郡上おどり、400年で初リモート 伝統の祭り多様に
新型コロナウイルスの影響で、伝統の夏祭りの中止が全国で相次いでいる。中部地方でも惜しむ声が上がる一方、岐阜県郡上市の「郡上おどり」は、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を活用して踊りを配信する代替策を打ち出した。密集を避けつつ、夏の風物詩を楽しめるよう工夫を凝らす。

「あ、そんれんせー」。風情あふれる太鼓や笛が奏でられ、げたの音と手拍子が鳴り響く――。1日夜、郡上おどりの参加者らが集ったのはZoomの画面上だ。旧城下町の郡上八幡地区と全国各地の住宅をつなぎ、浴衣やTシャツなど思い思いの姿で郡上おどりを楽しんだ。
郡上おどりは国の重要無形民俗文化財で、徳島の阿波おどりなどと並ぶ「日本三大盆踊り」の一つとされる。7月中旬から9月上旬にかけ市内各地の会場を巡り、毎年約20万人が参加する。ハイライトの徹夜おどりでは浴衣姿の老若男女が夜通し街や神社を踊り歩く。
この夏は新型コロナの影響で、5月に中止が決まった。郡上市の担当者は「踊り手が動き回り、不特定多数の人が参加するため、感染を防ぎきれないと判断した」と話す。全日程の中止は、約400年続く祭りの歴史で異例のことだ。

代替策として考えたのがライブ配信だ。対象は開幕日だった7月11日の「発祥祭」、江戸時代から続く「七大縁日」に当たる7~8月の7日間、おどり納めの9月5日の計9日間。動画投稿サイトのユーチューブやケーブルテレビを通じ、地元保存会員のみによる踊りとお囃子(はやし)を郡上八幡から生配信する。
一般の人を集めないよう郡上八幡での会場の場所は公開していない。代わりにZoomを活用し、事前に申し込めば誰でも全国から参加できるよう工夫した。担当者は「今年はオンラインで楽しんでもらい、来年以降はぜひ現地に来てほしい」と期待を込める。
やむを得ず神事だけにとどめる祭りも多い。津島神社(愛知県津島市)の「尾張津島天王祭」は約600年の伝統を誇り、毎年20万人が訪れる。約500個のちょうちんと舟が真夏の夜の天王川にこぎ出す幻想的な景色が人気で、2016年には「山・鉾・屋台行事」の一つとしてユネスコ無形文化遺産に登録が決まった。
中止を決めたのは4月。祭りの準備に3~4カ月要するため、早い段階で決断を迫られた。祭りの全面中止は太平洋戦争末期の1945年以来だ。堀田正裕宮司(70)は「伊勢湾台風(1959年)や濃尾地震(1891年)の翌年も開催してきたのに、異常な事態だ。祭りを継承できないことに不安もある」と肩を落とす。疫病退散を願う神事に限り、神社関係者のみで執り行うという。

18、19年は台風でメインイベントの「宵祭」が中止や規模の縮小を余儀なくされた。津島市の担当者は「ここ3年まともに開催できていない。本当に残念」と漏らす。
三重県でも8月の石取祭(桑名市)や10月の伊勢まつり(伊勢市)が相次ぎ中止を決めている。
「コロナなんかにゃ負けとれん!」。大須商店街(名古屋市中区)は7~8月に開く夏祭りの代わりに期間限定のオンラインショップを企画し、街を盛り上げている。
名物のサンバパレードやコスプレ大会は中止となったが、SNS(交流サイト)のインスタグラムを通じ、浴衣コンテストや線香花火の特別企画を催した。商店街連盟の担当者は「せっかくの楽しい夏の風物詩。工夫できるところは工夫して、祭りを満喫してほしい」と話している。
(林咲希)

新型コロナウイルスの関連ニュースをこちらでまとめてお読みいただけます。
■ワクチン・治療薬 ■国内 ■海外 ■感染状況 ■論文・調査 ■Nikkei Asia
-
【よく読まれている記事】
- 新型コロナウイルスは体内にいつまで残るのか
- 「コロナに決してかからない人」はいるのか?