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コロナが促す前例踏襲の打破 学生スポーツ界に新風

ドーム社長 安田秀一

関東学連のアメフトチーム代表者は全米大学体育協会(NCAA)のフェアな精神に敬意をもっているという(2019年1月、NCAAの試合)=AP

一部制限はあるものの、プロ野球やサッカーのJリーグを楽しめる日々が戻ってきました。アマチュアの学生スポーツも動き出しており、その中にはコロナ禍でのニューノーマル(新常態)を生かした挑戦を始めている競技や大学があるようです。米スポーツブランド「アンダーアーマー」の日本総代理店、ドームで社長を務める安田秀一氏の連載コラム。今回は日本の学生スポーツが長年抱える問題を解決に導くような先駆的な取り組みを取り上げています。

◇   ◇   ◇

新型コロナウイルスの感染拡大が続いている中、プロだけでなく学生スポーツでも少しずつ練習や試合を再開する動きが始まっています。前回のコラムで僕は、この国のスポーツが持続可能な仕組みとなるために、このコロナ禍をいったん立ち止まって考える良い機会とすべきだと書かせていただきました。今回は、そんな中にあって、そうした「前向きの変化につながるのでは」と期待している学生スポーツ界の新しい動きを紹介したいと思います。

それは僕自身が関わりの深いアメリカンフットボールです。関東学生アメリカンフットボール連盟において、各校のチーム代表である監督会と連盟理事会が協力して運営ルールなどを決めるという流れが出てきました。「そんなの当たり前じゃないのか!?」と感じられた方は、まっとうな常識をお持ちだと思いますし、僕自身もそう思います。ただ従前のスタイル(慣習? 仕組み?)では、連盟側が一方的にルールを決めて、そのルールにチームが従う、というのが「当たり前」でした。その他の競技では、現在においてもまさにそんな状態であることは想像に難くありません。

「機会の平等」を実現へ

チームの代表と主催者である連盟や協会が、その競技や大会の目的、あるいはその時の状況に応じて協力してルールを決める。例えば、酷暑期の試合のナイター開催を増やして熱中症対策をしたり、コロナの影響による活動休止期間をルール化したりして、安全に最大限に配慮しながら、シーズンにむけた準備を整える。

結果として「各チームの条件を平等にしていく」という効果が期待でき始めています。現実としては、各チーム事情には大きな差異があるので、ルールとして踏み込める範囲は限定的ではありますが、将来の目指す方向性、意識は一致していると聞いています。つまり「教育としてのスポーツ」そして「機会の平等」です。

コロナ禍によって、ほとんどの大学が学生に対してスポーツを含めた課外活動を禁止しました。それによって、ある意味各大学の運動部は練習という側面においては初めて同じ条件になりました。未曽有の事象ですから、それぞれのチームや学校、あるいは連盟によって練習や試合の可否についての前例がなく、運営の大きな判断軸であった「慣習」が機能しなくなりました。そのうえで、練習を再開してリーグ戦を始めるための準備を進めていこうとすれば、それぞれのチーム事情は無視できません。各校の条件の違いが浮き彫りになり、それによって「不公平感」が顕在化し、当事者同士の意識が「機会の平等」に向いていくのは自然な流れであると言えます。

学生たちが寮生活で練習をすぐに再開できるチームもあれば、自宅通いの学生が中心で、練習どころか通学さえ難しいチームもある。学校によっては課外活動の再開を認めないところもある。この状況で公平なリーグ戦を行うにはどうしたらいいか。この問題と真剣に向き合えば、これまで仕方ないと思って受け入れてきた状況が、実は「おかしい」という気付きも生まれてくるでしょう。前回のコラムで「コロナ禍をいったん立ち止まって、考える良い機会」と記述させてもらったのは、こういうことです。

すなわち、ある大学はスポーツ推薦で100人も選手を取り、1年のうち360日、1日6時間以上も練習しているのに、ある大学はスポーツ推薦枠ゼロ、練習は年間200日で1日3時間程度。ここまで条件の違うチーム同士を競わせて決めた日本一や関東一に果たしてどんな意味があるのだろうか。スポーツ推薦の学生をかき集めて日本一になることや学業を無視して練習することなど、ドーピングによって成果を上げるのとたいして変わらないという考え方さえできると思います。

原点に立ち返れば、大学は勉強する場所です。運動部の活動も教育の一環であり、日本一になるのは目標であっても目的にはなり得ません。それは各大学の体育会も、学生競技連盟も一致して定義しています。それなら、各チームが同じ条件で競うことに意味があり、それこそが教育に資すると考えるのは当然でしょう。各チームが知恵を絞り、チームワークに心を砕き、効率的な練習メニューの開発や自主性の啓発など「条件をそろえて日本一を目標」にすることで、学びの宝庫ともいえるような環境がつくれるはずです。

