御巣鷹35年 どう保全 自然災害で傷む日航機事故現場

社会・くらし
2020/8/12 17:30
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2019年の台風19号で被害を受けた墓標を移し替える日航ジャンボ機墜落事故の遺族(左)と日本航空のOB(11日、群馬県上野村)

2019年の台風19号で被害を受けた墓標を移し替える日航ジャンボ機墜落事故の遺族(左)と日本航空のOB(11日、群馬県上野村)

520人が犠牲になった日航ジャンボ機の墜落事故から12日、35年がたった。墜落現場の「御巣鷹の尾根」(群馬県上野村)は遺族や日本航空の社員だけでなく、他の事故や災害の遺族も登る安全の原点だ。広大な現場の維持管理は年々難しくなり、将来への継承が課題となっている。

11日午前、御巣鷹の尾根には墓標を移し替えたり建て直したりする遺族や日航OBらの姿があった。2019年10月に東日本を襲った台風19号で、土砂災害が発生。一部の登山道が崩れ、多くの犠牲者と4人の生存者が見つかった「スゲノ沢」の墓標が一部流失した。

階段を設けるなど仮復旧の工事で登山ができるようになったが、流された木々や岩が散乱し爪痕が残る。登山口までの村道も崩落し、復旧費用は4億円を超える。

2019年の台風19号の被害で木々が散乱しているスゲノ沢(11日、群馬県上野村)

2019年の台風19号の被害で木々が散乱しているスゲノ沢(11日、群馬県上野村)

尾根の維持管理は事故翌年に日航や地元からの寄付金をもとに設立された公益財団法人「慰霊の園」が担う。登山道の維持整備や慰霊式の開催、納骨堂や慰霊塔がある慰霊の園の運営に年間約1300万円の費用がかかり、台風など災害が発生すれば負担は増す。

年齢を重ねた遺族らの安全確保も欠かせない。18年には約2000万円をかけて登山道を整備した。設立当初は基金の運用益を慰霊式の開催費などに充てていたが、金利の低下で収入は年々減少。20年度は190万円の見込みで、収入源のほとんどは日航の寄付金だ。

尾根を守る担い手の継承も課題となっている。法人が管理する尾根の広さは14万平方メートルもあり、多くの犠牲者の墓標が並んでいる。日航OBや遺族、ボランティアが各地から整備の手伝いに訪れるが、管理は慰霊登山の時期にとどまらない。

一部の登山道は崩落し、仮設の階段が設置されている(群馬県上野村)

一部の登山道は崩落し、仮設の階段が設置されている(群馬県上野村)

法人から管理人を任されている黒沢完一さん(77)は毎日のように尾根に登る。事故後、尾根の草刈りや慰霊登山のバス送迎を手伝い、初代の管理人が亡くなった06年に重責を引き継いだ。

4~11月の開山期間中は朝7時半ごろに尾根に行き、登山道や墓標の整備や掃除をする。登山者が帰るのを見届け、夕方に山を下りる。遺族らとの交流も増え、災害が起きれば「墓標は無事か」と心配する遺族からの電話に応える。企業研修で訪れる登山者には尾根を案内し、事故のことを伝えるようにしている。

黒沢さんにとって、後任が見つからないのが悩みの種だ。御巣鷹の尾根は勾配が急で、墜落地点でもある「昇魂之碑」まで険しい山道が続く。遺族からの「ありがとう」の言葉を支えに管理人を続けてきたが「俺がいなくなったら、あの墓標はどうなるんだろう」と危機感を募らせる。

全国から多くの人が訪れ、安全の大切さを発信する地となっている御巣鷹の尾根。財団法人「慰霊の園」の理事長を務める上野村の黒沢八郎村長は「上野村の使命として尾根をなんとか守っていきたい」と話している。

▼日航ジャンボ機墜落事故

1985年8月12日午後6時56分、羽田発伊丹行きの日航123便が群馬県上野村の「御巣鷹の尾根」に墜落した。乗客乗員524人のうち520人が死亡した。

離陸約12分後に伊豆半島上空を飛行中、客室後部の圧力隔壁が衝撃音とともに破損。客室内の空気が流れ出して垂直尾翼や油圧パイプが破壊され、操縦機能が失われた。同機は激しく揺れながら駿河湾から富士山の方向へ針路を変え、山梨県大月市上空で旋回。緊急事態発生から約32分間の飛行の末の墜落となった。

当時の運輸省航空事故調査委員会は、事故の原因を後部圧力隔壁の修理ミスとする最終報告書をまとめた。群馬県警は業務上過失致死傷の疑いで、日航やボーイングなどの関係者計20人を書類送検。前橋地検は全員不起訴処分とした。

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