リクルート峰岸社長「投資抑制を後悔したくない」

日経ビジネス
2020/8/17 2:00
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峰岸真澄(みねぎし・ますみ)氏 1964年生まれ。千葉県出身。87年立教大学経済学部卒業後、リクルート入社。「カーセンサー」の広告事業を経て「ゼクシィ」創刊に携わる。2003年に当時最年少の39歳で執行役員に就任。04年常務執行役員、09年取締役兼常務執行役員、11年取締役兼専務執行役員を経て、12年4月に社長兼CEOに就任。同年10月、持ち株会社制に移行し、リクルートホールディングス社長兼CEOに就任。(写真 竹井俊晴)

峰岸真澄(みねぎし・ますみ)氏 1964年生まれ。千葉県出身。87年立教大学経済学部卒業後、リクルート入社。「カーセンサー」の広告事業を経て「ゼクシィ」創刊に携わる。2003年に当時最年少の39歳で執行役員に就任。04年常務執行役員、09年取締役兼常務執行役員、11年取締役兼専務執行役員を経て、12年4月に社長兼CEOに就任。同年10月、持ち株会社制に移行し、リクルートホールディングス社長兼CEOに就任。(写真 竹井俊晴)

日経ビジネス電子版

米インディード買収でグローバル企業に成長、人材サービスで世界一を目指すリクルート。4期連続最高益の快進撃が続いていたが、コロナショックで状況は一変した。ニューノーマルに対して、どう臨むのか。リクルートホールディングスの峰岸真澄社長兼最高経営責任者(CEO)に聞いた。

――2020年3月期まで4期連続最高益と好調でした。新型コロナウイルスの影響はどの程度受けていますか。

「ひどい状況です。4月単月の売り上げは、グループ全体で前年同月比21%減でした」

「大きく3つある事業領域ごとに見ると、求人検索サイトである米インディードを中心としたHRテクノロジー事業は35%減。「ゼクシィ」など販売促進支援サービスが中心のメディア&ソリューション事業が23%減、そして人材派遣事業が12%減とすべての事業でマイナスでした」

「ただ、インディードが毎日、各国単位で公表しているジョブポスト(求職)の数を見る限り、5月末の段階で底を打っています。まず欧米でロックダウンが起き、その後日本でも緊急事態宣言が発令されました。それが解除されて、お店や事業が再開して、人材が必要な状況になったということです」

「いわゆる新型コロナの第1波で世界各地がロックダウンとなったことで、コロナによるインパクトの『深さ』は大体つかめました。第2波、第3波で再度、ロックダウンや自粛要請ということになっても、その深さは想定できます」

「問題はこれがいつまで続くか、つまり『長さ』です。回復基調にあるといっても、100に戻るまでの時間軸が読みにくい。ですから、インパクトの深さよりも長さが重要になってきますので、そのあたりの数値はずっと見ています」

■危機が去った後、投資抑制で後悔したくない

――このような事態が起きることを想定していたのでしょうか。

「私どもはHR(ヒューマンリソース)のビジネスを手掛けています。HRは経済の循環とリンクしていますから、経済が悪化すると各社は採用を抑制し、へたをすると完全にストップしてしまいます。私の経験に照らしても、今回の新型コロナを含め、4回の危機がありました」

「リーマン・ショックの後は好景気が続いてきましたが、我々は過去に危機を経験していることもあり、『次の危機はいつ来るのか』『危機が訪れたとき、どのような対応をするのか』といった議論は非公式のミーティングの中でずっとしてきました」

――常日頃から頭の体操はしていたということですね。

「そのときに議論していたことの一つが、中長期戦略に基づく計画をストップしたり、抑制したりすることは何とかやめたいということです。強化すべきプロダクトやサービスについても止めるのではなく、むしろ危機のときにドライブをかけられるよう体制を整えておこうと。危機が去った後に、投資を抑制したことを後悔したくありませんから」

「そのためには財務基盤が強固でなければいけません。『どの程度の危機であれば、抑制しなくても大丈夫か』というキャッシュバランスのシミュレーションをしてきました」

――では新型コロナでもそれほど慌てずに済んだのでしょうか。

「いやいや(笑)。リーマン・ショックは金融発でした。HRビジネスはどんと落ち込みましたが、日常消費を中心に実需はそこまで落ちませんでした」

「しかし今回は飲食店に大きな影響が出ていますし、旅行や結婚式なども延期や取りやめが増えています。リーマン・ショックでは大きなマイナスにならなかった分野も、今回は大きく落ち込んでいます」

「ただ、リクルートの強みは危機にあっても、既存事業の構造を変えながら次の時代の主軸となっていくようなビジネスを開発してきたことにあります」

「現在は中長期の戦略として、2つのテーマがあります。一つはHR産業のグローバルリーダーになること。採用プロセスなどHR産業にはまだ効率化の余地がありますから、人工知能(AI)を使って最適な求人情報を提供する米インディードの技術やプラットフォームを使って、求職者がより仕事を見つけやすくしていきます」

「もう一つは『Air ビジネスツールズ』などのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)によって日本の中小企業の生産性向上に貢献していきます」

キャッシュレス決済「Airペイ」など、中小企業向け支援ツールの普及に注力

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「この2つのテーマの実現はそもそも時間がかかるものですが、新型コロナを受けてより速く進めていきたいですし、アフターコロナに向けた力の入れどころかと思っています」

■デジタル技術がなかった

――新型コロナ前まで業績をけん引してきたインディードの買収はリーマン・ショック後の12年でした。

「もともとリクルートはインターネットの登場以前から、情報誌の広告がどれだけ最終購買に結び付いたのかを測定するなど、科学的にビジネスをしてきました。でもアナログがデジタルになったときに、リクルートはテクノロジーを持っていませんでした。情報誌からインターネットへの転換はうまくいきましたが、その先のクラウドやスマートデバイス、ビッグデータの時代になって難しくなってきました」