関東学生アメリカンフットボール連盟で各チームの条件を整えようとする動きが始まった背景には、アメフトならではの特徴があります。それは全米大学体育協会(NCAA、本当は体育ではなく競技スポーツと訳されるべきだ)という模範がより身近にある、ということです。各チームの代表者は進取の気質が高い傾向があり、プレーや戦術だけでなくチーム運営や指導法も米国をお手本にしています。また、同じ条件で競い合う米国の状況をよく知っていて、そんな米国の学生スポーツのフェアな精神に敬意をもっているからだと思います(NCAAの3つの理念は、アカデミック、フェアネス、ウェルビーイングです)。

関東学連の変化は危険タックル問題も背景にある(2018年7月、同問題で記者会見する関東学連)=共同

さらにもう一つの理由も見逃せません。2年前の日大アメフト部の危険タックル問題です。その時の反省から、チームの責任者で議論をする「監督会議」が連盟の運営に影響力を持つようになりました。試合中の危険行為の被害者は、当事者である対戦相手であり、そしてこのタックル問題が起きた春のシーズンは、練習試合が中心であったため、各チームは日大との試合をキャンセルしたことが起点になりました。連盟がどんな裁定を下そうとも、未来ある学生アスリートに不要なリスクを与えることは、監督としてとても容認できるものではありません。また対戦相手がいないと試合ができない、という現実も顕在化し、結果としてお互いの危険行為のけん制になるという学びもあったようです。ズルをしたら仲間外れにされるのと同じです。

こうした経緯から、現場の監督たちの意見を取り入れていくほうが、リーグ戦の運営がうまくいくという現実を連盟の理事たちがきちんと認識するようになったのです。また、理事や監督などの世代交代が進み、インターネットなど通じて世界中の最新情報を収集する世代が増え、競技全体や学生スポーツの進化を優先する人たちが多数を占めてきたという背景も大きいです。学生アメフト界にとっての大ピンチが、変化のチャンスになったわけです。現在のコロナ禍も同様に、日本の学生スポーツ、いやスポーツ界に変革をもたらすきっかけになると僕は考えています。

大学にも変化が必要

競技団体だけでなく大学にも変化が必要です。コロナ禍に対して、ほとんどの大学がスポーツを含めた課外活動を全面的に禁じました。学生の安全を考えてと言うより、学内から感染者を出して世間から批判されたくないための対応と感じました。責任を取りたくないから、すべてやめてくれとなるわけです。活動再開についても、各運動部に具体的な方針を示す大学はほとんどなく、多くのチームが独自に迷いながら再開されるリーグ戦など実戦への準備を進めています。

そんな中で筑波大学は、一昨年に新設された米国型の「アスレチックデパートメント」(スポーツ局)が中心となり、医師など専門家とともに「部活動再開ガイドライン」を整備しました。対象はアスレチックデパートメントに属する5チーム(硬式野球、男女ハンドボール、男女バレーボール)となりますが、大学として明確な方針を示したことは画期的な取り組みだといえるでしょう。また、大学が責任を負える範囲を5チームに限定している点も見逃せません。米国ではどんなに大きな大学でも20チーム程度のアスレチックプログラムしかありません。日本の大きな大学には「体育会」と呼ばれる部活は40以上あるのが通常です。

アメフトの関東学連や筑波大で始まった新しい動きが日本の学生スポーツ全体に広がってほしいと思っています。コロナ禍に対応してどうやればチームを安全に運営できるのか、リーグをどう改革すべきなのか。大学はどう関わるべきなのか。前例のない初めての事態だけに、現場は悩んだり、迷ったりしている担当者が大半でしょう。時代は「シェア」です。それぞれのアイデアを共有し、学校、競技団体、部活とそれぞれのベストなアイデアを瞬時に取り入れることが可能な時代です。

足元を見れば、現在のコロナ禍においてスポーツ界も大打撃を受けています。しかしです。前回も書いたように、これまでのやり方に流されずに、立ち止まって考えるよい機会であることは間違いありません。過去の延長線上の取り組みでは「解答」が見つからない状況です。みんなで情報を共有し、学生スポーツの改革を阻んできた前例踏襲や権威主義を打破していきましょう。

暗い闇を耐えしのぐのは、より素晴らしい将来像が何よりのガソリンです!

安田秀一
1969年東京都生まれ。92年法政大文学部卒、三菱商事に入社。96年同社を退社し、ドーム創業。98年に米アンダーアーマーと日本の総代理店契約を結んだ。現在は同社代表取締役。アメリカンフットボールは法政二高時代から始め、キャプテンとして同校を全国ベスト8に導く。大学ではアメフト部主将として常勝の日大に勝利し、大学全日本選抜チームの主将に就く。2016年から18年春まで法政大アメフト部の監督(後に総監督)として同部の改革を指揮した。18年春までスポーツ庁の「日本版NCAA創設に向けた学産官連携協議会」の委員を務めたほか、筑波大の客員教授として同大の運動部改革にも携わる。

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