担い手がかなりいなくなるのではないか」。そのように懸念せざるを得ませんでした。

「それなら、自分が資金の出し手を増やそう。それは絶対に価値のあることだ」。こう思い、有力個人投資家に資金を出してもらうという既に頭の中にあったアイデアを実行に移しました。

──現時点で出資者になった有力個人投資家は何人いますか。

5人です。2人はネット上で名前の知られている方です。あとはネットではあまり情報を発信していないけれども、数十億円の資産を持つ専業トレーダーの方、証券会社でディーラーをしていた経験のある方などです。

まずは個人的に交流のある方に声を掛けました。というのも、資産がある人なら誰でもいいというわけではないからです。

スタートアップへの投資はうまく行かないことの方が多い。失敗して、出資の見返りとして手にした株券が紙くずになることもあります。また、気分を害するような事態が発生することも多くあります。出資した会社の経営陣にウソをつかれたり、経営幹部同士がケンカして、片方が出ていったりというようなことが少なからず起きる。それにも耐えられる人でなければなりません。

「この人だったら、失敗してもそれを一つの糧として受け入れる度量がある。そういうシチュエーションが起きることも覚悟の上で、チャレンジしてくれそうだ」。こういう印象を持っている人に限定して打診しました。

彼らがスタートアップへの投資を体験して、「これは取り組む価値がある」と感じれば、自分の周囲にいる人の中で素養のありそうな人を誘うということも自然に起きるでしょう。そうした形で徐々に出資者が増えていけばいいと考えています。

■投資で稼いだお金を世の中のために使う

──既に有力個人投資家の出資が決まった案件はありますか。

5人のうち3人が、2社に出資しました。一つは、農業向けに小型センサー装置を提供するAmaterZ(アマテルズ、東京・港)。こちらはソニーで事業化に至らなかったプロジェクトがスタートアップとして独立した会社です。自然光と振動のエネルギーで発電し、電池を必要としない小型のセンサーを開発しています。

もう一つは、創薬ベンチャーのユビエンス(東京・中央)。国立医薬品食品衛生研究所の研究成果をもとにした医薬品の開発を手掛けている会社です。ジャスダックに上場している創薬ベンチャーのラクオリア創薬で経営幹部を務めていた武内博文氏が創業し、社長として経営のかじを取っています。この2社に合計2500万円を出資していただきました。

──出資の決め手となったポイントは?

AmaterZの方は、小型のセンサー装置を農業や工場での検査で使う実証実験に、複数の大企業と共同で取り組んでいる点が評価されたと思います。ユビエンスの方は、ラクオリアで経営に携わった実績を持つ人が経営していることに加えて、創薬についてのプレゼンテーションがしっかりしていて、期待を持つことができたのでしょう。

未上場のスタートアップに対する投資では、出資して手にした株が上場などで売れるようになるまで時間がかかります。何年も待つ覚悟が必要です。株が紙くずになる可能性もありますから、投資で利益を出すという尺度だけでは取り組めません。その会社が手掛けている事業や経営者にほれ込んで応援するという側面があります。

そこに投資家自身の価値観や嗜好が反映される余地がある。「困難なチャレンジだけれども、この事業なら応援したい。この経営者なら一緒に挑戦したい」という思いから出資するケースがあります。これはスタートアップ投資ならではの部分でしょう。事業については、成功すれば世の中が前向きに変わっていくというインパクトが求められます。経営者の力量や人間性も、投資を決断する上で大きな判断材料になります。

これは私の個人的な考えで、押しつけるつもりはないのですが、「せっかく投資でお金を稼いだのなら、社会的に意味のあることに使った方が充実するだろう」という思いが、今回の取り組みの根底にあります。こうした思いに共感して出資してくれる人が増えていけば、面白い投資家の集団になるでしょう。

■ヘッジファンドで外部の資産を運用

──次に、ヘッジファンドのシュバイツェル・インベストメント(東京・千代田)について伺います。社名は、片山さんがアニメ化を進めている金融冒険ノベル『WORLD END ECONOMiCA(ワールドエンドエコノミカ)』に登場する架空の資産運用会社から取っていますね。

