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ガツンとやられた大谷 フォーム変更へ意味ある30球
スポーツライター 丹羽政善

2020/8/3 3:00
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7月26日のアスレチックス戦に先発し、一死も取れずに降板する大谷=AP

7月26日のアスレチックス戦に先発し、一死も取れずに降板する大谷=AP

無観客とはいえ、これまでの試合の声援音声を球場の各スピーカーから流すので目を閉じれば、なんとなく大リーグの試合っぽい。しかし、いったん目を開けると、異様な光景が広がる。テレビで見ると客が入っているようにも映るが、人型に切り取られたカードボードがフィールドを見つめている。

それでも、キャッチャーミットの乾いた音が聞こえ、芯で捉えたときの打球音はなかなか新鮮。ダッグアウトからは「入ってるじゃないか!」という主審に向けた抗議が、たびたび響く。

そんな中で大谷翔平(エンゼルス)がマウンドに上がったのは、7月26日のこと。オークランドの空は青く澄み渡り、夏の日差しが、降り注いでいた。

無観客のスタンドに置かれた人型のボード

無観客のスタンドに置かれた人型のボード

チームメートの声援を背にゆっくりとマウンドへ向かい、投球練習を始めたのが午後1時23分。ところが、20分後にはもう同じ道を引き返す。一つもアウトを取れずに――。

先頭打者にヒットを許した後、3連続四球で押し出し。さらに連続タイムリーを浴び、そこでジョー・マドン監督がダッグアウトを出ると、大谷はあっけなくマウンドを譲った。

693日ぶりの登板は、じっくり咀嚼(そしゃく)する間もなく、わずか30球で幕。「手応えを感じる前にというか、その段階で終わったなぁという感じ。体的にも疲れる前に終わった」と大谷。「今日には一応、合わせてはいましたけど……」

試合後、当然ながら不安視する声が反響したが、思い返せば、2018年のオープン戦もひどいものだった。

2月24日に初登板。このとき、2イニング、30球が目安だったが、二回1死、31球でマウンドを降りている。内容は2安打2失点。最初はこんなものだろう、という評価だったが、3月16日のロッキーズ戦では1回1/3を投げて、2本塁打を含む、7安打7失点と散々。その時点でBゲーム(練習試合)も含めた4試合の成績は8回1/3を投げて19安打17失点(自責点16)。メジャーの25人枠に残れる自信はあるのか? マイナースタートの可能性も考えているのか? そうした声が、本人にぶつけられるようになった。

■本人も認めるスロースターター

当時、打者としても調子が上がらず、デビュー戦こそ1打数1安打、2四球だったが、その後、パタリと当たりが止まり、打率はたびたび1割を切った。改めて客観的に考えると、よくこんな選手が、開幕のスタメンに名を連ね、開幕ローテーションにも入ったと思うが、その後の活躍は知られる通り。もはや18年のキャンプの低迷など、「あぁ、そんなこともあった」という程度である。

スロースターターであることは、大谷本人も認めるところ。「例年、春先は良くないですね。日本のときからそうですけど。その中で徐々にこう良くなっていくパターンかな、というのはいつもそう」

今回、そこにトミー・ジョン手術(肘内側副靱帯再建術)とそれに伴う2年近いブランクが加わったのだから、一死も取れずに降板するとはさすがに予想できなかったが、ある程度荒れるのは、想定されていたこと。また、懸念につながる要素は、それだけではなかった。

このコラムでも度々触れてきたが、大谷はリハビリを通して、フォームを変更した。

靱帯を痛めるまで、大谷のフォームは踏み出した左足がグラウンドに着く直前、ボールを持った右手が肘よりも下にあった。それは内旋位コックアップと呼ばれ、球速が出やすい半面、肘に負担がかかり、故障の原因となりやすい。よって、昨年来、手を早めに上げる外旋位コックアップに取り組んできた。

大谷は手を早めに上げる外旋位コックアップへの投球フォーム変更に取り組んでいる=AP

大谷は手を早めに上げる外旋位コックアップへの投球フォーム変更に取り組んでいる=AP

その変更は、キャンプのブルペンを見る限り動きが自動化され、大谷も「ブルペンのレベルでは意識してできる」と手応えを口にしたものの、一抹の不安も口にしていた。

「バッターに集中したときに、そういうふうなところまで落とし込める練習をする必要はある。試合のレベルで投げるときにも、基本的に緩やかに順序よく加速させていけるかどうか」

■コロナで実戦調整なし、シナリオ狂う

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によりキャンプが中断され、開幕が遅れると、実戦での調整機会を失い、シナリオが狂った。変化の過程を見守ってきたミッキー・キャラウェイ投手コーチも、「(復帰戦では)そのことが影響した」と指摘する。

もちろん、キャンプ中断期間中、大谷はライブBP(実戦形式の投球練習)を行い、紅白戦でも3試合に先発した。「しかし、それらはいずれも味方打者に投げたもの。相手チームの打者に投げるのとでは、まるで違う」とキャラウェイ投手コーチ。彼に言わせれば今回の修正は「数センチ単位のタイミングを合わせる繊細な作業」であり、少し力の加減が変わるだけで、タイミングがずれる。

本来ならオープン戦やマイナーでのリハビリ登板を重ね、頭ではなく体でその感覚を覚えさせたかったところだが、紅白戦からいきなり公式戦へ。人工芝のゴルフ練習場ではいくらいい球が打てても、コースに出れば勝手が違う。そこでしか得られないものは少なくないのだ。

だからこそキャラウェイ投手コーチは、「30球は大きな意味を持つ」と話したが、本来なら4、5試合かけて、ゆっくりとタイミングを合わせていく作業。大谷が意識することなく腕を振れるようになるのはもう少し先か。

今季初登板から4日後の7月30日、ブルペンで投球練習する大谷=共同

今季初登板から4日後の7月30日、ブルペンで投球練習する大谷=共同

ただ、大谷のそうした適応力には定評がある。2年前、キャンプを訪れていた解説者の権藤博氏が、二回途中、7安打7失点で降板したロッキーズ戦の後、こう話したことを思い出した。

「彼はじっくり考え、ジワリジワリと適応していくタイプ。これからですよ」。さらに、続けた。「ガツンとやられたほうが、その分、伸びる」

それは大谷の負けず嫌いな性格を含んでのことだったが、その言葉は今の状況にも当てはまりそう。相当ガツンとやられたが、大谷は何を復帰戦で学んだのか。

高く跳ぶとき、人は膝を曲げて反動をつけるように、大谷は今、じっとを身をかがめ、全身に力をためている。

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