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球児 夢に万感、一瞬の夏 高校野球交流試合が幕

智弁和歌山に勝利し、笑顔で駆けだす尽誠学園ナイン=共同

敗れて涙する選手が少なかったのは、勝者にも次戦はないという条件の等しさもあるだろう。一戦に全てを懸ける意味では全チームが決勝のつもりで戦ったともいえ、単なる交流試合がトーナメント戦に劣らぬ熱を帯びたのもうなずける。

勝利が次の試合につながらないむなしさを感じた選手は多かったはず。ただ、たった1試合だからこそ、甲子園に立つ夢がかなった喜びはひとしおだったともいえる。仙台育英(宮城)に勝った倉敷商(岡山)の梶山和洋監督は「勝ち上がれる大会よりも価値があるのでは。(1試合しかなく)モチベーションが下がる可能性のある大会。人間力がなければ勝てない」と語った。

この数カ月間は高校生が受け止めきれないほどの激動の期間だった。3月に全国選抜大会の中止が決定。5月には夏の甲子園大会と、その予選の地方大会の中止も決まった。目指すべき大会がなくなったことに加えて、休校や部活動の休止で仲間や監督に会うこともできず、選手は孤立感にさいなまれた。

選抜大会については、32の代表校が決まった後に中止が決定。それだけに、32校を救済するための交流試合が実現したことに、国士舘(東京)の渡辺隆部長は「地獄から天国に来た気持ち」と感謝した。

新型コロナウイルスの感染防止へ、球場での観戦は選手の家族ら一部に限られた。出場校の大応援団で埋まるはずだったアルプス席は、ファウルボール回収のため2人一組で配置された各チームの野球部員がぽつんと座っているだけだった。

それでも星稜(石川)の林和成監督は「甲子園は甲子園。観客はいなかったが、温かく迎え入れてくれた」と話した。閑散としていながらグラウンドに立つ者に寂しさを感じさせない。それだけの包容力が甲子園の器にはあるということか。

勝利チームが校歌を歌う際に選手間で一定の距離を取ったり、試合が終わるたびにベンチを消毒したりと、様々な感染対策が取られた。選手は円陣で大声を出さないなどプレー以外でも気遣いが求められた。

できる限りの策が施された一方、新規感染者数が増えている中での関西への移動に「正直、不安はあった」と漏らす学校関係者も。国士舘は全てのベンチ入り選手やスタッフがPCR検査を受け、全員陰性の結果を手に甲子園入り。戦う前段階の準備に忙殺される異例の試合だった。

交流試合ではベンチ入りできる選手が18人から20人に増加。監督や記録員を含めると1チーム30人ほどだったが、これだけの所帯がベンチで密状態にならないための工夫など、なお検討すべき課題はあるだろう。それでも、大過なき閉幕は全てのチームが勝利よりも欲していたもの。困難な状況下での開催は、全国の高校野球関係者に得難い経験と教訓をもたらしたといえよう。(合六謙二)

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