利水ダム、事前の放流難しく 球磨川で想定外雨量

2020/8/4 20:26 (2020/8/5 6:22更新)
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豪雨で流失した熊本県球磨村の球磨川に架かる橋(4日午前)=共同

豪雨で流失した熊本県球磨村の球磨川に架かる橋(4日午前)=共同

九州などを襲った7月の豪雨で、農業用などの「利水ダム」が初めて本格的に洪水対策で使われた。大雨が降る前に容量を確保しておくため、33基が事前放流を実施したが、被害が大きかった球磨川水系(熊本県)では想定外の雨量に実施が間に合わなかった。国土交通省は課題を検証する。

7月4日未明に大雨特別警報が出た球磨川上流。流域最大で利水と治水機能を併せ持つ多目的ダム「市房ダム」(熊本県水上村)など、6基のダムは河川を管理する国交省と「洪水の恐れがある場合に利水用の水も事前放流する」ことで合意していたが、実際には行われなかった。

京都大の角哲也教授(水工水理学)らの分析によると、市房ダムは3日午後以降、事前放流の前段階の「予備放流」によって降雨103ミリ分の容量を確保したが、実際の雨量は1日で約420ミリと想定を大きく上回った。4日午前11時ごろにほぼ満水状態になり、放水量の調節が追いつかずに流入量と同量を放流する「緊急放流」の開始判断まで一時、残り約10センチに迫った。

事前放流できていても貯水容量の増加分は200万立方メートルほどで、今回の豪雨による氾濫を抑えるには遠く及ばなかった。角教授は「市房ダムはぎりぎりまで水をためて被害の拡大を食い止めた」と評価しつつ「ダムの利水容量を活用するうえで課題も浮かんだ」と話す。

ダムには(1)洪水を防ぐ治水ダム(2)農業や発電用の利水ダム(3)両方の機能を持つ多目的ダム――の3種類がある。政府は河川氾濫が多発した2019年10月の台風19号を受け、利水ダムや多目的ダムの利水機能を治水対策に活用する方針を決めた。利水ダムは全国に898基、治水ダムと多目的ダムは計562基ある。

利水ダムは水不足や経済的損失の恐れから、従来は事前放流を実施していなかったが、国交省は全国109の1級水系にある利水・多目的ダムの管理者らと協定を結び、従来の2倍の91億立方メートルの洪水対策容量を確保。洪水が予測された際、空き容量をあらかじめ確保する目的で事前放流を行えるようにした。利水事業者に損失が生じた場合は国費で補填する。

今回の豪雨でも7月4日以降、岐阜県や長野県などの計33基の利水・多目的ダムで事前放流を実施した。一方で、球磨川水系で甚大な被害が出た豪雨初期に実施されなかった最大の原因は、想定を上回る雨量にあった。

前もって接近や上陸を予測しやすい台風と異なり、今回のように「線状降水帯」を伴う豪雨は雨量の予測が難しい。国のガイドラインが事前放流の実施判断を3日前からとしているのに対し、球磨川水系で大雨が予測されたのは前日夜だった。

構造的な問題もあった。治水を本来の目的としていない利水ダムの放流管は治水ダムが備える洪水調整用の管より細く、治水ダムと比べて放流に時間がかかる。国のガイドラインが事前放流の判断を3日前としているのもそのためだ。

角教授は「大雨の予測精度の向上に加えて、低い水位で放流できるダムに改造し、流域ごとに洪水調節効果が高い利水ダムを選び出すなど、集中的に運用の高度化を図る必要がある」と指摘する。

国交省水管理・国土保全局の担当者は「予想が難しい豪雨でダム活用は避難までの時間を稼ぐ効果はあるが、限界も見えた。今後の課題として検証する」としている。

政府は人工知能(AI)を活用し、降雨量やダムへの流入量の高精度な予測システムの開発も進める考えだ。

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