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悲しみを包み込む御巣鷹の尾根 日航事故35年

墜落事故で夫を亡くした小澤さん(左)が津波で娘を亡くした早坂さんに優しく声をかける(12日、群馬県上野村の御巣鷹の尾根)

強い日差しを和らげる木々と渓流の水音に包まれ、多くの人が群馬県上野村の御巣鷹の尾根を目指した。

1985年夏、日航ジャンボ機が墜落、焼け焦げた山はいま、いとしい人と突然別れ、深淵の悲痛を抱く様々な人たちを包み込むような緑をたたえる。

墜落事故、津波で家族を亡くした人たちが一緒にシャボン玉を吹き、慰霊する(群馬県上野村)

8月12日朝。宮城県亘理町の早坂満さん(58)、由里子さん(57)夫妻が登山口から尾根を目指して登り始めた。

東日本大震災の津波で娘の薫さん(当時18)を亡くした早坂さん夫妻は、「8.12連絡会」事務局長で、次男の健ちゃん(同9)を事故で失った美谷島邦子さん(73)と縁を結び、2018年から登り続ける。

尾根中腹で一息ついていると、大阪府の小澤紀美さん(64)が声をかけた。事故で夫(同29)を亡くした小澤さんは当時おなかにいた息子夫婦と共に慰霊登山。「大切な人を亡くした悲しみは10年、20年ごと、毎年あります。悲しみを持つ同士、一緒に歩みましょうね」。小澤さんの言葉に包み込まれ、由里子さんの目から涙があふれる。

「娘がくれた縁です。同じ悲しみが起きないよう、できることをします」。早坂さん夫妻は思いを新たに尾根を後にした。

慰霊登山を控え、尾根山道にかかる木の枝を刈り込む美谷島善昭さん(群馬県上野村、7月25日)

遺族を穏やかに迎えた尾根は、昨秋の台風19号で深刻な被害を負った。美谷島さんの夫の善昭さん(73)と、事故直後から家族支援を続ける日本航空OBの大島文雄さん(76)たちが毎年取り組む尾根の整備作業は今年コロナ禍の影響を受け、6月初旬からに。日航社員や賛同者と共に墓標の移設や「水源」と呼ぶ貯水ますの復旧に取り組んだ。

御巣鷹の尾根各所に水を供給する水源に、昨年秋の台風19号によって土砂と石が大量に堆積。復旧作業は難航した(群馬県上野村、6月6日)

尾根の各所に給水する水源は渓流横の急傾斜地にあり、深さ約2メートルあるが、例年に増して土砂や大きな石に埋まり、手作業は難航。「20回スコップでかき出したら交代!」。善昭さんが大きく号令をかける。

慰霊登山前日の8月11日、墓標の建て直しをする美谷島善昭さん(右)と大島文雄さん(群馬県上野村)

2人の協働は今年で11年。慰霊登山の日に遺族が墓標前でゆっくり心地よく、亡くなった家族と話せる環境をつくりたい。7月下旬、登山前日の11日も尾根各所を何度も巡った。全ての墓標の位置と遺族の心情も記憶する大島さんの指示で傾く墓標を立て直し、道を覆う枝を刈り取る。

宮城県名取市閖上で娘の和海さん(同14)、妻のりつ子さん(同42)と義父母の4人を津波で亡くした自衛官、佐々木清和さん(53)も美谷島さんとの縁を得、5回目の登山。健ちゃんの墓標に毎年こいのぼりを立てる。

「村の人々や遺族、日航社員、ボランティアが力を合わせ整備し続けた尾根が、家族を亡くした人を優しく包み込んでくれる」。佐々木さんは尾根で感じた思いを胸に、語り部活動で日常が続く尊さを説く。

「悲しみの人の思いをつなぎ続け、御巣鷹の尾根は優しい山になった」。美谷島さんは縁が結ぶ緑の山を見上げた。(小林隆)

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