小説から楽曲生む「YOASOBI」 ライブもぜひやりたい
"小説から楽曲やミュージックビデオを制作する"スタイルで、人気の2人組ユニット、YOASOBI。ボカロPのAyaseと、ボーカルのikuraで2019年に結成。同年11月にミュージックビデオを公開した『夜に駆ける』が、ネットを中心に盛り上がり、今年1月にSNSで話題の曲がランクインするSpotify「バイラルチャート(日本)」で1位に。その後、コロナ禍で世間が自粛期間に入った後、ヒットが拡大。6月1日付のビルボード総合チャートでも首位を獲得した。結成の経緯から楽曲制作の裏側までを語ってくれた。

Ayase 僕はもともとバンドをやってて、活動休止後の18年12月から、ボカロPとして活動を始めました。すると昨年の6月頃に、(小説投稿サイト)「monogatari.com」の方から、「小説から楽曲を生み出すユニットを作りたいからコンポーザーをやってほしい」と声を掛けてもらって。そこから相方となる女性ボーカルを探すなかで、インスタグラムで弾き語りをするikuraの動画を発見したんです。声の透明感がすごくて、彼女なら小説の様々な主人公の感情を表現できると思って誘いました。
ikura 16年から私はシンガーソングライターとして活動をしていたんですけど、最初に声を掛けられたときは、小説を楽曲にするというイメージが全く湧かなくて……。ただそこで、Ayaseさんの楽曲をYouTubeで見たところ、私がアコースティックギターで作る曲とは違って、電子音がベースで、メロディーもリズムもすごく自由度が高かったんです。しかもサウンドはポップでキャッチーなのに、テーマはダークなものを扱っていたり。きっと今の若い子たちに刺さるんじゃないかと思って、ぜひお願いしますと。
Ayase それぞれソロ活動と両立しているので、打ち合わせはLINEで済ませることも多いんです。そこでお互いのイメージを固めておき、レコーディングで一発勝負みたいな。なのでコロナの自粛期間中でも、バンドなどとは違って、音楽活動は比較的スムーズにできていたと思いますね。
ikura この巣籠もり期間中に、『夜に駆ける』がテレビでも取り上げられるようにもなって、友達だけじゃなく学校の先生からも連絡がきました(笑)。私たちの場合は、小説、楽曲、ミュージックビデオと、3つのコンテンツがある上に、改めて小説を読み返したり、曲を聴き直すなど、繰り返すことで世界観がどんどん広がっていく。おうち時間が長くなるなかで、そういう楽しみ方をしてくれた人たちが多かったのかなって。
Ayase 確かにこの自粛期間に、サブスクやミュージックビデオの再生数が大きく伸びていったもんね。本来であればライトユーザーで止まっていたような人たちが、より深いリスナーになってくれたのはあると思いますね。
小説から感じた"色"を音に
『夜に駆ける』の原作小説は、飛び降り自殺を図ろうとしていた彼女と、その姿に一目ぼれした僕について描いた『タナトスの誘惑』(作者・星野舞夜)。小説から曲を生み出す過程は、どのようなものなのだろうか。

小説は大げさじゃなく100回以上読み込みますね。その際に僕が大切にしているのが、感覚的に感じた色味です。今作は一見、恋愛の話のように見えるんですけど、クライマックスに向けて予想外の方向に話が進んでいく。美しさの中にグロテスクなものが内包されている感覚から、ピンクという色が浮かんだんです。そこでサウンドは、あえてリズミカルにピアノが鳴る、めちゃくちゃキャッチーなものにしました。
ikura 初めて音源を聴いたときに、原作から想像していたものと真逆だったので正直驚きました。でも逆に音が明るいことで、本当の意味での怖さみたいなものが表現できていると思います。
Ayase 歌詞は、小説の言葉をそのまま使っても面白くないし、自分の言葉に置き換えすぎても小説とのリンク率が下がってしまう。そのバランスを考えて作るのが大変でした。曲を先に聴いた人が小説を読んで初めて、「夜に駆けるってそういう意味だったんだ!」みたいな驚きもあるようにしています。
現在2500万回再生を突破する『夜に駆ける』のミュージックビデオの監督は、椎名林檎のツアー映像なども手掛ける、藍にいな。これも、Ayase自身の人選だという。
Ayase やはり僕たちはボカロシーンから出てきたイメージが強かったと思うので、あえてその界隈(かいわい)で見慣れない絵柄にすることで新鮮さを出したかったんです。その点、藍にいなさんの映像は、アニメタッチでも写実的でもなく、抽象的なところがいいなと。小説から受けた印象の色も伝えて、ピンクをテーマカラーにしてもらっています。
ikura すごく優雅で品のある映像でありながら、小説のグロテスクさと曲のポップさの、まさに中間を表現してくれているのが素晴らしいと私は思いました。
今年1月には、第2弾の『あの夢をなぞって』、5月には第3弾の『ハルジオン』、そして7月には最新作『たぶん』をリリースしているが、今後はどのような展開を考えているのだろうか。
Ayase 『ハルジオン』は作っていたのが今年の早春だったんです。なかなか季節を楽しめる状況ではなかったので、聴いてくれて人たちが少しでも春を感じてもらえればと、アコースティックの音色を強調しました。今後は、小説じゃなくマンガから曲を作るなど、別のものから引用するのも面白いかなと思ってます。
ikura ヒップホップなどいろんなジャンルの楽曲で小説を具現化していきたいですね。ライブもぜひやりたいと思っています。

(ライター 中桐基善)
[日経エンタテインメント! 2020年8月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。