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テニスのジュニア選手、「試合がない」からの学び

女子ジュニア育成プロジェクトのキャンプで選手と話す伊達さん(中央)と坂井利彰・日本テニス協会普及育成本部副本部長(左)

8月上旬のイタリア・パレルモでの女子大会を皮切りに、3月から延期になっていたテニスツアーがついに再開した。テニスのオフシーズンは2カ月弱しかないため、皆がそろってこれだけ試合がないのはプロ選手にとって初めてのことだ。

オフはほかの選手の動向が分からない。各選手のSNS(交流サイト)はのぞけるものの、ダンスをしていたり料理をしていたりで、プレーそのものの情報を長時間あげているケースは皆無に近い。

パレルモ女子オープンで優勝し、マスクと手袋を着けてトロフィーを掲げるフィオナ・フェロ(9日)=ゲッティ共同

「(シュテフィ)グラフ、(モニカ)セレスなど、自分をさらけ出す選手が少なかった私の世代と全く違って、今の選手はとてもオープンですけれどね。オフの時期は選手の状況、仕上がり具合が見えない。焦りはないけれど、大会が動きだしたら『自分はこれでいいんだろうか?』という思いは少なからず出てくる」と、元テニス世界ランキング4位の伊達公子さんは言う。

どんなに練習を積んでも、試合とは違う。「試合の緊張感だったり、ちょっとしたショットの判断の遅れだったり、微妙にズレが出てしまう」。課題にじっくり取り組む時間はあるものの、試合勘は遠のく。

「試合から離れるほど、頭はリフレッシュされ、体もフレッシュな状態になるから、(試合で)動きたくなっちゃう。でも急に動くとケガにつながってしまう。プロのレベルでは、どこかで抑えないといけないから、怖さはある」。8月1日に千葉県柏市で行われた男子エキシビションでも、プロ選手からはツアー再開後のケガを危惧する声が相次いだ。

男子エキシビションに参加した高校生(左)にアドバイスする内山靖崇=共同

伊達さんが現在取り組む女子ジュニア育成プロジェクトでは、7月30、31日に第6回キャンプを行った。トッププロが出る試合がようやく再開されたものの、ジュニアの大会が開催されるメドは立っていない。ただ、成長期の彼女たちにとってマイナス面ばかりでない。スタッフの一人がしみじみと話した。「今の子たちは忙しい。普段は学校もあり、練習が多かったり、寝る時間が遅かったりする。(コロナ禍で)睡眠時間が延びたのか、(体が)ぐんぐん大きくなっている」

いいものを食べ、よく寝ることで筋肉も強くなる。「私たちの頃は、学校も練習も終わって娯楽となるとテレビくらいしかない。でも、親に『見ちゃダメ』って言われたら寝るしかない」。電話も固定電話のみ、自室でSNSを確認することもない。伊達さんも「もしかしたら、コロナ禍で成長段階に本来必要なものが取り戻せている部分はあるかもしれない」と考える。

それを逆手にとったわけではないが、今回のテーマは「学びの心」だ。試合が続くとやりたくてもできない、長期的な課題のために時間を費やせる。ジュニアは課題もたくさんあるはずだ。伊達さんのプロジェクトは定期的な合宿中心。選手自身がホームコーチと円滑にコミュニケーションがとれるよう、人間力アップも促す。

コロナ禍はスポーツ、テニス界を変えてしまうのか? 女子ツアーは毎年秋にアジアである「アジアスイング」の大会がほぼ全て中止になってしまった。日本の東レ・パンパシフィック・オープンも含まれる。ただ、伊達さんは楽観的だ。「(コロナ禍が)落ち着きさえすれば戻ると思いますよ。選手は準備が大変だけれど」

浅越しのぶさん(右から2人目)も女子ジュニア育成プロジェクトでコーチを務める

今のスケジュールでは「やる」とされている大会ですら行われるのか、確実でない状況だ。はっきりしないターゲットに対して準備するのはかなり難しい。大会にエントリーはしていても、出場を明言していない選手は多い。

コロナを恐れる選手に配慮して、WTAもATPも2019年3月~20年12月までの大会の結果で世界ランキングを決めることにした。19、20年度と同じ大会に出た場合、いい成績の方が採用される。例年のように失効ポイントがないので、出ない選択肢もありうる。「上位選手はそれでいいけれど、微妙なランキングの選手は判断が難しいですよね。選手は健康を最優先したいし」と伊達さん。

その点、ジュニアたちはあっけらかんとしている。テニスが楽しくてたまらない年ごろだけに、試合がないことに神経質にはなっていないようだ。「そこまで分からないんだと思いますよ。試合が始まって、初めて気づくんじゃないかな。急に『あれ? 試合勘がなくてどうしよう』って」。それすらもいい「学び」だと、伊達さんはとても面白そうに話している。

(原真子)

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