ユーグレナ出雲氏の達観「それでも日本は変わらない」

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2020/8/19 2:00
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出雲充(いずも・みつる)氏 ユーグレナ社長。1980年、広島県生まれ。2002年に東京大学農学部農業構造経営学専修課程を卒業し、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入社。05年8月、ユーグレナを設立

出雲充(いずも・みつる)氏 ユーグレナ社長。1980年、広島県生まれ。2002年に東京大学農学部農業構造経営学専修課程を卒業し、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入社。05年8月、ユーグレナを設立

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新型コロナウイルスの猛威は、日本が抱える様々な課題や欠陥を明らかにした。世界の秩序が変わろうとする中、どうすれば日本を再興の道へと導けるのか。今回はミドリムシを原料とする食品や繊維、燃料などの開発を手掛けるユーグレナの創業社長、出雲充氏に聞いた。

――本日は「コロナ禍から日本を再興するには」というテーマでお話していただきたいと思っています。

「日経ビジネスでは毎年のように『日本を再興するにはどうすればいいか』というテーマで著名人を登場させていますよね。ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長や、ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長、三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長など有名経営者をよくお見かけします」

「同じような企画を続けて約30年がたちました。しかし日本は再興することなく、ついに『失われた30年』を迎えてしまいました。今年も同じような企画の記事を載せても、何も変わらないのではないですか?」

――コロナ禍でも変わりませんか?

「変わりそうな感じ、します? コロナ禍をきっかけに急浮上した『9月入学』の議論は立ち消えになりそうです。緊急事態宣言が解除されてからは普通に出社する人が増えていますし、職場では依然としてハンコが広く使われています。コロナ禍が終息すれば、元の生活に戻るのではないですか」

「で、今日は何の取材なんでしたっけ」

――コロナ禍からの日本の再興です。

「そうでした。30年にわたって変革できていなくとも、諦めずに『何だよ、この状況は』と指摘し続けることは意味があると思っています。気を取り直しましょう」

――よろしくお願いします。

「スイスのビジネススクールIMDが毎年まとめる『世界競争力ランキング』によると、1992年まで4年連続首位だった日本は、その後順位を下げ、2020年版では調査対象の63カ国・地域のうち、34位と最低を更新しました。約30年間、何一つ進歩せずに浪人生活を続けたことになります」

「学生だったら『30浪』なんてあり得ないじゃないですか。普通は自分の弱点を認識し、改善するんだと思うんです」

――何が日本の弱点だと思いますか?

「起業家精神が弱いことと、デジタル化が遅れていることです。残念ながらIMDの調査では日本の『起業家精神』は最下位の63位で、『デジタル技術のスキル』は62位です」

――確かに日本人の起業家精神は弱そうです。それでも出雲さんの出身校である東京大学は大学発ベンチャーの数で国内の他校を圧倒しています。出雲さんにも取材にご協力いただいた日経ビジネスの特集「東大の力」(6月8日号)でも東大で起業が盛んなことは詳報しましたよ。

「東大の場合、各務茂夫教授という卓越した先生が、起業家精神を教える授業やインキュベーション施設、ベンチャーキャピタルなど、一から十まで起業家を輩出するためのエコシステムを学内に地道にそろえたおかげです。日本の場合、このやり方しかないでしょうね」

――つまり日本人は一般的にアニマルスピリット(血気)が乏しく、一から十までお膳立てしないと、大学発ベンチャーは盛んにならない、と。

「でしょうね。日本人の価値観や気性にあらがっても仕方ありません。大学の研究者や学生たちの起業を促すためにも、東大モデルを他校に広げていく必要があります。大学発ベンチャーが増えれば国際競争力が高まり、日本が復活するというシナリオは十分にあり得ます。私もそのためにできることは何だってやろうと思っています。企業経営の傍ら投資家として大学発ベンチャーを応援しているのもそのためです」

出雲氏は起業家を志す後進を支援するエンジェル投資家としても知られる

出雲氏は起業家を志す後進を支援するエンジェル投資家としても知られる

――分かりました。もう1つの弱点であるデジタル化の遅れについてはどうですか?

「日本企業はデジタル技術を十分に活用できていないから労働生産性が低く、国際競争力が下がっています」

――けれど日本は生産性が低いためにより多くの労働力を必要とし、結果として失業率が低く抑えられている。そんな見方もできます。

■「痛みなき改革」で30年間を失った

「そう、まさにおっしゃる通りです。失業率を上げずにデジタルトランスフォーメーション(DX)を実行することは不可能です。低失業率というメリットを手放したくないから、デジタル化しない。これが日本株式会社の現状です」

――一方、デジタル化で世界をリードする米国では失業者が増えるなどして貧富の格差が拡大し、社会への不満が高まっています。もしかしたら日本のほうが幸せに暮らせる社会なのかも、とも思ってしまいます。

「ということはデジタル化が遅れているということは、大した欠点じゃないんですよ」

――えっ? 日本の欠点じゃない?

「はい。日本の生産性が低いというのは、許容できる欠点なんじゃないんですか」

――そして30年間、何も変わらなかった……。

「おっ、すごい考察ですね」

――最終的にお話が一周回ってしまって、結論が出なかったじゃないですか。

「いやいや、結論出たじゃないですか。日本は30年にわたって、実は失業率を抑えたまま、生産性を高めるという、本来両立しない『いいとこ取り』を目指して失敗してきた。日本人の総意として失業率を高めてまで、生産性を上げようという意思がそもそもなかったというのがオチなんじゃないですか」

(日経ビジネス 吉野次郎)

[日経ビジネス電子版 2020年8月17日の記事を再構成]

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