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宝塚「はいからさん」 舞台・人物描写の厚み増す

文化の風

初演・再演ともに柚香光(左)が伊集院忍を、華優希が花村紅緒を演じる

宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)で7月に上演が始まった宝塚歌劇団花組「はいからさんが通る」。2017年の初演に比べ、演出も物語も大きくてこ入れされた。出演者らの新型コロナ感染で今月2日以降の公演が中止となったが、宝塚伝統の漫画舞台化のノウハウが生かされ、新たな看板作品としての期待もかかる。

役の再現度高く

「はいからさんが通る」は大和和紀の同名漫画が原作。女学校に通う跳ねっ返りのおてんば娘、花村紅緒が陸軍少尉の伊集院忍と恋に落ち、あまたの障害を乗り越え結ばれるまでを描く。初演・再演とも柚香光(ゆずかれい)が忍を、華優希(はなゆうき)が紅緒を演じており、漫画から飛び出してきたような役の再現度の高さが話題をさらった。

宝塚は伝統的に漫画の舞台化を得意とする。「ベルサイユのばら」の歴史的ヒット以来、手掛けた作品は数多い。実ははいからさんも漫画の連載終了間もない1979年、宝塚がいち早くテレビ用ミュージカルを制作、放映した経緯がある。

宝塚は近年、「エリザベート」「風と共に去りぬ」など何度も再演される長年の看板作品に新たな一作を付け加えようと模索してきた。人気の演目は演者の人気に左右されず一定の集客効果が見込め、特にエリザベート人気はチケット入手が困難とされるほどだ。

満を持した再演

はいからさんは誰もが知る人気作。テレビや映画向けにアニメや実写で繰り返し放映、上映され、舞台でも上演されてきた。宝塚は近年、「ポーの一族」や「るろうに剣心」で人気漫画の舞台化に成功しており、はいからさんは満を持しての舞台化だったと言える。

初演の舞台となった大阪と東京のホールは、ともに客席数で宝塚大劇場の半分以下だった。今回は花組の新トップコンビのお披露目公演でもある。コンビが過去に大劇場以外で主演した作品をお披露目で選ぶのは異例。はいからさんを定番化すべく、コンビとともにじっくり育ててきた。演劇評論家の坂東亜矢子は「2次元の作品を3次元に移すのは難しく、反発も生みやすい」と指摘。「今作は『原作ファンも宝塚ファンも裏切らない』という点で外さなかった」と評価する。

演出は進化し、見応えが増した。初演は大道具を多用せず、簡素な舞台に見立てや壁への映像照射を駆使する「2.5次元の舞台に近い作りの演出」(脚本・演出の小柳奈穂子)だったが、総本山の宝塚大劇場は「もっとお芝居の深みが必要」(小柳)となる。おでんの屋台や桜の花道など舞台装置が作り込まれ、より新派劇に近い演出になった。

内容面では初演のラブコメディーの趣に歴史群像劇の魅力が加わり、重厚さが増した。特に目立つのが脇役の描写の充実ぶり。忍の恋のライバルの青江冬星には父親役が新たに登場し、こじれた家族感情を表すセリフが追加。複雑な家庭の事情から朗らかな紅緒に心引かれる心情がより細やかに表現された。

社会運動の活動家と関わりを持つ作家の高屋敷要が関東大震災を見届け新作小説を書き上げるのも新たなシーン。「こんな時こそ言論の炎を消しちゃいけない」というセリフに大正期から戦前にかけての社会主義の勃興と弾圧が暗示される。震災で焼け出された人々が焦土と化した東京を歌いあげる場面も加わり、紅緒・忍・冬星の三角関係とデモクラシーに沸いた時代の終わりを印象づけた。

物語の世界観を作り込み、現実を忘れさせるエンターテインメントの力を十分に発揮した力作だ。宝塚大劇場では今後の公演再開を模索、東京宝塚劇場では10月から上演する予定だ。

(山本紗世)

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