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タイでも稼ぐJリーグ アジアの「奇貨」市場を開拓

横浜Mのティーラトン(右)らタイ選手が出場するJリーグの試合はタイ国内でも注目される=共同

サッカーのJリーグがタイでのビジネス展開で攻勢をかけている。日本でプレーするタイ人選手が増え、当地でJリーグの認知度は高まっており、放映権収入も伸びている。タイなど東南アジアのサッカー市場は伸びしろの大きい「金脈」だ。商機を逃さないためにも、関係強化に力を入れている。

タイのJリーグファンをターゲットにした企画が、8日の清水―札幌、19日の清水―横浜Mのカードで実施される。タイの国民的スター、チャナティップ(札幌)やタイ代表のティーラシン(清水)らタイ人同士が直接対決する試合はいわば「タイダービー」。かつて本田圭佑が所属したACミランと長友佑都のいたインテル・ミラノ(ともにイタリア)の対戦が「日本人ダービー」と銘打たれたのと同様に、タイ国内でも注目を集める。

この2カードでユニホームの選手名を全てタイ語で表記。ゴール裏の発光ダイオード(LED)看板でも選手名をタイ語で示し、タイ人以外のJリーガーのことももっと知ってもらう。インターネットやアプリを使ってタイからも「リモート」で会場のIAIスタジアム日本平(静岡市)へ声援を送れるようにする。タイ国内リーグは秋開幕。空白期の夏は「J」の売り込みどきだ。

「アジア市場の伸びしろは大きい」

この10年近く、Jリーグは海外展開の一環として「アジア戦略」に取り組んできた。C大阪がバンコクのクラブと提携し、G大阪はインドネシアでプレシーズンマッチを行い、育成年代の交流も進められてきた。東南アジアを商圏とする親会社にとっても、Jクラブがアジアと結びつきを深めるメリットは大きかった。

こうしてまき続けた種が、収益という果実として実りつつある。「Jリーグが思い描いてきたことが、起き始めている。アジア市場の伸びしろは大きい」。10年来、Jリーグでアジア戦略に携わってきたグローバルカンパニー部門の小山恵は手応えを感じている。

一例がタイだ。Jリーグは2020年度からタイ向けの放映権契約を更新した。昨年までは有料放送会社との契約だったが、今年度からは「SIAMSPORT」と契約。動画投稿サイト「ユーチューブ」やSNS(交流サイト)で視聴でき、現地の公共放送でも毎週1試合ほどが中継されている。視聴数は毎週約30万人、年間のべ1000万人にも達するという。3年契約で放映権料は前回契約のほぼ5倍に膨らみ、全体で計25億円程度とみられる海外放映権収入に寄与している。

タイの国民的スターのチャナティップ(左)は今季、札幌で全試合に出場している=共同

タイでサッカーはバドミントンに次ぐ人気スポーツ。Jリーグはアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)での好成績で認知され始め、17年にチャナティップが札幌に入団すると注目度は一気に高まった。タイに足しげく通う小山によれば「いつかはJリーグでプレーしたい、というタイの若手が増えている」。

代表チームが日本に追いつけ、追い越せとばかりに成長しており、タイサッカーのレベルも向上している。10年前、小山らがJリーグの強化担当者をタイなどへ連れてきても、現地の選手に興味は薄かった。最近は「戦力になりそうな選手がいる」と受け止め方が違う。競技力でも心理面でも、両国の距離感は近づいているといえそうだ。

放映権収入、海外からを全体の10%に

ワールドカップ(W杯)は26年大会から出場国数が現状の32チームから48チームへと拡大する見込みで、アジアの出場枠も広がる。東南アジアの国々も初出場のチャンスがある。日本サッカー界が1998年のW杯初出場や2002年日韓W杯を機に大きな盛り上がりをみせたのと同じことが、向こう5~6年で東南アジアに起こりうる。サッカーのマーケットも飛躍的に膨らむ可能性を秘めており、このビジネスチャンスをみすみす逃す手はない。

Jリーグでは放映権収入のうち海外からの割合は5%程度で、これを「10%に高めたい」と小山は話す。巨大な人口を抱えるアジアへ、欧州主要リーグは既に触手を伸ばしている。「イングランド・プレミアリーグだと放映権収入の50%、ドイツ・ブンデスリーガは同20%近くをアジアを中心に海外で稼いでいる。うかうかしていると日本は置いていかれる」

タイではJリーグも健闘している。現地での関心度調査によると、プレミアリーグの84%、スペインのリーガ・エスパニョーラの62%に対し、Jリーグも49%と高水準。タイに下ろしつつある根をさらに深く伸ばしつつ、今後はベトナムやインドネシアなど、近隣諸国とも関係を深められるかがカギになる。

そのうえで肝心なのは「成功例をつくること」(小山)。地道に関係性を築き、互いに収益が見込めるビジネスの流れを軌道に乗せるまでが最初の壁で、腰を据えて取り組む必要がある。

タイについては札幌がチャナティップを獲得、主力として活躍するまでになり、そうした時流をタイミングよくつかめた。一方でベトナムに関しては、英雄レ・コン・ビンが13年にベトナム人初のJリーガーとなり、同じく代表の主軸グエン・コン・フォンが16年にJ2水戸に入団するなど契機はあったが、タイほどうまく事は運んでいない。

「選手が(市場開拓の)入り口にはなるが、選手に依存しすぎると、いなくなった途端に道が途切れかねない。国に応じて効き目のある施策が異なることを踏まえつつ、現地でJリーグに対する人々のロイヤルティー(忠誠心)を高める。第2のタイをつくりたい」と小山らは次なる手を模索している。

得意分野の選手育成を足がかりに

東南アジアのクラブ経営では、目先の結果や短期的な収益に目が注がれがちな傾向があるという。好成績を収めるなら手早く外国人選手を補強して、というように。そこでは育成の発想は育ちにくい。「選手育成は短期的にみればコストだから」と小山。その育成こそはJリーグが培ってきた得意分野である。多くの東南アジアのクラブが「Jリーグの育成を学びたい」と関心を寄せる。

長期の視点で価値や選手を育むノウハウにおいてJリーグには一日の長があり、東南アジアへ接近するうえでの強みといえるだろう。「一方で、東南アジアとは同じアジアとして相通じる文化や考え方もある。ヨーロッパのリーグとは違うモデルで、アジアに根を広げられるはず」と小山は考える。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、大勢の人がスタジアムに集うことは難しくなった。「でも、ひとが『そこ』や『どこか』にいなければ価値をつくり出せないわけではない」と小山。リモートでの会議や観戦が一般化したことで、パンデミック前は思いもしなかった形でアジアと「J」がつながるかもしれない。現状の逆風下でも、アジアはJリーグにとって「奇貨居くべし」といえる分野であり続けそうだ。=敬称略

(岸名章友)

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