重油1000トン超流出 モーリシャスの環境・生態系に影響
商船三井手配の貨物船座礁

2020/8/9 19:42 (2020/8/9 22:46更新)
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商船三井は9日、同社が手配した大型貨物船がインド洋の島国モーリシャス沖で座礁した問題で、現時点で船体から1千トン以上の重油が流出したと明らかにした。座礁地点の近くには野鳥の保護区があるなど環境への影響が懸念され、世界的にも注目が集まりつつある。流出事故の賠償は船主が負うのが原則で、今後の賠償額や商船三井の対応が焦点になる。

座礁したのは商船三井がチャーターしていた大型ばら積み船「WAKASHIO(わかしお)」。長鋪汽船(岡山県笠岡市)が船主として所有し、船員も出している。同日都内で記者会見した商船三井の小野晃彦副社長は「モーリシャス政府はじめ関係者に誠に申し訳なく深くおわび申し上げます」と陳謝し、専門家や同社の社員を現地に派遣する意向を示した。

モーリシャス沖で座礁した貨物船について記者会見で陳謝する(右から)長鋪汽船の長鋪慶明社長、商船三井の小野晃彦副社長、加藤雅徳常務執行役員(9日、東京都港区)

モーリシャス沖で座礁した貨物船について記者会見で陳謝する(右から)長鋪汽船の長鋪慶明社長、商船三井の小野晃彦副社長、加藤雅徳常務執行役員(9日、東京都港区)

水深が浅く、海外の報道ではモーリシャスの湾岸警備隊がわかしおに警告を発していたという。わかしおの燃料油タンク(合計4000トン程度)のうち、1180トンの容量のタンクが壊れて油の抜き取り作業を続けていたが、50トン程度しか回収できなかった。一部の重油が海岸に流れ着いているが、深さ数メートルあるロープ状の仕切りを海中に張り、重油が野鳥の保護区には影響が及ばないように対処している。

モーリシャス政府は「環境緊急事態」を宣言してフランスや国連に支援を求め、住民も除去を始めた。現地報道によると、重油は海岸に広範囲で漂着している。亀や鳥類などに大量に付着しておりボランティアが安全な場所に移動させている。

モーリシャスの海岸沿に漂流する重油(8日)=REUBEN PILLAY/REUBSVISION.MU, Virtual Tour of Mauritius・ロイター

モーリシャスの海岸沿に漂流する重油(8日)=REUBEN PILLAY/REUBSVISION.MU, Virtual Tour of Mauritius・ロイター

環境への影響を最小限に抑えるには早期の回収が必要だが、重油を処理する薬剤の使用はサンゴ礁などへの影響が大きい。「モーリシャス当局の許可があるまで使用できない」(長鋪汽船の長鋪慶明社長)という。同国は観光業に依存しており、回収作業が長引けば国民生活に大きな影響が出る可能性がある。

環境への懸念は世界に広がっている。マクロン仏大統領はSNS(交流サイト)で「生物多様性は危機的状態で行動が急務だ」と支援を表明した。環境保護団体グリーンピース・アフリカは希少生物を汚染していると指摘。「モーリシャスの経済や人々の健康に悲惨な結果をもたらす」と警告している。

過去の海難事故では1997年に日本海で沈没したロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」の座礁で重油約6200トンが流出した。補償額は約261億円にのぼった。

海難事故の責任を規定するのが「船主責任制限条約」と「バンカー条約」だ。これらによると海洋での油濁事故の場合、一般的には船の所有者が賠償の義務を負う。商船三井は座礁した船を、所有者の長鋪汽船から借りた形になる。

船主責任制限条約は、海難事故によって生じた損害の船主の賠償責任を船舶の総トン数に応じ上限額を決める。わかしおは約10万トンだ。海難事故に詳しい戸田総合法律事務所の青木理生弁護士は、上限は20億~70億円に制限される可能性があるとの見解を示した。モーリシャスが賠償上限に不服な場合、条約の破棄が必要になる。

通常、船主が加入する保険は油濁損害について最大10億ドルの上限が設定されている。賠償額は船主の責任保険内で支払える可能性が高いという。長鋪社長は「事故に関わる部分は船主で補填をするが、被害の様相がはっきりせず規模感は把握していない」との説明にとどめた。

貨物船を借りた商船三井に運航の管理責任を問う声が上がる可能性もある。商船三井は「わかしお」を含む船隊800隻の位置情報を数時間おきに把握していた。小野副社長は「船を借りる立場だが社会に与えた重大な影響を踏まえ誠実に対応したい」と説明した。

海運に詳しいある証券アナリストは「直接の責任は無くとも事態収拾に必要な措置をとると思われ、一定のコストが特別損失として計上されるリスクがある」と指摘する。

モーリシャスで、海岸に漂着した重油を除去する作業員ら(8日)=REUBEN PILLAY/REUBSVISION.MU、VIRTUAL TOUR OF MAURITIUS提供・ロイター

モーリシャスで、海岸に漂着した重油を除去する作業員ら(8日)=REUBEN PILLAY/REUBSVISION.MU、VIRTUAL TOUR OF MAURITIUS提供・ロイター

■モーリシャス共和国 インド洋にあるアフリカ南東部の島国で面積は東京都とほぼ同じ2040平方キロメートル。人口は約126万人で観光のほか、繊維や砂糖生産が主要産業だ。海や山など美しい自然が豊かで「インド洋の貴婦人」と称される。欧州などでは著名なリゾート地として知られる。近海にサンゴ礁が広がり、国際的に重要な湿地を保全するラムサール条約に指定された区域もある。

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