「そこで12年にHRに特化して、ナンバーワンになるという目標を打ち出し、我々の力だけではテクノロジーにおいて世界で勝てないということで探して出合ったのがインディードです」

「美容室向けの業務管理サービス『サロンボード』を始めたのもこの時期です。また、学習講座アプリの『スタディサプリ』も10年ごろに検討を始めていました」

――12年にHRの分野で世界に出ていくという決断をされたのは、どのような背景からですか。

「12年にCEOに就任する前は、中長期の方向性を決めるリーダーの役割でしたが、その当時から海外に行くか行かないかは大きな課題の一つでした」

「行くのであれば集中しなければなりませんから、一番になるというスタンスを取るしかありません。となれば、そこに資源を投入しなければなりませんので、上場という資本政策を取るという順序でした」

「HRに関しては、例えば人材派遣業で見てみると、我々の利益率が高かった。日本特有の事情があるにせよ、我々のオペレーション能力もあるのではないかと考えました」

「そこでまず米国の数十億円規模の企業を買収してみました。すると利益率が上がったので、次は米国で300億~400億円の企業を2社買収しました。これも利益率が向上したので、その後は数百億円規模のオーストラリアの上場企業を買い、さらに1900億円ほどの欧州の上場企業も買収していきました」

――今後の成長に必要なピースはそろっているようにも見えますが、リーマン・ショック後のような企業の買収も考えているのでしょうか。

「特定分野の技術を持つテックカンパニーには魅力を感じます。自前でも開発していきますが、リクルートはやはり純粋なテックカンパニーにはなれない。テクノロジーを持っていたり、ある国や地域で強みを持っていたりする企業は対象になります。掛け算まではいかなくても、足し算よりプラスになる案件なら可能性はあります」

「採用プロセスの市場は世界で約15兆円ありますが、まだまだ労働集約的な部分も多い。こうした部分をインディードなどのテクノロジーで効率化していくことが一つのチャレンジです」

――15兆円市場のうち、どれぐらいを取るつもりですか。

「そういった目標はないですね。まずは圧倒的に優れたサービスをつくる。そこに集中することに尽きます。そうすればお客様に選ばれて、結果的に数字はついてくるという考えです。既存の小売業界に対し、圧倒的に便利なサービスで参入した『アマゾン』のようなサービスです。私たちは人材ビジネスでそれを実現したいと考えています」

――「数字」よりも「価値」ですか。

「トータルで言うと『価値』ですね。速さや安さ、ボリュームなども含めて、『価値』ということだと思います」

――米グーグルなどはリクルートにとって脅威ではありませんか。

「ネットの巨人であり、あらゆる分野を手掛けているわけですから、当然競合する部分は出てきます。我々としては自分たちの領域、例えば採用プロセスを圧倒的に効率化し、磨いていくしかありません」

■現場のサポートが経営の役目

――インディードのようなテクノロジーの会社を率いるようになりましたが、経営する上で気を付けている部分はありますか。

「まず、ビジョンに共鳴してもらうことが不可欠です。トップが計画や方針を決め、それに共鳴してもらう。我々であれば『面倒な採用プロセスを楽にする』『明日にでも働きたい求職者にすぐ仕事を提供する』というビジョンはブレません」

「そして、現場に納得してもらった上で仕事を任せる。経営がずっとハンズオンで関わるわけにもいきませんから。とにかく現場をサポートすることがデジタル時代の経営では不可欠です。いかに現場が気持ちよく動けるかです」

「これは本当にここ数年で学んだことです。トップになったばかりのころは見えておらず、方針を出して実行し、失敗しながら勉強してきました」

――新型コロナを経て日本が再興するために何が必要なのでしょうか。峰岸さんのお考えを聞かせてください。

「これまでの習慣によって、重力が保守的な方に働いていましたが、新型コロナをきっかけにゼロベースで見直されて、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。その中で生き残っていくには、『このサービスにしかできない』という強みが求められます。米国のインディードでは、不足するエッセンシャルワーカーを非接触ですぐに採用できる点で利用が増えました」

コロナによりあらゆる分野でデジタル化が進む。「このサービスにしかできない」が不可欠に。(写真 竹井俊晴)

コロナによりあらゆる分野でデジタル化が進む。「このサービスにしかできない」が不可欠に。(写真 竹井俊晴)

「新型コロナは企業やサービスにとって変革をもたらすきっかけになりますが、単に新型コロナだけに対応したものではダメでしょう。アフターコロナで使われないものでは意味がありませんから。付け焼き刃ではなく、未来を見据えた変革が必要です」

「それを考え、実行していくためには私たち自身が変わらなくてはいけません。とりわけ企業であれ自治体であれ、ガバナンスする立場の人こそ変わる必要があるのではないでしょうか」

聞き手から
2012年に買収した米インディードは求人情報に特化した検索エンジンを提供しています。関連する事業含め、売上高は世界で4000億円超。リクルートは実は世界で勝負できている数少ない日本のネットサービスカンパニーと言えます。GAFAや中国勢の躍進が目立っていますが、日本企業でもネットサービスで戦える余地はあるのです。

 毎年開いている業務改善の社内コンテストを覗くと、高度成長期のQC活動のような熱気をいまだに宿しています。ビルの上から下まで飛び込み営業をかける「ビル倒し」や手を受話器にテープ巻きした電話営業など数々のリクルート伝説はほぼなくなったようですが、万事徹底する社風が世界でどこまで通用するかは見ものです。

(日経ビジネス編集長 東昌樹)

[日経ビジネス電子版2020年8月6日の記事を再構成]

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