挑む新路線 希望描くSF(演劇評)
宝塚宙組「FLYING SAPA―フライング サパ―」

関西タイムライン
2020/8/14 2:00
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未来の水星を舞台に、思想や精神がデータ化され管理された世界を描く

未来の水星を舞台に、思想や精神がデータ化され管理された世界を描く

新たな路線への挑戦といえるSF物の芝居である。宝塚歌劇団宙組による梅田芸術劇場メインホールでの「FLYING SAPA―フライング サパ―」(上田久美子作・演出)。人類が現代とは異なる環境に身を置く近未来を背景にした、従来の宝塚歌劇とはテイストの違う独自性の濃い新作だ。

太陽の活動が弱まったため、地球を脱出して水星で暮らし始めた一部の人間たちの物語。言語や文化、国家などが統一され、科学者である総統01が発明した生命維持装置によって、思想や精神をデータ化して管理される、うすら寒い世界が描かれる。

主人公のオバクは、記憶を消された兵士。いわば危険分子の探索を担っていて、ある日、生命維持装置を壊して自殺を図ろうとするミレナと出会う。彼女は総統の娘で、政権の次期後継者だった。

総統の支配が及ばない謎のクレーター・SAPAにミレナと侵入し、自分の過去を知るオバクを、真風涼帆が奥行きある演技で骨太に表現。愛や憎しみを無くした男の虚無感や内に秘めた熱さをリアルな男性像の中に映し出す。ミレナ役の星風まどかは、自暴自棄に生きる女性の苦悩を描写。反政府活動家ノアを演じる芹香斗亜の聡明(そうめい)さ、総統01の汝鳥伶の存在感も光る。

テクノロジーから切り離された無法地帯のSAPA。そこで暮らす人々は「誰も辿(たど)り着いたことがないSAPAの中心に行けば願いが叶(かな)う」という噂を信じ、夢見ている。どんな世の中であっても人間に必要なのは希望だ。今に通じる普遍性ある内容で、宝塚特有の華やかさを抑え、非現実感漂う劇世界の描出に力点を置いた。不思議な味わいの舞台である。8月3日所見。

(演劇評論家 坂東 亜矢子)

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