球場が呼んでいる(田尾安志)

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「魔の金曜日」なきパ・リーグの変則6連戦

2020/8/2 3:00
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好不調の波は必ずといっていいほど訪れるもので、調子の良い状態がシーズン終盤まで続くことはまずない。中日での現役時代、4月に打率4割5分をマークして月間最優秀選手(MVP)に選ばれたものの、5月は一転して1割台と不調に陥ったことがあった。おおむね1カ月から1カ月半の周期で好調と不調の時期が巡ってくるというのが、自分の経験から導いた法則である。

7月だけで打率4割3分3厘をマークしたソフトバンク・柳田。8月も好調は続くか=共同

7月だけで打率4割3分3厘をマークしたソフトバンク・柳田。8月も好調は続くか=共同

好調な打者が調子を落とす理由に、よく相手バッテリーのマークが厳しくなることが挙げられる。執拗なまでの内角攻めで上体を起こされ、踏み込みが甘くなったところで外角の落ちる球で仕留められるという具合。一理あるが、打てなくなる一番の原因は肉体疲労にあると考える。疲れがたまることで始動や反応がわずかに遅れ、それまでバットの芯で捉えていたのが詰まるように。ミートポイントを前に置いて補おうとすると変化球に体が泳がされ、やがて打撃全体が崩れていく。

リフレッシュの重要性知った現役時代

原因が他者でなく自分にあると気付いてからは、いかに体をリフレッシュするかに意識が向くようになった。そこでお世話になったのが小山田秀雄さん。深刻なアキレス腱(けん)痛に悩んでいた谷沢健一さんの足に日本酒をかけてマッサージし、見事に痛みを消し去ってみせた伝説の治療家だ。

日本酒を飲んだり、患部にかけたりする理由を小山田さんが話したことがある。例えば死球を受けた所が鬱血すれば、「ちょっとお酒を飲んで脈拍を高めて、血行を良くすると治りが早い」。手技も本当にうまく、私も小山田さんの「神の手」によってスランプから抜け出したことが何度もあった。

練習を控えることも一つのリフレッシュとしてプラスに働くことがあった。やはり中日時代の夏、ストレッチングをしていると、ふざけた先輩選手に上から体を押されて腰を痛めた。あまりの痛みに打撃練習ができず、シートノックにも参加できない。かろうじてできたのが、至近距離から軽く投げてもらった球をちょこんと当てて返すトスバッティング(ペッパー)だけ。こうして行き当たりばったりで試合に出る日が続いた。

ところが、この故障していた約1カ月間に打率が2割8分から3割1分にアップ。満足に腰を回せないからと流し打ちに特化したことが奏功した。まさにけがの功名。夏場に練習を控えて結果が出ることもある、と知ったのも収穫だった。

それほどまでに腰の状態が悪くても試合に出続けたのは、そういう時代だったからだ。痛くて走れなかったとしても、歩ければなんとかなると思っていた。一度でも試合を休めば他の選手にポジションを奪われるかもしれない。そういう危機感もあったので、自分から「出られません」とは絶対に言わなかった。

6連戦、ありがたい移動の負担軽減

今季のパ・リーグは新型コロナウイルスの感染防止へ、同一チームとの対戦を通常の3連戦から6連戦に拡大し、地域間の移動回数を減らす対策を取った。これは選手にとっては負担が少なく、ありがたい措置だ。常に鍛えているプロとはいえ、頻繁に移動があるとさすがに疲れがたまる。3連戦方式だと、基本的に火曜から木曜まで同じ場所で戦い、金曜は別の地域に移動してそのまま夜に試合。翌日の土曜は朝から準備してデーゲームを戦う。この金曜と土曜が実にしんどい。

西武時代の話。木曜に福岡の平和台球場でナイターを戦った翌日、埼玉・所沢の西武球場で試合が組まれていた。飛行機で福岡から羽田に戻り、そこからバスで所沢に向けて出発したのだが、高速道路で大渋滞に巻き込まれた。気がせく中で皆、車中で弁当を食べ、4時間ほどかけてようやく球場に到着。ろくに練習もできずに試合をした記憶がある。今も長時間、バスに揺られて本拠地に着き、そのまま練習、試合とこなさなければならない西武の選手はよくやっていると思う。

羽田から長時間のバス移動を強いられる西武の選手はよくやっている=共同

羽田から長時間のバス移動を強いられる西武の選手はよくやっている=共同

同一チームとの対戦が6連戦なら、移動と試合がセットだった金曜に移動がなくなり、腰を据えて試合の準備ができる。ベテランに休養を取らせる必要性が薄くなり、チームの戦いでもプラスになる。

一方、6日連続で同じ相手と戦うことで割を食うのが中継ぎ陣だろう。3連戦ならせいぜい1、2度の登板で済むはずが、6連戦だと試合展開によっては4度も5度も投げる投手が出てくる。登板のたびに配球パターンを変えたいところだが、先発より持ち球の種類が少ない中継ぎ投手には限度がある。今季、終盤に救援陣が打ち込まれて試合をひっくり返されるケースが目立つ背景にはこういう事情もあるのかもしれない。逆に野手の中には、同じ投手との対戦が増えて配球の傾向が読みやすくなるメリットを享受している選手がいるだろう。

パの6連戦方式は8月23日で終わり、25日からは通常の3連戦に戻る。配球パターンが袋小路に陥っていた中継ぎ投手が復調できるか、移動と試合がセットの「魔の金曜日」が復活することで野手の調子はどうなるか。日程パターンの変化が新たな好不調の波を起こすかもしれない。

(野球評論家)

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