監査法人交代、過去5年で最高 味の素は69年ぶり
監査法人を変更する上場企業が増えている。2019年7月~20年6月に交代を発表した企業は142社と過去5年で最高水準となった。味の素が69年ぶり、大和ハウス工業が51年ぶりと久々の交代も目立つ。監査期間の長期化によるなれ合いを防ぐ狙いがある。
金融庁の公認会計士・監査審査会が集計した。前年の138社に比べ4社増えた。2年連続で高水準となり、同審査会が集計している過去5年では最高だった。監査法人の合併は集計対象外。
交代理由で目立つのが、継続監査期間の長期化だ。東芝など大手企業の会計不正を受けて、監査法人とのなれ合いや癒着を懸念する声が高まった経緯がある。監査法人によって監査の手法や視点は異なり、同じ法人が前例を踏襲していては気付きにくい会計上のリスクや不正の端緒の発見につながるとの期待もある。
味の素は6月、1951年から監査を担当していたEY新日本監査法人からあずさ監査法人に交代した。「継続監査期間の長さに問題意識を持ち、数年前から検討を始めていた」。大和ハウス工業は69年から担当していたトーマツからEY新日本への交代を決めた。継続監査期間の長期化を踏まえ、「複数の監査法人との比較検討を積極的に実施した」という。
上場企業は20年3月期から、継続監査期間を有価証券報告書で開示しなければならなくなった。「投資家からの視線が厳しくなり、長期契約の解消は加速しそうだ」(青山学院大学の八田進二名誉教授)との声がある。
三井不動産(59年間)やデンソー(52年間)、関西電力(52年間)など同じ監査法人が長期に継続して担当する企業はまだ多い。
一方、産業用チェーンのオリエンタルチエン工業や野菜苗大手のベルグアースなど、監査法人からの監査報酬の増額要請をきっかけに交代を決めた企業も多い。監査法人が、監査品質保証のための人員確保などを目的に、企業に打診するケースが増えている。
特にEY新日本やトーマツなど大手からの交代が進んだ。大手4社が監査する上場企業数が全体に占める割合は20年3月期で69.5%と、この5年で初めて70%を下回った。不正発見に対する社会的な要請が強まるなか、大手を中心に監査の厳格化を進めている。企業活動のグローバル化や国際会計基準(IFRS)への移行で、監査が複雑になっている面もある。
もっとも、交代には短所もある。「特に交代した初年度は不正を見逃しやすくなる可能性がある」(八田氏)という。企業の基礎的な事実確認や、担当者間の関係づくりを一から始めなければならない。知見を蓄積してリスクの勘所をつかむまでにも時間がかかる。
大手の受け皿となる中小の監査法人は、リスクの高い企業を監査する体制が整っていないとの懸念もある。
新型コロナウイルスの感染拡大で、減損処理や繰り延べ税金資産の回収可能性など、会計上の見積もりはさらに難しくなっている。交代にあたり、監査法人間で綿密に情報の引き継ぎをするなど、監査の質を担保できるかが焦点となる。
(干場健太郎)
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