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阪急電車のパテ塗り職人、マルーンに艶

匠と巧

細かな凹凸を確認しながらパテを薄く塗り重ね、補修箇所の表面を平らにする=玉井良幸撮影

工夫を凝らした色やデザインは鉄道車両の魅力の一つ。関西でとりわけ印象深いのは、阪急電鉄で見られる小豆のような「マルーン色」だろう。艶やかな車体は、同社の正雀工場(大阪府摂津市)で10年に1度ほど全面的に塗り直して維持している。補修のポイントは色塗りの前にある「パテ塗り」。パテで車体の表面を整える職人の腕が美しい色を生んでいる。

塗装を担う一社である水谷塗装工業(大阪府池田市)の後藤悟さんが、大きな金属製のへらにパテを取り、車体にきびきびと塗っていた。へらを窓枠に沿って数回上下させると、車体の凹凸が埋まっていく。

この日補修していたのは約17年使っている京都線特急用の「9300系」車両。車体の窓枠の周りやドアの下部など、時間の経過とともに塗装が傷みやすい部分を中心にパテを塗る。乾燥させて、紙やすりで研磨。4~5回繰り返すと、やっと車体の表面が平らになる。1両を仕上げるのに2日ほどかかるという。

作業で頼るのは「手の感触」と「見た目」だ。まず塗る前に手で触ってへこみ具合を頭に入れる。高温や低湿度ではパテがすぐに固まるため、素早い作業が欠かせない。乾かして反射する光の様子で凹凸をチェックしながら、滑らかになるように塗り重ねていく。

パテ塗りで使うのは「じょうぎ」と呼ぶ鋼製のへらだ。工程に応じて2種類の大きさがあり、「曲がると仕上がりに影響するので、落とすのは厳禁」(水谷塗装の藤田泰生さん)。

色の塗装は今では機械化している。コンピューター制御により、下地を整えるサーフェーサーとマルーン色の塗料とを車体全体に順に吹き付ける。塗料には特徴ある光沢を生むウレタン樹脂を使用して、独特の艶を出す。パテがうまく塗れたかどうかは、塗装の全工程が終わってみないと分からない。それだけに気の抜けない仕事だ。

塗り直しが必要かは、検査の数カ月前に正雀工場の担当者が下見し判断する。検査を始めてから塗り直しの要不要を決めると、作業員の人繰りなどに問題が生じかねないためだ。ほかの鉄道会社では検査の中で塗装も決めることが多く、検査を担当する中川達雄さんは「他社から事前の下見のやり方を質問されたこともある」と誇らしそうだ。

東京の鉄道の車体にはステンレスをむき出しにした銀色の車両が多いが、阪急電鉄は現在も全車両をマルーン色に塗っている。傷み具合に応じて塗り直し、平均すると10年に1回ほど手を入れる。

マルーン色の起源は「1910年の開業当初からとも言われるが、正確には不明」(同社)だ。当時は車体が木製で茶色の電車が主流だったようだ。92年には社内で塗装変更が議論されるも、「お客様から残してほしいとの声があり、取りやめになった」という。

阪急電車へのパテ塗りは「限られた検査の日数内で仕上げる必要があり、出っ張っている部品も多いので難しい」と水谷塗装の藤田さん。阪急のブランドの一部として定着したマルーン色は、地道な職人の技が支えている。

(金岡弘記)

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