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「歴史から未来を予測する」 世界的な投資家の思考法

日経ビジネス電子版

日経ビジネスの取材に対し、2019年時点で「20年にもリーマン・ショックを超える経済危機が到来する」と予言していた世界的な投資家のジム・ロジャーズ氏。5月25日に日経BPから出版した新刊『危機の時代 伝説の投資家が語る経済とマネーの未来』では、大恐慌からブラックマンデー、リーマン・ショック、新型コロナウイルスまで歴史を振り返りつつ、繰り返される危機の本質とどのように行動すべきかを詳細に読み解いている。

今回はロジャーズ氏と、世界的な投資家で世界最大級のヘッジファンドである米ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏の言葉から「歴史から未来を予測する」思考法に迫る。

グローバルな新型コロナウイルスの感染拡大が続く「危機の時代」の中で、世界的な投資家たちは歴史から得られる教訓を投資にどう生かそうとしているのか。著名な投資家たちが1929年から始まった大恐慌とその後に起きたポピュリズムの台頭、第2次世界大戦に注目していることを以前、紹介した。今回はジム・ロジャーズ氏とレイ・ダリオ氏の言葉から、歴史に学ぶことがなぜ投資に役立つのかを考えたい。

最初に指摘したいのが、ロジャーズ氏とダリオ氏には共通点が多いことだ。共にヘッジファンドの創業者であり、「グローバル・マクロ」という運用手法を得意としてきた。グローバル・マクロとは世界各国の政治経済や金融市場のマクロ的な観点による分析に基づき、為替や商品、株式、債券などさまざまな金融商品を売り買いする手法を指す。

ロジャーズ氏は米投資家のジョージ・ソロス氏と共同で73年にクォンタム・ファンドを立ち上げ、10年で40倍以上のリターンを生んだことで知られている。

その後、ロジャーズ氏はいったん引退して、世界中を旅行しながら投資を続ける「冒険投資家」になり、さらに米コロンビア大学のビジネススクールで教えたりした後に、2007年にシンガポールに移住。今でもグローバルに投資を続けている。

一方のダリオ氏は1975年にブリッジウォーターを立ち上げ、最初はさまざまな失敗を経験するも、最小のリスクで最大のリターンを上げるための「アルファ・オーバーレイ」という投資アプローチを開発。実績を積んで顧客を拡大し、2020年4月時点で約1380億ドル(約15兆円)という巨額の運用資産を持つヘッジファンドに成長させている。

注目すべきなのは2人とも金融危機の際の投資で実績を残していることだ。ロジャーズ氏もダリオ氏も1987年10月に起きた「ブラックマンデー」と呼ばれる世界的な株価暴落を予測して、大きな利益を上げた。

株価暴落は予想よりもはるかに残酷だった

新刊『危機の時代』の中でロジャーズ氏はこう述べている。「私は、ブラックマンデーのかなり前から、株式市場はあまりにも過熱しており、暴落する日は近いと考えていた。実際に私がメディアでそう発言しているのを見て、『ジム・ロジャーズはおかしくなった』と人々は思ったことだろう。その時点で株価は高値を更新し続けていたからだ。だが、実際にブラックマンデーの日に起きた株価の暴落は、私が予想していたよりも、はるかに残酷だった」

ニューヨーク証券取引所のダウ工業株30種平均はたった1日で実に508ドルも下落。それは率にして22.6%という歴史に残る下落幅となった。大恐慌の引き金となった29年10月のブラックサーズデー(暗黒の木曜日)の下落率は12.8%で、それを大きく上回るものだった。だが事前に暴落を予見していたロジャーズ氏は、ブラックマンデーで大幅な利益を上げることができたという。

ダリオ氏も同じく株式市場に異常なバブルが起きていると考え、暴落を予想して、株式をショート(空売り)することで、ブラックマンデーの際に多くの利益を上げた。ダリオ氏率いるブリッジウォーターは「10月の英雄」と呼ばれたほどだった。

さらに2008年に「リーマン・ショック」が起きる前にも、2人とも金融危機が起きることを事前に予想して警告を発していた。

ダリオ氏は著書『PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則』(日本経済新聞出版)でこう述べていた。「2000年代のはじめ、システムに『不況基準』を採り入れた。債務危機や不況のリスクが高まることを示す事象が起こり出したら、どういう行動をとるべきかを特定したものだった。2007年、この基準が、債務バブルは崩壊寸前にきていることを示した。債務借入コストが予測キャッシュフローを上回ったのだ」

危機が起きることを事前に察知していたため、ブリッジウォーターはリーマン・ショックで株価暴落が起きてもプラスの投資収益を確保することができたという。

実はロジャーズ氏もダリオ氏も、今回の新型コロナウイルスの感染拡大が経済危機に発展する不安が世界で高まるかなり前から、リーマン・ショックを超えるような「深刻な経済危機が近づいている」と警告していた。

経済危機の兆しはそこかしこに見えていた

その理由は、リーマン・ショック時をはるかに上回る規模にまで世界中で借金が膨れ上がっていたからだ。19年7月の筆者の取材に対し、ロジャーズ氏はこう語っていた。「国家、金融機関、一般企業、家計などあらゆるセクターで債務が膨れ上がっており、いったんはじけるとリーマン・ショックをはるかに上回る経済危機が起きるだろう。インドの不良債権問題や、アルゼンチンのデフォルト(債務不履行)懸念、ラトビアの銀行破綻など、経済危機の兆しはそこかしこに見えている」

