無症状者検査で感染抑制 英、経済再開でも陽性率低下
世界各国の新型コロナウイルスの感染状況などの比較で、無症状者への検査の増加が封じ込めのカギを握る実態が見えてきた。英国は検査対象を広げ無症状からの感染拡大を抑制した。検査や感染防止が不徹底な日本や米国は感染拡大が続く。都市封鎖などに加え、検査対象の拡大が明暗を分ける要因になっている。
英大学の研究者らのデータベースから1日あたり検査数(7日間の移動平均)が1千件以上で、7月末の時点で2カ月前より検査数が増えた54カ国を比較した。感染拡大の目安となる陽性率でみると、英国やカナダ、フランスなど20カ国で低下、日本や米国など34カ国で上昇していた。
英国では6月1日時点の検査は約7万7千件で感染者は約1500人となり、陽性率は2%だった。7月末時点で検査は約12万8千件に増えたが感染者は約500人に減少、陽性率は0.4%まで下がった。
英国は地域限定の都市封鎖(ロックダウン)を継続するとともに、増強した検査能力で対象者を拡大した。集団感染が発生した場所では積極的に検査し、無症状の感染者を見つけている。
さらに介護施設職員は毎週検査を受け、タクシー運転手など感染リスクが高い人を対象に検査を実施している。感染者が欧州で最多の時期もあったが、経済活動の再開を広げている。
カナダも米国との国境封鎖や部分的な緊急事態宣言を継続して感染拡大を抑え込んでいる。
英キングス・カレッジ・ロンドン大(国際保健)の渋谷健司教授は「感染者数が減ったときこそ、経済活動の再開に向け、検査の網を広げて早期に再燃を抑え込む対策が必要」と指摘する。

一方、米国は6月1日時点の検査数約50万件に対し新規感染者は2万人余りで、陽性率は約4%だった。7月末には検査は80万件超、感染者は3倍を超える約6万6千人に達し、陽性率は約8%と倍増した。
ニューヨーク市は「トレーサー」と呼ぶ担当者3000人を雇い、濃厚接触者を探し出して感染を封じ込めたが、フロリダ州やテキサス州などでは感染拡大が続き、陽性率も上昇している地域がある。
検査の増加が感染抑制につながっていない状況はスペイン、インド、南アフリカでもみられた。
日本も同様だ。厚生労働省によると、6月1日時点で検査が約3千件で感染者は約40人、陽性率は1.4%。7月31日時点で検査は5倍の1万5千件超、感染者は約25倍の約1千人となり、陽性率は6.6%となった。
6月1日時点の陽性率を維持できていれば感染者は約220人だった計算になる。政府や東京都は7月の感染者数の増加について「検査数が増えたことが一因」と説明したが、感染自体が広がっていることは明らかだ。
日本は緊急事態宣言で感染者が減り、検査能力は増えたものの、英国のように検査対象を拡大しなかった。潜在化するウイルスを早期に見つけてクラスター(感染者集団)発生を防ぐには、検査対象拡大が必要となる。
厚労省によると、PCR検査能力は拡充され、全国的にはピーク時でも対応できるという。だが不足している県もある。
愛知県は厚労省の調査に1日最大約1800人の検体を採取、分析できると回答。ところが陽性率は7月中旬から急上昇し、2日までの1週間では18.5%で全国で最も高い。大阪府も11.1%で政府の分科会が掲げた指標の10%を超えた。同省の専門家組織は「検査が追いついていない可能性がある」と指摘する。
感染が拡大した沖縄県は7日、濃厚接触者のPCR検査は症状が出ている人に限定することを発表。無症状でも濃厚接触者全員を検査していたが「検査結果の迅速な報告が困難になったため」(同県)という。
英国でも感染が緩やかだが再拡大するなどウイルスの抑制は容易ではない。ただ、経済・社会活動を継続しながら感染者を減らすためには、感染防止策の徹底と無症状でも感染リスクが高い人に検査する態勢がカギとなる。日本は3~5月の教訓を十分に生かせていない。
(社会保障エディター 前村聡)

日経実力病院調査を企画したほか、がん、心臓、脳疾患、老衰、医療費の実態を公開データなどからデータジャーナリズムの手法で市区町村別に分析、「見える化」した記事を執筆しています。厚生労働省担当として医療安全、薬害、感染症対策、児童虐待、食品安全、過労死問題などのほか、阪神大震災、東日本大震災、熊本地震など災害取材も多く、安全・安心な社会のあり方を模索しています。現職は社会保障エディター。共著に「医療再生」「砂上の安心網」など。カバージャンル
経歴
活動実績
2022年8月6日
日本赤十字社九州ブロック血液センター主催のシンポジウムで「日本のコロナ『敗戦』〜医療安全の行き詰まりとの共通点」をテーマに講演
2022年7月31日
医療事故・紛争対応研究会で「記者の立場から見た情報開示」をテーマに講演
2022年7月14日
