高島屋村田社長「発見のある売り場、人材育成に授業料」

日経ビジネス
2020/8/18 2:00
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村田善郎(むらた・よしお)氏 1961年10月、東京都生まれ。85年慶応義塾大学法学部卒、高島屋入社。2011年柏店長、13年執行役員総務本部副本部長、15年常務執行役員企画本部副本部長、17年常務総務本部長を経て、19年3月社長就任。(写真:的野弘路)

村田善郎(むらた・よしお)氏 1961年10月、東京都生まれ。85年慶応義塾大学法学部卒、高島屋入社。2011年柏店長、13年執行役員総務本部副本部長、15年常務執行役員企画本部副本部長、17年常務総務本部長を経て、19年3月社長就任。(写真:的野弘路)

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インターネットで何でも買え、商品情報もスマホで手に入る現代。わざわざ足を運んで、決して安くはない商品を買いたくなる店を実現するには何が必要なのか──。高島屋社長の村田善郎氏に聞いた。

――電子商取引(EC)であらゆるものが手に入る時代に、百貨店に求められている役割とは何なのでしょうか。

「お客様にとって『新鮮な発見』を提供することなんだと思います。実は百貨店に来店されるお客様のうち、コンビニやスーパーのように、いわゆる『目的買い』でいらっしゃる方は全体の3~4割だけで、それ以外の方は、お店で初めて商品と出合って購入されるんです。意外かもしれませんが、その典型がたんすです。大きくて豪華なたんすが売れるのは、身の回りの小物を買いに来たご夫婦がたまたま商品を目にして、一目ぼれして買われるという場合が多いんです」

「ECがどんなに進んだとしても、リアルな場で、実際に物に触れて、買い物を楽しむ。こうした感動的な体験を希求する気持ちはコロナ禍でむしろ高まっているし、人間のDNAからは絶対になくならない。百貨店は、その役割を十分果たしていけるように進化し続けなければなりません」

――昔とは異なり、商品に関する情報を誰でもスマホ1つで入手できるようになりました。感動や驚きを与えるためのハードルは上がっていませんか。

「特定の商品についてあらかじめ調べてきて、店員よりもよくご存じのお客様が増えました。ですから、しっかりと独自性のある売り場をつくり、その商品のどこに価値があり、なぜその値段になるのか、商品の歴史やモノづくりの過程など、背景にある『物語』を語れる人材を増やさなければなりません」

「新型コロナウイルスの影響で客数が減っている分、客単価を高めていく必要があります。ネットショッピングでは複数の商品の価格を簡単に比較でき、安いものが選ばれやすい。百貨店はそれとは逆に、この商品がなぜこの値段なのかを、丁寧に伝える場なんだと思います」

――価値を伝えることは百貨店の店員の本来の役割だと思うのですが、その能力が弱くなっていたということですか。

「そうですね。『消化仕入れ』という百貨店独自の販売形態が増えたことがその要因だと思います(編集部注:消化仕入れとは、店頭在庫の所有権を仕入れ先企業が持ち、商品が売れた時点で百貨店に売り上げが立つ販売形態。百貨店は在庫リスクを負わずに済む半面、品ぞろえや販促などは仕入れ先任せになりやすい)」

「現在は、店舗の売り上げのうち、『消化仕入れ』の形態が7割強を占め、商品を購入して販売する『買い取り』の形態は3割弱にとどまります。私が入社した昭和60年(1985年)ごろは、買い取りが7~8割を占めていたと思います。買い取りの比率が下がったことで(仕入れ先に任せる売り場が増え)、価値ある商品を発掘できる目利きの力を持つ人材が減ってしまった。バイヤーという肩書だけど、リスクを背負って買い取る本当の意味のバイイングをしていないケースが増えていったんです」

■増員なき増床

――消化仕入れのほうが、商いとして都合がよかったということですか。

「百貨店というのは装置産業です。店舗や人にかかる固定費が大きい業種で、バブル崩壊後、経営の効率化が喫緊の課題になり、(在庫を抱えずに済み、在庫管理も不要な)消化仕入れが増えていきました。『消化人付き』という取引先様に販売員も出していただく形態が増え、1996年に新宿に店を出した頃には『増員なき増床』が合言葉になっていました。人を採用せず固定費を押さえながら、売り場面積は増やすという政策に転換した。それがそのまま最近まで続いてきました。その結果、失われた何年か分かりませんが、人がやっぱり育たなかった」

「そこを百貨店としてもう一度、目利きができる人材を育てて、独自性のある楽しい空間をつくり、価格と価値のバランスをしっかり説明してお客様からの信頼につなげたいんです。3年ほど前、私が企画担当の役員だった時に、消化仕入れの比率を下げていくという内容を経営方針に盛り込みました。買い取り商品を中心にした当社の『自主編集売り場』を、今後3年ほどで5割程度増やそうと思っています」

――どうすればそれを支える目利き力がある人材が育ちますか。

「バイヤーの仕事は座学では身に付きません。買い取っても売れないという失敗を重ねながら育つものです。時には『授業料』も必要です。バイヤーが萎縮せずに、リスクを取って買えるように、期間限定のところも含めて8月現在で5つのアウトレット店を設けて、商品を売り切っていく仕組みを整えました」

■「非効率の効率」

――百貨店本来の競争力を取り戻すということですね。

「百貨店が百貨店である存在意義というのは、突き詰めれば、新しい文化を発信して、お客様の『知的欲求』を満たすことなんです。ただモノを販売する場ではなく、新しいライフスタイルを支える商品や文化の担い手を育てるインキュベーション機能こそが百貨店の魅力だったわけです」

「玉川や日本橋の店にギャラリーを設けて作家さんを育てているのもそのためです。さらに最近は、一人暮らしの女性や年配の方に人気の癒やしを与えるロボットを販売する売り場を新宿などの店に設けました」

「当社の経営層には『非効率の効率』という言葉が根付いています。売り場の効率を追い求めて、確実に売れるもの、利益を得やすいものだけを並べていたら、売り場が大変つまらなくなってしまう。内情を言うと、家具などのリビング用品や食品などの売り場は、あまりもうかっていないんです。だけど、そういうものをそぎ落としてしまったら、店が面白くなくなってしまう。こうした非効率を残すことで、店の魅力が高まり、全体効率が上がるという『法則』があるんです。構造改革でバックヤードの生産性をできるだけ高めることで、非効率な部分を維持できる体力を保つ。これが百貨店経営における永遠のテーマなんだと思います」

――日本初の本格的郊外型ショッピングセンターである玉川高島屋ショッピングセンター(東京・世田谷、1969年開業)に代表されるように、百貨店とテナントの専門店との融合にも力を入れています。

「旬な売り場をつくるために重要な部分です。百貨店業態の高島屋と商業開発事業を担うグループ企業の東神開発(東京・世田谷)が誘致するテナント、この両輪のバランスが楽しい空間をつくり、地元に密着した店舗を通じた『まちづくり』をする上で大切です」

「百貨店業態を、人付きの消化仕入れの形態で支えていただいた大手アパレルなどは、かつてのようには人が出せなかったり、販売する商品のロットも絞らざるを得なくなったりしています。一方、専門店は、定期借家契約だと、例えば3年間、売り上げが伸びないところは入れ替える、といったことができるので、売り場の鮮度を維持できます。もっとも今はコロナ禍の影響で、売り上げを確保するのが非常に難しいので、テナントとお互いに痛みを分け合って生き残りを模索しています」

(日経ビジネス 吉岡陽)

[日経ビジネス電子版2020年8月7日の記事を再構成]

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