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フィンテック企業投資 鈍る日本、伸びる韓国

韓国ではフィンテック企業への積極投資が続いている(ネイバーペイのQRコード決済)
CBINSIGHTS

日本と韓国のフィンテックはこの5年で飛躍的に成長した。2015年~20年6月の日本と韓国に拠点を置くフィンテック企業へのエクイティ投資(株式取得・引き受けを伴う投資)件数は計416件、投資額は計36億ドルに上った。19年の合計投資額は過去最高に達したが、両国の取り組みの違いは明確になりつつある。韓国は日本よりも金融サービスのイノベーション(技術革新)の採用に積極的なようだ。

今回のリポートでは、日韓のフィンテックの投資動向や課題、予想される影響について取り上げる。

違いがあらわになり始めた日韓の成長

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

日韓のフィンテックの投資動向は、それぞれ異なるシナリオを示している。

19年の日本のフィンテック投資件数は67件で、前年の72件から減少した。投資総額も4億900万ドルと、前年の5億7600万ドルから3割近く減った。

19年の日本のフィンテック投資件数は減少 (15年~20年6月の日本に拠点を置くフィンテック企業への投資額と件数)

一方、19年の韓国のフィンテック投資件数は36件と、前年の35件からやや増えた。投資総額は9億7700万ドルで、前年の2億1000万ドルから365%も増えた。もっとも、この急増は韓国ネット大手ネイバーの金融子会社ネイバーフィナンシャル(Naver Financial)が6億8300万ドルの出資を受けたことが大きい。

19年の韓国のフィンテック投資、件数も金額も増加 (15年~20年6月の韓国に拠点を置くフィンテック企業への投資額と件数)

ネイバーフィナンシャルは韓国証券大手の未来アセット金融グループから戦略的出資を受け、決済部門「ネイバーペイ」を分離した。これは韓国で過去最大級のフィンテック投資となっている。

この投資を除いても、19年の韓国のフィンテック投資額は前年よりも増えた。投資件数はほぼ同じなのに投資額が増えたのは、この分野が成熟したことを示している可能性がある。

新型コロナウイルスの感染拡大は両国の投資件数と投資額に大きな影響を及ぼすとみられる。20年1~6月期の日本の投資件数は23件、投資額は2億1300万ドルで、韓国は9件、1億4500万ドルだった。年末までこのペースが続けば、20年通年の両国の投資件数と投資額は数年ぶりの低水準になる。

日本 スマートフォン決済各社、現金からのシェア奪取に苦戦

日本ではデジタル決済やスマホ決済の普及がアジアの他の国よりも遅れている。大手国際会計事務所の英アーンスト・アンド・ヤング(EY)の「世界フィンテック導入指標2019」によると、日本のフィンテック普及率は34%で、27カ国・地域のうち最下位に沈んでいる。

日本ではなお電子決済よりも現金が好まれているのがその主な理由だろう。独調査会社スタティスタが19年6月に実施した調査によると、日本で最も好まれている決済手段は現金で、他の選択肢よりも現金を好むと答えた人は93%を占めた。

日本では現金が最も好ましい決済手段(19年6月時点の日本での好ましい決済手段)

もっとも、スマホ決済各社は現金の牙城に挑むため、様々な金銭的支援を受けている。

ソフトバンクグループソフトバンク、ヤフーの共同出資事業で、インドの電子決済サービス「Paytm(ペイティーエム)」と連携するスマホ決済「ペイペイ」は、利用者が2500万人を超え(編集部注:20年6月29日に3000万人突破)、月間の決済回数は1億回以上、加盟店は190万店以上としている。直近では19年4~6月期にソフトバンクグループから4億1800万ドルの出資を受けた。

ペイペイは新規顧客を獲得するために最大40%のボーナスポイント還元キャンペーンを発表し、加盟店の手数料を21年9月まで免除している。さらに、他の金融機関にペイペイ上でのサービス提供も促している。みずほフィナンシャルグループは今年6月、ペイペイで個人向け融資や株式売買サービスを展開すると発表した。

日本の主なスマホ決済企業:ペイペイ、LINE、メルカリ

同様に、SNS(交流サイト)大手のLINEは、中国のテクノロジー大手、騰訊控股(テンセント)とアント・フィナンシャルが開拓した「スーパーアプリ」戦略に倣い、独自の金融サービス・商品の経済圏を築きつつある。

LINEは19年4~6月期時点で月間アクティブユーザーが8000万人以上(編集部注:20年3月末時点で8400万人)、スマホ決済「LINEペイ」利用者が3200万人(同:20年6月末時点で3880万人)としている。19年6月には米VISAと提携し、アプリ上でクレジットカードを申請・発行できるようにした。

さらに、フリマアプリ大手のメルカリは1月、スマホ決済「オリガミペイ」を運営するオリガミを買収し、自社のスマホ決済「メルペイ」に統合すると発表した。

日本の銀行、フィンテック導入に二の足

日本は現金社会である上に、伝統的な銀行のデジタル化は遅々として進んでいない。既存各行は利ざやが縮小しているため、銀行の基幹システムを外部企業に開放する「オープンバンキング」などフィンテックに有利となる改革に抵抗している。

日本の銀行、収益減少でオープンバンキング規制を警戒

規制当局は競争を促すために銀行とフィンテックスタートアップのデータ連携に関する新たな規制を策定した。だが、これはほとんど進展していない。銀行は厳重に管理する顧客データへのアクセスを求めるフィンテック企業に対し、依然として高い手数料を課している。

韓国 覇権を争うチャレンジャーバンク

日本とは対照的に、韓国のフィンテック経済圏は技術が進歩し、消費者にも普及している。韓国は既にほぼキャッシュレス社会で、資金の潤沢なチャレンジャーバンク(新興のデジタル銀行)が急速に勢いを増している。

韓国はデジタル・電子決済の普及率が非常に高い。調査会社グローバルデータによると、カード決済の回数は年平均100回を超え、国内銀行の大半はもはや現金での預金を取り扱っていない。韓国のフィンテック経済圏はいくつかの点で、現金がほぼ無意味になっている中国に近づきつつある。

こうした環境を受け、チャレンジャーバンクは多額の資金を調達している。

潤沢な資金力を誇る二大勢力がカカオバンク(Kakao Bank)とトス(Toss)だ。カカオバンクは人気の高いスマホ決済「カカオペイ」の銀行部門で、20年6月にアント・フィナンシャルから9500万ドルの出資を受けた。トスの累積調達額は公表ベースで2億6100万ドルに上り、さらに2億ドルの調達を目指しているとされる。

カカオバンクの口座数は1000万口座に達し、預金残高は150億ドルを超えている。一方、韓国の人口の4分の1以上がトスを利用している。

韓国ではチャレンジャーバンクが激突

韓国の規制当局も「インターネット限定」で認可を与えることで、トスやカカオ、Kバンクなどのネット専業銀行を受け入れている。さらに、オープンバンキング規制により、既存と新興の金融サービス提供者に対して顧客データを自由にやりとりするよう義務付けている。

今後の見通し

これらの点は、日本と韓国のフィンテックへの取り組みが徐々に分かれつつあることを示している。

韓国は金融サービスの技術革新を積極的に受け入れているが、日本は新興勢が推進する変革に様々な形で抵抗している。ただ、長期的に見れば、両国の取り組みがそれぞれの金融サービスの質や効率に影響を及ぼすのかどうか、まだ定かではない。

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