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米、コロナ追加対策で混迷 トランプ氏が大統領令へ

トランプ米大統領は大統領令の発動で打開を目指す(7日、ニュージャージー州)=ロイター

【ワシントン=河浪武史】トランプ米政権と米議会の協議が難航し、米国で失業給付など大型の新型コロナウイルス対策が立て続けに失効している。経済対策の延長を議論した与野党協議は7日も決裂し、トランプ氏は「大統領権限で追加策を発動する」と表明した。ただ税財政は議会の専権事項で、野党は「越権行為」と訴訟も辞さない構え。コロナ下の政治混迷は米景気の失速リスクを招きかねない。

ムニューシン財務長官は7日の民主党のペロシ下院議長らとの会談で、財政出動の規模などを巡って折り合えなかった。議会は8日から予定していた夏季休暇を返上するが、早期合意の機運は遠のいている。民主党は財政出動の規模について当初案の3兆ドル(約320兆円)から2兆ドルへの減額提案で共和党に歩み寄ったが、共和党が1兆ドルを主張して譲らなかった。

米政権・議会はこれまでに計3兆ドルの財政出動に踏み切っている。このうち7月末には失業給付を週600ドル上乗せしてきた特例措置が失効した。中小企業(従業員500人以下)の給与支払いを連邦政府が肩代わりする雇用維持策も8日に失効する。9月末には40万人の従業員がいる航空会社向けの雇用支援策も期限を迎える。

与野党は7月中に経済対策の延長法案を成立させる考えだったが、11月の大統領選・連邦議会選が近づき、双方とも妥協できなくなった。米経済は4~6月期に前期比年率換算で32.9%というマイナス成長に陥ったが、コロナ危機下で深刻な「財政の崖」が迫る。

市場では「協議が長引けば、財政による下支えがなくなることによる景気悪化を投資家が警戒し、世界的な株安につながりかねない」(大和証券)と不安の声が出る。

7月末に失効した失業給付の受給者は2500万人に達し、規模が大きかった。週600ドルの特例措置が切れ、受給者全体の収入減は週150億ドル、月額にすれば600億ドルにも達する。所得の喪失は全米の家計所得の4%分にも相当する。個人消費が大きく減速するだけでなく、家賃が払えなくなって住居を失う失業者も増えかねない。

米景気の失速リスクに対応し、トランプ氏は7日急きょ記者会見し、「大統領権限で失業給付を2020年末まで延長する」と大統領令による支援を表明した。給与税の納税猶予や学生ローンの利子免除など、議会を通さずに自身の権限だけで経済対策を発動するという。混迷する議会のはしごを外して、有権者に実行力をアピールする狙いがある。ムニューシン氏は7日、記者団に「週末に具体策を大統領に提示する」と強調した。

米国では大統領が法律をどのように執行するかについて各省庁に命令を出せる。これが大統領令で、合衆国憲法第2条の「執行権は米大統領に属する」にもとづく。

ただ、予算の編成権は議会にある。米憲法は「国庫支出は法律で定める歳出予算で決める」としており、税財政は立法権のある議会の専権事項だ。

米下院歳出委員会はトランプ氏の発言について「大統領権限の発動は違法だ」とする声明を出して厳しく反発する。ペロシ下院議長も「大統領令を出してもそれは無効だ」と主張。民主党は法廷闘争も辞さない構えだ。

それでもトランプ氏は「訴訟になるだろうが、受けて立つ」とひるまない。

トランプ氏は今回表明した大統領令が根拠とする法律について「そのうちわかる」と明らかにしないが、国家緊急事態法にある非常事態を宣言すれば、幅広い大統領権限を行使できるようになる。

実際、トランプ氏には非常事態宣言による大統領令によって予算を組み替えた前例がある。19年2月、公約の「メキシコ国境の壁」に予算を配分しない議会を見限り、80億ドルを「壁」に拠出する決定を下した。非常事態を宣言することで使える大統領権限によって国防予算を組み替えた。議会は与野党そろって反発して無効を決議したが、トランプ氏は拒否権を発動。法廷闘争となって最終的には連邦最高裁がゴーサインを出した。

もっとも、今回は1兆ドル規模の財政出動を議論しており、大統領の権限で拠出できる資金には限界がある。3月に発動した2.2兆ドルのコロナ対策には、中小企業の支援策などで1000億ドルを超える未消化予算がある。それを大統領権限で失業給付に切り替えることが想定されるが、失業給付の特例加算は月600億ドルもかかる。年末までの資金は確保できない。

法廷闘争になれば国庫支出も差し止められ、結果的に失業者に資金は届かなくなる。トランプ氏にとっては「民主党が訴訟で失業給付をブロックした」と批判できる材料にはなるが、経済を「人質」にとって政治闘争に明け暮れれば、ホワイトハウスも非難は免れない。議会の反発で追加経済対策が完全に宙に浮くリスクもあり、大統領令の発動はトランプ氏にとって大きな賭けだ。

8日に期限が切れる中小企業の雇用維持策はこれまで「6000万人分の給与を肩代わりしてきた」(ムニューシン氏)。4月に14.7%まで悪化した米失業率は7月に10%台まで低下してきた。政治混迷で雇用支援策が立て続けに失われれば「失業第2波」に見舞われる懸念もある。

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