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香港問題で深まる中国の孤立 日本には成長の好機に?

エミン・ユルマズの未来観測

混迷を深める世界経済や国際秩序。時代の先を読み解くヒントを、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏が独自の視点から解説します。

新たなフェーズに入った米中新冷戦

中国と国際社会との分断が深刻になってきました。決定的な契機となったのは、中国が6月30日に施行した「香港国家安全維持法」です。これは実質的に、香港に高度な自治を認める「一国二制度」を破棄するものであり、欧米からの強い反対を受けていたものでした。中国が同法を成立させ、民主活動家や民主派メディア創業者を逮捕するなど締め付けを強める中、米国を中心とする西側諸国と中国との対立である「新冷戦」は新たなフェーズに入ったと言えます。

ここで、「なぜ中国はこのタイミングで香港の支配を強めようとしたのだろう」との疑問を持つ人は多いでしょう。香港の民主主義を否定するこの法律は、西側諸国の対中感情を悪化させただけのようにも思えます。しかし、新型コロナウイルスの第2波が世界を襲っているこのタイミングは、中国が影響力を拡大する好機でもあるのです。

コロナ禍に乗じた強硬姿勢の狙いとは

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

注目したいのは、香港国家安全維持法の成立と並行して、中国は周辺諸国への攻撃姿勢を強めているという点です。例えば東シナ海や南シナ海では、中国による軍事訓練の活発化や公船による漁船への体当たりなどが起きています。ヒマラヤ山中の国境地帯では、インドとの交戦で45年ぶりに多数の死者が発生する事態となりました。この傾向は一段とエスカレートする可能性が高いとみています。

なぜ中国は周辺諸国に対する攻撃姿勢を強めているのでしょうか。理由は2つ考えられます。まず、コロナ禍で習近平国家主席の指導力が揺らいでいるという可能性です。中国共産党は必ずしも一枚岩ではありません。周辺国への示威行為で習国家主席の存在感を高めようとしているということは十分考えられます。

もう一つは、自国のコロナ禍への対応を最優先する欧米諸国は、中国の強硬姿勢に対してまで手が回らないと中国当局がみている可能性です。今ならば国際社会からの批判は強くはならないと踏んでいるのかもしれません。

現状、中国支持の国はあまり多くはありません。例えば中国政府の新疆ウイグル自治区での少数民族政策に対し、支持を国連人権理事会への書簡で明らかにしたのは約50カ国。そのほとんどが中東やアフリカ、南米諸国です。ロシアやイランなどの大国はあるものの、西側諸国に対応するには明らかに力不足です。

それだけに、仮に新型コロナ向けワクチンの開発に中国が成功したならば、中国はそれを新興国諸国にばらまくことで支持を拡大しようとするでしょう。香港の件もそうですが、コロナ禍で欧米諸国の身動きが取れないうちに自国の影響力を強めてしまおうとする傾向は今後さらに強まるでしょう。

英国の対中姿勢強化、深まる分断

とはいえ、さすがに香港国家安全維持法の施行はやり過ぎた感があります。早速動いたのは、かつて香港を統治していた英国です。英国は7月20日、香港との犯罪人引き渡し条約を停止すると発表しました。香港での司法の独立が危ぶまれる中、香港の民主派を保護するという狙いがあります。

英国は次世代通信規格「5G」から中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の製品を2027年までに排除するとも発表しています。中国はこれらの措置に強く反発していますが、英公共放送のBBCがウイグル族弾圧に対し駐英中国大使を直接追及するなど、世論も相当強硬に変わりつつあります。

英国が対中姿勢を強めた意味はかなり大きいと考えています。旧大英帝国のネットワークは、国際社会では少なからぬ影響力をいまだに有しています。英国が旧宗主国だった新興国では、英国に呼応して反中感情が高まることになるでしょう。意図と反して、中国の国際的影響力は低下するという皮肉な結末になりそうです。

そうなった場合、西側諸国と中国との政治・経済的な分断はさらに広がることになります。その結果起きるのは、まず生産の移転です。中国で作っていたモノの多くは本国や東南アジアへと生産地を移すことになるでしょう。

「アジアの金融ハブ」の地位の行方は

日本にはこの恩恵が少なからず来ることになりそうです。電子部品や半導体素材といった高付加価値品では、日本企業の持つ技術力が改めて見直されることになるでしょう。また、5Gでファーウェイの影響力が落ちるのならば、富士通NECといった日本のITシステム会社の存在感が高まることにもなるとみています。

それ以上に大きいのはアジアの金融ハブの地位が香港から東京に移る可能性があることです。香港が中国の統制下に置かれることで、香港では自由な経済活動ができなくなります。証券会社などの金融機関は拠点を他国に移さざるを得ません。既に香港からの金融人材の流出は始まっています。

ここで次の金融ハブの候補になるのが東京とシンガポールです。ただ、シンガポールは米国からの地理的な距離が遠く、かつ中国系移民である華僑が多いというのがネックになります。必然的に、東京がその受け皿になるわけです。

とはいえ、東京が金融ハブになるには問題が幾つもあります。終日現物取引ができるような取引システムの構築が求められますし、海外企業が上場しやすくなるような制度作りも必要です。東京証券取引所は市場再編を進めていますが、これも金融ハブになるための一環と考えることができます。

金融ハブ化でヒトやカネが集まることによる経済効果は計り知れません。日本にとって中国の孤立は成長の好機でもあるのです。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。

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