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「面白い大阪」は近年の加工 井上章一さん

関西のミカタ 風俗史家

いのうえ・しょういち 1955年京都府生まれ。京大人文科学研究所助手を経て87年国際日本文化研究センター助教授。2020年4月同センター所長に就任。「阪神タイガースの正体」「京都ぎらい」「大阪的」など関西圏にまつわる著書多数。

■京都市には、日本文化の国際的な共同研究の場である国際日本文化研究センター(日文研)がある。4月に同センター所長に就いた風俗史家の井上章一氏(65)は日本文化研究を活性化させるには、外の視点を積極的に受け入れることが必要だと説く。

イタリアルネサンスの研究者の約5割がアメリカ人、3割がドイツ人、イタリア人は1割未満。イタリアルネサンスは国際研究の土俵にたつ。

一方、同時代の室町の東山文化の99%は日本の研究者だ。狩野派について、イタリア人が面白いことを言っても日本の学会でははねつけられる。鎖国的な学会にとってはめでたいが、損をしている。日本という枠にとらわれないアイデアをはねつけている可能性がある。日本文化研究は国内だけでやったらいいという意見もあるだろうが、できるだけ内外の風通しをよくするというのが私の務めだ。

日文研が設立された1987年、私は助教授として参加した。ソビエトの研究者との話の中で日本の歴史区分が海外の人から見ると当たり前でないことに気づいた。古代に区分される奈良時代は中世ではないだろうか。彼との話がきっかけで「日本に古代はあったのか」という本を書いた。外の言説に流される必要はないが、出合い反省するきっかけにしてほしい、ぐらいには思う。そういう経験ができる学術機関でありたい。

国際日本文化研究センターでは助教授時代から海外研究者の刺激を受けてきた(ソファ中央の男性の左上が井上氏)

■「上方」という言葉が示すように京都や大阪は文化の発信地である。近代に入っても映画や音楽、ファッションなど幅広い分野で文化をリードしてきた。にもかかわらず多くは忘れられ、京都は「雅」、大阪は「面白い」とイメージで一面的に捉えられる。

関西の中でも、京都は床の間、大阪は台所もしくは便所扱いされている気がする。歴史でも京都が敬われるのは間違いないが、大阪は不当に見下されている。いまの大阪の人もそういったイメージに籠絡されている。明治維新が成し遂げられたのは大阪の商人が新政府軍の軍事費を支えたからだと私は思う。

作家の谷崎潤一郎は「大阪の女の人はものしずかだ」と書いた。口数は多くなく、わい談に話が及んでも上品に話す、と。また大阪の人のユーモアは江戸っ子と比べてもひけをとらない、とも。笑いの本場が大阪という先入観は谷崎はもっていない。大阪人が面白く加工されていったのはここ20、30年のことだ。

一方の京都は国内屈指の観光地。昔は旅行者のほとんどが中年男性だったので、自然と誘惑が多い街になった。ところが1970年代に入ると様子が変わる。大阪万博後に「ディスカバージャパン」が始まった。そのキャンペーンの最大のヒット商品が京都だった。京都市の西のほうの嵯峨に住んでいた私は国文学を学ぶ女性の観光が急に増えたのを覚えている。男性向けの観光地が女性向けにしつらえられた。スケベな京都がデオドラント化したとも言える。

■2025年には大阪万博が開催される。新型コロナウイルスの危機から抜け出せれば、「命と健康」を前面に打ち出した博覧会を望む。

04年にブラジルのリオデジャネイロで2カ月半暮らし、驚くことがあった。ブラジルでは(病院や地域によって)ほぼ100%が帝王切開で、自然分娩は野蛮だという。またリオ滞在中に顎に大ケガをして十数針を縫った。すると医者は家に戻ってすぐに風呂に入るかシャワーを浴びろと言う。日本では傷口をしばらく水につけないのが常識。命と健康の扱い方は文化圏によってずれがあると気づいた。

万博会場は世界各国の治療のあり方を見せ、場合によっては治療を受けられる特権的な場にする。跡地は「命と健康」について研究できる世界的な拠点になればと思う。

(聞き手は村上由樹)

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