ヒトと自然に優しいという新しい条件
編集長コラム

2020/8/14 20:00

14日の東京株式市場で、日経平均株価は、2月下旬のコロナ・ショック前の水準まで、あと一歩に迫りました。上場企業の4~6月期決算発表も終盤に入り、日経平均株価、米ダウ工業株30種平均は半年ぶり高値圏まで戻ってきました。米S&P500種株価指数は最高値更新をうかがう水準にあります。

感染再拡大への懸念と経済正常化に向けた期待による強弱感が交錯するなかで、新しい需要をつかみ、次の成長や立て直しのきっかけをつかもうとしている企業も出てきました。株価はそんなメッセージを敏感にとらえます。

医療用のN95マスクは世界中で深刻な不足に陥った

医療用のN95マスクは世界中で深刻な不足に陥った

13日午後、2021年3月期の業績見通しを上方修正した三井化学は大引けにかけて9%高まで急伸しました。4~6月期連結決算は最終赤字でしたが、通期の純利益の減益幅は期初見通しの4割減から2割減に小さくなるという内容でした。

期初の慎重な見通しを上回りそうな理由は2つあります。ひとつは、石油化学製品の原料になるナフサが高値で推移していること。2つめは新型コロナウイルスの感染予防に必須のマスクや医療用ガウンに使う不織布の需要が急拡大しつつあることです。自動車のバンパーなどに使う樹脂の需要も戻り始め、株価は4月の安値から4割高の水準まで回復しました。

コロナ危機に際し、今春は世界中がマスク不足に陥りました。マスクを求めて店を訪ね歩いたり、気になりながらも同じマスクを数日使わざるをえなかったりする状況に陥った方々も多かったと思います。不織布を生産する三井化学が手がけたのは、名古屋大学とスタートアップと組み、3Dプリンターを使って再利用できるマスクの開発でした。3Dプリンターでつくったマスクの本体部分に、使い捨ての不織布フィルターを組み合わせて使う仕組みです。コロナウイルス対応が長期化する前提で、自社の強みを生かして必要な物資を新しい枠組みで提供しようとする試みが様々な場面で始まっています。

コロナ危機によって、ヒトの健康を害する存在への脅威が改めて意識されるようになりました。危機にあっても企業は働く人々を守りながら、機敏に修正して対応できる強さを備えているか、ヒトや自然を害しない企業活動を志向しているか、その取り組みが企業価値を左右するようになっています。ムダの少ない循環型経済(サーキュラー・エコノミー)に資する活動を意識しているか、国連が主導するSDGs(持続可能か開発目標)に沿っているかといったモノサシで、企業を選別する投資マネーの潮流が太く速くなっています。

この分野で先行するのは欧州企業です。欧州圏の経済は苦境にありますが、オランダの家電・ヘルスケア大手、フィリップスは10年ほど前から、電球を売るビジネスを電力消費量が少ない発光ダイオード(LED)を売るビジネスに転換。二酸化炭素の排出量削減につなげながら、次の段階で、ビル照明のインフラ運営をまるごと請け負うサービスへと転換してきました。照明器具は自社で持ち、顧客がどのくらい使ったかをベースに「サービスとして課金する」仕組みに変えたのです。こうした事業モデルは、Product as a service(PAAS)モデルの一種とされています。2020年4~6月期決算は減益でしたが、12月期通期ではヘルスケア部門の人工呼吸器や画像診断システムなどが伸び、「利益率は改善する」(フランス・ファン・ホーテン最高経営責任者=CEO)と説明しています。株価はほぼ20年ぶりの高値圏にあります。

演説する米民主党のバイデン氏=AP

演説する米民主党のバイデン氏=AP

8月16日号の日経ヴェリタス巻頭特集は、株価との乖離(かいり)が指摘されているアメリカ経済の現在位置を点検しました。「米経済は羽ばたけるか ~ 感染拡大下の株高、命運握る大統領選」として、17日から始まる米民主党の党大会を前に、今後のアメリカ経済の行方を左右する政策が大きく動く可能性を踏まえ、大統領選のポイントも先取り解説しています。第二特集フォーカス面では、米金融政策に最も詳しい大塚節雄・金融政策・市場エディターが9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備理事会(FRB)が次の一手をどう繰り出そうとしているのか、考察しています。9月をにらんだ投資戦略の見直しにぜひお役立てください。

(日経ヴェリタス編集長 塚本奈津美)

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