消費者関連専門家会議(ACAP)の「アクティブシニア研究会」で「データで読み解く高齢社会の現状と課題」をテーマに講演
2022年5月27日
国際医療福祉大大学院で「新型インフルの行動計画の検証と感染症計画のあり方」を講義
2022年3月30日
米国研究製薬工業協会主催の会議で「米国と日本の患者団体のあり方と課題」を講演
2022年3月28日
国会議員主催の勉強会で「次なるパンデミックに備えた医療提供体制等の改革」を講演
2022年3月26日
医療事故・紛争対応研究会の年次総会で「新型コロナと日本の医療提供体制の課題」を講演
2022年2月28日
日本総合研究所「持続可能で質の高い医療提供体制構築に向けた研究チーム」のラウンドテーブルに登壇
2022年1月30日
CancerX Summit 2022でパネル討論「がんの社会課題にみえるギャップ」に登壇
2022年1月20日
企業の管理者向けセミナ―で「コロナで浮き彫り、日本医療の脆弱性を考える」を講演
2021年12月22日
日本公衆衛生学会総会で「第8次医療計画と『感染症』〜新型コロナの教訓をどう活かすか?」を講演
2021年12月13日
東京大学大学院公衆衛生学講座で「医療政策の決定過程〜コロナ禍でPublic Healthに期待される役割」を講義
2021年12月10日
共著「事例から学ぶ『医療事故調査制度』活用BOOK」を篠原出版新社から出版
2021年11月26日
国際医療福祉大大学院で「地域の課題抽出のために医療・介護・福祉・社会の横断的データセットを活用する」を講義
2021年10月31日
医療事故・紛争対応研究会で「記者の立場から見た情報開示」をテーマに講演
2021年10月28日
横浜日経懇話会で「医療における社会課題の解決と民間の役割」をテーマに講演
2021年10月27日
政策懇談会で「新型コロナで浮き彫りになった医療提供体制の課題」をテーマに講演
2021年10月2日
東海青年医会パネルディスカッションで「コロナ禍の教訓をどう活かすか」をテーマに講演
2021年8月26日
日本経済社で「医療における社会課題の解決と民間の役割」をテーマに講演
2021年4月23日
国際医療福祉大大学院で「医療関係計画PDCAサイクルのこれまでとこれから」を講義
2021年3月27日
医療事故・紛争対応研究会で「医療安全対策をめぐる過去30年間の総括と今後の課題:社会の視点から」をテーマに講演
2020年12月26日
メディカルジャーナリズム勉強会「新型コロナ、メディアは責務を果たしたか」に登壇(オンライン開催)
2020年12月14日
東京大学大学院公衆衛生学講座で「新型コロナ政策の決定過程」を講義
2020年10月22日
日本公衆衛生学会シンポジウムで「医療計画とがん計画の中間評価 あるべきインパクト評価とEBPM普及への道」を講演
2020年10月4日
医療事故・紛争対応研究会で「記者の立場から見た情報開示」をテーマに講演
2020年10月2日
国際医療福祉大大学院で「新型コロナウイルス対策とデータジャーナリズム」を講義
2020年9月27日
日本ヘルスコミュニケーション学会特別シンポジウム「新型コロナウイルス感染症に関するリスクコミュニケーション」で指定発言
2020年8月25日
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2020年6月19日
日経xTECHオンラインセミナー「新型コロナ死者数、本当は? 『超過死亡』で見えた政府統計システムの大問題」をテーマに講演
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国際医療福祉大大学院で「政策評価と日本の医療の将来」をテーマにオンライン講義
2020年5月12日
共著「無駄だらけの社会保障」(日経プレミアシリーズ)を日経BPから出版
2020年4月20日
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2020年2月2日
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2019年12月16日
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2019年11月29日
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2019年9月29日
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共著「2030年からの警告 社会保障 砂上の安心網」を日本経済新聞出版社から出版