実はそれには深い意味はありません。もともとは私個人の資産を運用するために立ち上げたもので、社名は重要でないと思っていました。いろいろと考えましたが、いい名前が浮かばなかったので、気に入っていた名前を付けました。もちろん、著者であるライトノベル作家の支倉凍砂さんから許可を得ています。

──片山さん自身は同社の資産運用に関与されているのですか。

私は運用には関与していません。シュバイツェルに全額出資している親会社の株主という立場です。独立系のヘッジファンドで運用を手掛けていた人が社長を務め、その下で計6人のファンドマネジャーとアナリストが運用や調査に携わっています。

日本株で値上がり期待の銘柄を買い持ちし、値下がりしそうな銘柄を空売りするロング・ショート戦略を展開する典型的なヘッジファンドです。現在運用しているのは私の資産だけですが、この6月に外部から資産運用を受託するファンドを立ち上げ、出資を募っています。

──顧客はどのような会社を想定していますか。

特に対象を限定してはいませんが、プロ向けファンドのライセンスなので、個人の場合には1億円以上の資産を持つ人ではないと出資を受けられないという規制があります。ですから、国内外の機関投資家や個人の富裕層が対象になります。

■「日本の社会的な課題を解決したい」

──もとは片山さん個人の資産を運用するために設立した会社を衣替えしたのはなぜでしょう。

株はもうかることもあれば、損をすることもあって不安定。その状態から抜け出したいと思ったことがまずあります。そのために、毎年利益が出てキャッシュフローを生み出す事業を持ちたいと考えました。そうすれば、私が設立してきた企業グループ全体の経営が安定し、金融機関から融資も受けられる。融資を引き出して資金が増えれば、もっといろいろなことに取り組めます。

事業を成功させて、融資を受けて資金の規模を拡大させていく。このサイクルを繰り返し、加速度的に資金を膨らませていけば、毎年計画的に巨額のお金を使えるようになります。

では、何に使うのか。ここはまだ漠然としていて、「こういうことをします」と明確に言うことはできないのですが、イメージしているのはビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団(米マイクロソフト元会長のビル・ゲイツ氏とその妻メリンダ・ゲイツ氏が2000年に創設した世界最大の慈善基金団体)です。

貧困や教育といった社会的な課題を解決するための資金を蓄えて投じるだけでなく、資金の配分や効率的な使い方も提案するシンクタンク的な機能も備える。そんな集団をつくりたいと考えています。

それに向けてキャッシュフローを安定的に生み出す事業を始めるなら、自分が長年取り組んできて、一番の強みでもある投資を柱の一つにしない手はありません。外部からお金を預かって、毎年一定の手数料をいただき、利益が出たら成功報酬を上乗せしていただく。こうしたファンドビジネスに最初に取り組むべきだと思い、外部から出資を受け入れることにしました。17年に会社を設立した時にはこうした考えはなかったので、ここ1~2年で起きた心境の変化によるものですね。

──何かきっかけはあったのですか。

特にこれがあってというわけではありません。ですが、せっかくこの世に生まれてきたからには、何か意義のあることに取り組みたい。そういう思いが根源的にありました。

お金にはパワーがある。それで何かができる。実際、自分の思いを伝えるためにアニメを作るとか、普通ではできないことができています。ならば、世の中のためになることもできるはず。別に使命感や義務感ではなくて、そういうことにお金を使っていくことが楽しそうに思えたのです。

──そういう心境の変化も、ビル・ゲイツ氏と相通じるところがありそうですね。

そうかもしれませんね。でも、私は身近な人から助けたいと考えていますので、まずは日本の問題の解決に取り組みます。ヘッジファンドは、その資金を稼ぐための事業の一つですが、キャッシュフローを生み出すのはこれが最も早いでしょう。

ヘッジファンドであれば、投資している会社の現場から生の情報を集めることができます。それが他に手掛ける事業でも活用できるとも期待しています。

(中野目純一)

日経マネー 2020年10月号 アフターコロナの配当生活入門

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/8/21)
価格 : 750円(税込み)

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