ダリオ氏も膨れ上がる一方の債務が経済危機を引き起こすリスクがあると、繰り返し警鐘を鳴らしてきた。18年に出版した著書『Big Debt Crises(巨大債務危機)』では、さまざまな先進国や新興国で過去に起きた債務危機の48にも及ぶ事例を分析していた。

歴史に学ぶことで、世界がどう動くのか予測しようとする執念には驚くばかりだ。ダリオ氏が現在執筆中の新刊『The Changing World Order(変わりゆく世界秩序)』では、過去500年間に世界的覇権を握った国家の繁栄と衰退の歴史を、経済、社会、政治を含めた壮大な視点から読み解こうとしている。

同書では世界的な準備通貨(基軸通貨)を手中に収めたオランダと英国がいかに繁栄して衰退したのかを詳細に分析。そのうえで、20世紀に同様の覇権を確立した米国が成熟期を迎えて、衰退に向かう可能性を指摘する。そして次の覇権国は中国になる可能性が高いとダリオ氏は主張する。

「私の人生で初めて、米国は(強い)競争相手に遭遇している。中国はさまざまな面で米国のライバルとなっており、米国よりも速い速度で成長している。この傾向が続くなら、米国よりも強くなるだろう」(ダリオ氏)

ロジャーズ氏も『危機の時代』でこう述べていた。「米国の繁栄はピークに達し、衰退していくだろう。誰かがそれに取って代わる。それは中国になると私は思っている」「中国を除いて、かつての英国や現在の米国のような覇権国になる可能性を持つ国は存在しない。16世紀のスペインのようになれる国はほかにない」

米国が恐れる中国が覇権を握るシナリオ

実はダリオ氏は、ロジャーズ氏と同じ1984年に中国を訪れていた。その際に同国が成長する可能性に強いインスピレーションを感じ、資本主義的な金融の仕組みを導入する手助けをしてきたという。ダリオ氏も、ロジャーズ氏と同様に、自分の子供に中国語を学ばせている。

もちろん中国が覇権を握るというシナリオは、米国が一番恐れているものだ。だからこそ米トランプ政権は中国への批判を強めており、貿易戦争をしかけ、中国の通信機器メーカー大手のファーウェイを排除しようとしている。日本も、台頭する中国に対する警戒感を強めており、このようなシナリオは受け入れがたいと感じている日本人も少なくないことだろう。それでもロジャーズ氏とダリオ氏は、好むと好まざるとにかかわらず、中国が次の覇権を握る可能性が高いとみているようだ。

しかしながら新興勢力による覇権国への挑戦はしばしば戦争につながってきた。ドイツと日本が起こした戦争は、両国にとり破滅的な結果になっただけでなく、連合国側にも莫大な数の死傷者が出た。だからこそロジャーズ氏は、貿易戦争などで緊張感が高まっている米中は、対話によって問題を解決すべきだと主張する。

最後に長い歴史を振り返ることで、現在起きている事象を理解し、将来を予測しようとする世界的な投資家の思考法に触れたい。

ロジャーズ氏は『危機の時代』でこう語っている。「私が歴史を好きなのは、そこからさまざまな教訓が得られるからだ。世界はどんどん変化するが、人間の本質は変わらない。同じような行動が常に繰り返されていることを、あなたは知ることができる」。膨大な読書などを通じて歴史を学び、さまざまな過去の出来事と、その時に人々がどのように行動したのかに注目して、将来何が起きるかを予測しているという。 

さらにロジャーズ氏は、「冒険投資家」として世界中を何度も旅して回るなど、自分自身の目で現地を見ることを大事にしている。現地の政府関係者や金融を含む企業の経営幹部と直接会い、地元の住民とも交流して、世界で何が起きているのかを肌感覚で知ることが、投資に役立つと考えている。

「社会の常識とは異なる世界の見方が大事」

とりわけロジャーズ氏は、「多数派の意見や社会の常識とは異なる形で世界を見ることが重要だ」と主張する。米国人でありながらも、欧米の見方に偏っておらず、中国やロシアが発信する情報も積極的に集めて分析し、自分の経験と歴史観に基づいて、ものごとを考えている。世の中の多くの人と異なる視点で現実を捉えることが、新しい投資チャンスの発見につながると信じている。

一方のダリオ氏も、長い歴史において、世界各国で起きた経済、社会、政治の変化を、さまざまなデータを駆使して詳細に分析することで、将来を予測しようとしている。

執筆中の書籍では「世界秩序は現在、歴史の中で何度も起きたような形で急速に変化している。私の目的は、それらの事例とそれらを駆り立てたメカニズムを提示し、その視点で未来を予想することだ」と述べていた。

ダリオ氏のアプローチは、数百年にわたって、あらゆる主要国で起きた大きな経済と市場の動きを理解しようとする実に野心的なものだ。個人投資家がまねるのは到底難しいが、巨大ヘッジファンドの創業者であるダリオ氏は、自社の調査チームの力も借りて、このプロジェクトに取り組んできた。

「短期間で投資判断を下さなければならない投資運用会社が長期的な歴史に注意を払うのは奇妙に思えるかもしれないが、私の経験からは(投資という)仕事をうまくこなすには歴史の視点が欠かせない」。ダリオ氏はこう言い切る。

「歴史から未来を予測しよう」とするロジャーズ氏とダリオ氏の情熱は、とどまるところを知らない。

(日経ビジネス 山崎良兵)

[日経ビジネス電子版 2020年7月15日の記事を再構成]

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