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三塁打こそプロの売り ギリギリの勝負生む魅力

編集委員 篠山正幸

楽天の新人、24歳の小深田大翔(こぶかた・ひろと)の胸のすくような走りに、長嶋茂雄さん(巨人)の言葉を思い出した。「プロとしての売り物は三塁打と考えていた」(自著『野球は人生そのものだ』)。走攻守にスピードを競う野球の本質を表す三塁打の魅力を再考したい。

楽天の小深田は入団1年目ながら俊足を生かして活躍している=共同

7月30日、ロッテ戦の七回。唐川侑己の9球目をたたいた小深田の打球は右翼手、レオネス・マーティンの頭上を襲って、フェンスを直撃した。快足を飛ばした小深田は二塁で止まる気配はなく、加速する。三塁を取る、という殺気を帯びた走りに、スタンドがどよめいた。

強肩のマーティンが必死の送球を試みるが、一足先に小深田は流麗なスライディングで三塁に到達していた。

唐川がモーションを起こしてから13秒あまり。ランニングホーマーや、送球ミスが相次いで球が行ったり来たり、という特殊な場合を除き、一連のプレーとしてはもっとも長い時間楽しめる三塁打。その魅力が詰まったシーンだった。

少々深追いしたマーティンがフェンスに近づきすぎて、クッションボールの処理に手間取ったが、捕球できそうな打球だったから、これは致し方ない。

究極のスピード勝負

ランニングホーマーには記録に表れないミスがからんでいるケースが多く、本塁でクロスプレーになることはまずない。一方、三塁打は攻守、お互いにギリギリの勝負をして生まれるものがほとんどだ。そこに究極のスピード勝負のドラマが生まれる。

小深田にとっては初の三塁打だった。プロ初安打や初本塁打と違ってあまり話題にはならないが、屈指のスピードスターになりうる小深田のような選手の場合、記念すべき1本目として覚えておいてもいいだろう。

長嶋さんは冒頭に引用した著書で、三塁打の魅力についてこう語っている。

「つねに全力疾走でようやく達成できるもの。クロスプレーが一番観客をはらはらどきどき楽しませる」

この文章は長嶋さんのルーキーイヤーの「一塁ベース踏み忘れ事件」という有名な逸話について回顧した一節にある。

遊撃頭上にライナー性の打球を放ち「三塁打だ」と決め込んだ長嶋さんは一塁、二塁を猛然と駆け抜ける。ところが打球はそのままスタンドインしていた。走りに没頭するあまり、一塁を踏み忘れ、本塁打は幻になった。

この年、29本塁打をマークした長嶋さん。この踏み忘れがなければ、新人でトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁以上)を達成していたのだから痛恨だったが、それくらい三塁打に夢中になっていた、といえるかもしれない。

プロ初安打の表示の前でポーズをとる小深田。球界屈指のスピードスターになれる選手だ=共同

小深田の走りは、そんな三塁打の魅力を思い出させてくれた。二塁手前あたりで「行くぞ」という決意が明らかになる。おお、勝負するか……と、スタンドもドキドキしながら、走者と返球の鬼ごっこの行方に見入る。その興奮は他のどんなプレーにもたぐいのないものだ。

今、三塁打を打ってもっともサマになる打者の一人が、エンゼルス・大谷翔平だ。二塁を蹴ってから三塁に到達するまでのスピードとストライドの大きさ。速いというだけでなく、スケールがでかく、しかも優美で、ある種の猛きん類が獲物を狙って急降下するときの機能美を備えた舞いを連想させるものがある。

「三塁打王」はイチローさん

日本人の三塁打ナンバーワンは日米通算ではイチローさん(オリックス、マリナーズなど)の119本。日本のプロ野球記録は福本豊さん(阪急=現オリックス)の115本。

2016年、イチローさんがメジャー通算3000安打を達成したときの節目の安打は三塁打で、これが日米通算116本目だった。

「そうでしたか。(通算三塁打の日本記録保持者は)福本さんでしたよね。ごめんなさいとしか言えない」と、オリックスの大先輩の記録を破ったことを、ちゃめっ気たっぷりに話していたものだった。

三塁打の歴代最多記録を持つのはイチローさん。日米通算で119本の三塁打を放っている=共同

日本の三塁打王、福本さんにも、当然ながら一家言ある。福本さんによれば、三塁打を生むのは打力、脚力もさることながら、先の塁を奪おうという「意思」だ。

「今の選手は、ほとんど二塁から三塁を狙いませんね。(中略)送球と競争してカツカツで滑り込む三塁打が一番おもしろいのに、よほどのことがない限り挑戦しようともせん(中略)打者走者に行く気さえあれば、もっともっと三塁打は増えますよ」(自著『走らんかい!』)

プロ野球の記録をみると、通算三塁打10傑は福本さんを含め、みんな昭和までに現役を終えた選手ばかりだ。

三塁打もパ高セ低、実力差を反映?

一昨年、14個というこの10年では両リーグ最多の三塁打をマークしたソフトバンク・上林誠知や、2度の三塁打王に輝いている広島・田中広輔らには一層頑張ってもらいたいし、小深田や西武の俊足の新星、鈴木将平らも憤死を恐れず、チャレンジしてもらいたい。

三塁打について気になるデータがある。この20年のセ・パ両リーグの三塁打数をみると、127個で同数だった2010年を除き、全部パ・リーグが上回っているのだ。

広い球場の多いパ・リーグに対して、セ・リーグの球場は相対的に狭く、三塁打の数に影響していると考えられる。これは「外部環境」の違いであって、どうしようもないことだが、三塁打を狙える条件があれば、福本さんのいう「行く気」になる選手も結果的に増えるだろうし、それを防ごうとする守備側のスキルも磨かれることになる。

三塁打を巡る攻防が、交流戦や日本シリーズにみえる近年のパ・リーグ優位の一因になっている、といっては速断に過ぎるだろうが、興味深い符合ではある。

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