カンボジア、中国とFTA締結へ EU制裁に対抗

アジアBiz
2020/8/12 19:13
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カンボジアのフン・セン首相(左)は中国で新型コロナウイルスが広がるなか、中国の習近平国家主席を北京に訪ねた(2月、新華社提供)=AP

カンボジアのフン・セン首相(左)は中国で新型コロナウイルスが広がるなか、中国の習近平国家主席を北京に訪ねた(2月、新華社提供)=AP

【ハノイ=大西智也】カンボジアは中国と自由貿易協定(FTA)を締結する。わずか半年のスピード協議で合意した。12日に発動した欧州連合(EU)の経済制裁に対抗する。カンボジアの親中色が一段と強まるのは必至で、中国の東南アジア囲い込みにも拍車がかかりそうだ。

EUの欧州委員会は12日、「カンボジアは人権に関して深刻な懸念がある」として同日に制裁を発動したことを明らかにした。カンボジアから武器以外の全品目を無関税で輸出できる「EBA協定」の優遇策の一部を停止した。制裁対象は衣料品のほか旅行用品や砂糖など幅広い。

EUはカンボジアにとって輸出額の20%以上を占める。制裁はカンボジアのEUへの輸出の2割にあたる年約10億ユーロ(約1200億円)分を押し下げる効果がある。カンボジアでは新型コロナウイルスの影響で主要産業の縫製関連の輸出が伸び悩み、15万人以上が失業したとみられ、カンボジア縫製業協会はEUに制裁延期を求めてきた。

経済的な打撃を受けてもカンボジアのフン・セン政権が野党弾圧をやめずに制裁発動を受け入れた背景には、中国の存在がある。両政府は7月、2国間のFTA交渉が妥結したと発表済みだ。近く署名するとみられる。双方の関税引き下げ幅など具体的な内容は明らかでないが、発効後はカンボジアから中国にはコメ、砂糖などの農産物や繊維製品の輸出拡大につながる。

中国はカンボジアにとって、最大の貿易相手国だ。国際通貨基金(IMF)によると、対中貿易額は2019年に前年比31%増の92億ドル(約9800億円)に達した。貿易額全体の24%を占める。

カンボジアの英字紙プノンペンポスト(電子版)はFTAで23年までに貿易額100億ドルを目指すと報じた。政府高官は「FTAで対中輸出は25%増える」という見込みを示している。

今回のFTAはむしろ中国にとって利があるとの指摘もある。カンボジアを通じて東南アジアへの勢力拡大を図れるからだ。通常なら4~5年かかる場合も少なくないFTA交渉が、19年末の交渉開始からわずか半年余りで合意したのは極めて異例だ。12日のEUによる制裁発動に合わせたと考えられる。

カンボジアはすでに中国から多額の投融資を受け、ラオスと共に東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかで中国の利益を代弁してきた。米国が非難する中国の南シナ海進出に対し、ASEANの態度が定まらない一因だといわれてきた。多くの外交関係者が予想したように、欧州の圧力を受けたカンボジアが一段と接近してきたのは中国にとって好都合だった。

アジア、アフリカ、中南米では地政学上の要衝だったり、豊富な天然資源を埋蔵していたりする一方、野党弾圧などを巡り、米欧と摩擦を抱える新興国や途上国が少なくない。多くの国は中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」の途上だ。米欧が制裁をちらつかせて自陣営に引き入れようとしても、中国はカンボジアとのFTAのように経済利益で囲い込もうとする。

中国はカンボジアと同じくASEANの一員であるミャンマーにも国有企業などを通じて巨額の投資を実行し、インフラ整備や資源開発を助けてきた。今回のカンボジアとのFTA合意で東南アジアの囲い込みが強まるのは必至だ。

東南アジア以外でも、米国が原油輸出禁止などの経済制裁を科すイランとは、石油供給を受けるかわりにインフラ投資を実施する25年間の長期契約を協議中だ。野党を弾圧する南米ベネズエラのマドゥロ政権、白人の農地を黒人に強制配分したアフリカ南部のジンバブエも支援している。

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