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ひいきの馬探し、名馬との出会い…「夏競馬」の思い出

「夏競馬」と聞いて、思い浮かぶのは? レースが荒れる、G1馬の充電期間、上昇馬を見つける時期、新たな世代がデビューし始める季節……それぞれのイメージがあるはずだ。日本の競馬は基本的に年間を通して行われるが、季節を感じさせるのは夏競馬だけではないか。というのも、春競馬または秋競馬という言い方は、ほぼG1シーズンに重なり、季節感よりも競馬自体が盛り上がる時期というニュアンスの方が強い。一方で冬競馬という言い方は聞かない。そう考えると、独特の雰囲気があるからこそ、「夏競馬」と呼ばれ、浸透しているのかもしれない。そこで今回は私事で大変恐縮ではあるが、個人的な夏競馬、または競馬にまつわる夏の思い出をご紹介したい。同時に、夏競馬の意味を改めて探ってみたいと思う。

函館マリーンSへの思い入れ

いわゆる夏競馬の時期に初めて競馬場に行ったのは、1999年7月31日、函館競馬場だった。それまでは自宅に近い中山と東京にしか行ったことがなく、飛行機での旅行も初めてだったので、異国の競馬場に訪れたような気分だった。

その週は土日とも函館競馬場に足を運んだ。土曜日のメインレースはダートのオープン特別、マリーンステークス。ニホンピロジュピタが勝利した。

25歳の年齢もあってか、おっとりした雰囲気のシンボリルドルフ

この馬はデビューから翌年の春まで芝を走っていたが、クラシックには縁がなく早々にダート路線に転向。一旦は準オープン(現3勝クラス)まで昇級するが、なかなか勝ち切れない競馬が続いていた。本格化したのは当時の呼び方で5歳(現在の4歳)の夏。津軽海峡特別を勝って臨んだのがマリーンステークスだった。

ここを勝って連勝を飾ったニホンピロジュピタはその後、G3のエルムステークス、G1級交流重賞の南部杯も制し、4連勝でG1馬の仲間入りを果たした。マリーンステークスとエルムステークスを連勝した例はその後も何回かあり、今年もタイムフライヤーが連勝を飾った。今年のマリーンステークスは自分が実況していたこともあり、何の関連もないとはいえ、21年前の出来事に思いをはせてしまった。

翌日曜日のメインレースは第31回函館3歳(現2歳)ステークスだった。北海道・道営競馬所属のエンゼルカロが2番手から前を捉えて鼻差で優勝。道営馬の優勝は初めてだった。エンゼルカロは当時2番人気。3着にも道営の9番人気チトセシャンハイが入る結果となった。キャリアの浅い馬が集まる重賞。何が来てもおかしくないこと程度は、今では学習しているつもりだが、初めて肌で感じたのがこのレースだった。重賞に限らず今でも、中央のレースで道営馬が勝つことがあるが、その度にこのレースの場面がよみがえってくる。

開催地の熱気、肌感覚で知る

筆者は以前、福島県で5年間働いていたことがあり、夏競馬を迎える地元での盛り上がりを知っている。福島は熱心な競馬ファンが多く、夏には一流騎手も参戦するので、さらに熱気が高まる。ある日、競馬場へ向かうタクシーの中で、運転手の方が「今日は武豊さんが乗りに来るんですってね!」と興奮気味に話し、その話題でひとしきり盛り上がった。地元放送局のアナウンサーも、「ラジオNIKKEI賞、七夕賞はそれぞれ、福島のダービー、有馬記念と思って一生懸命実況に励みたいと思っている」という話を聞いた。

夏の福島は東日本のメイン開催となるため、全国的な注目が集まる。並々ならぬ意気込みで、自分も見習わなくては、と思う。それぞれの開催地で、レースに向けた熱気、強い意気込みは当然あると思うが、実際に住んでみて初めて、肌感覚として分かる部分がある。それを知ることができただけでも、一つの財産になったのかもしれない。

名馬の素顔に触れた牧場巡り

夏の思い出はレースだけではない。牧場巡りを挙げる方も多かろう。筆者は一度行っただけだが、時間がたてばたつほど、価値は上がっていく。競馬を見始めたのは94年。ビワハヤヒデ(93年年度代表馬)の走りに魅了されたのが、のめり込むきっかけになった。06年には同馬に会いに日西牧場(日高町)へ行ったが、色々な意味で印象深い出会いだった。

最初は牧場のかなり遠くの方にいてなかなかよく見えない。見学時間は限られていて、憧れの名馬を間近で見られないまま時間切れかと諦めかけていた。仕方なく遠巻きの写真を何枚も撮っていた。しかし、見学時間が終わる間際にこちらに近寄ってきたのだ。偶然と言われればそれまでだが、奇跡が起こったような気分になった。何と心憎い演出をしてくれたことか。

そのビワハヤヒデも今年7月21日に30歳でこの世を去った。馬の年齢としては大往生と言えるが、牧場関係者は「もう少し長生きさせてあげたかったのですが、力不足で申し訳ありません」とのコメントを発表した。馬への愛情が伝わってくる。引退後も幸せに暮らしていたことが分かる。とても寂しい出来事ではあったが、天寿を全うできたのではないかと思いたい。

競馬にはまるきっかけになったビワハヤヒデ

名馬の意外な素顔を見られるのも、牧場巡りの楽しみだ。同じ06年に会った7冠馬シンボリルドルフは、現役時代の圧倒的な強さを知っていたので、人を寄せ付けない雰囲気があると思い込んでいたが、実際に会ってみると、おっとりした印象だった。額をなでても嫌がる素振りも見せない。そして「写真を撮りたければどうぞ」と言わんばかりに、ずっとそばにたたずんでいた。当時25歳。年齢的なものか、それとも7冠馬の余裕か……。

タイキシャトルも現役時代の完璧なレースぶりから、優等生のイメージがあったが、こちらは対照的にやんちゃな姿に出くわした。会いに行くと、私の左肩にかみついて離さない。向こうはじゃれているつもりでも結構痛い。大声を出すのはルール違反だが、思わず声が出てしまった。一瞬は恐ろしい思いをしたが、今となっては気に入ってもらえたのだと解釈している。

自分だけのひいきの馬を見つける、競馬場の開催地が普段より盛り上がる、休暇を使って名馬と触れ合う……。競馬ファンにとっての夏は、馬との距離感を近づけていく季節なのかもしれない。コロナ禍の影響で、レースを見るのも牧場へ行くのも、以前とは違って随分と不自由な形になったのはとても残念だ。今は、日常を取り戻すための我慢の時。長い闘いになるが、じかに馬と触れ合える瞬間が戻ってくることを願ってやまない。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 米田元気)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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